07. VSスケルトン
とりあえず距離を取る。ホウキを両手で持って前に構えて、無闇に突進されないようにする。……というか、それ以上はどうすればいいか分からない。ナタはうちの後ろだし、今から取りに行って戦うのはたぶん無理。
それに、あんなバランス悪そうな武器をあのスピードで投げられるなら、素手で殴られたって相当ヤバそう。骨にカッターもハサミも効かないだろうから、頼みの綱はホウキでの打撃のみ、かな……どうにか転ばせてさっきみたいに踏みつける、という手もあるけど、その為に距離を詰めるっていうのは、ちょっと現実的じゃない気がする。
──カツン。
煙が離れたスケルトンは、またうちの方へ近付いてくる。
手にしたホウキが、ちょっと頼りない。重さもバランスも全然武器って感じじゃないけど、今はこれしかない。
スケルトンとの距離は……五メートルあるかないか。それもどんどん近付いてる。でも、スケルトンが近付いて来るや否や、煙があいつの足元にふわふわ広がって、じわじわ動きを鈍らせてるように見えた。
時間がかかればかかるほどこっちが不利。それなら、煙が援護してくれている、今が一番のチャンス……!
「ありがと、煙……!」
もちろん返事なんてない。けどこの独り言じみた言葉で、自分を奮い立たせることが出来る気がした。
「おらぁあああっ!!」
踏み込んで、足に力を込める。そして思いきりホウキを振る。道具を使ったスポーツとかやった事が無いこともろ分かりの、ただの全力の横振り。
──ガキィン!!
手に凄まじい衝撃が響く。でも、スケルトンの頭がぶれた!確かに効いてる。倒せなきゃこっちが死ぬ!
「もういっちょぉおお!」
続けて足元の膝関節っぽいところを狙って振り抜く。ギシッと嫌な音。骨の手がこちらに伸ばされるのを見ながら、もう一度足に一発!
──ガシャァァァァン!
バランスを崩したスケルトンが、派手に倒れる。その大きな音と“敵”を倒すチャンス、二つの意味で心臓が大きく跳ねる。今ッ!
「とどめをっ!くらえぇええ!!」
気合と一緒に振り下ろす。狙いは、あの不気味に光る眼窩の奥……頭!
──ガンッ!ガンッ!ガッ……ピシ、
一度殴っても倒れない。二度目、三度目と頭に向かって、骨を殴った衝撃でもうほとんど力の入らない手の中にあるホウキで殴りつける。そして四度目を振りかぶった時……骨の目の奥で揺れてた光が、ふっと消えた。
スケルトンは動かない。完全に、止まった。
「……っ、は、はぁ……」
息が荒くて、手がしびれる。膝が笑って、全身の力が抜けそうになる。でも、スケルトンは、もう立ち上がってこない。その事実が、うちの心のどこかを激しく揺さぶった。
「……っしゃぁあああああ!!!」
気付けば思わず、叫んでいた。声に出さずにはいられなかった。叫んだ勢いのままへたりこんで、ホウキだってもう握っていられなくて、安堵と興奮で息をするのに失敗して咳き込む。
「あ、そうだ。腕……」
傷の具合を確かめようと、左腕を見る。真っ赤に染まっていた袖を捲って……驚いた。
だくだくと出血するほどの傷だったはずなのに、見れば、うっすら赤く線が残ってるだけ。
「治っ…てる?」
視線を煙に向ける。スケルトンが倒れた事で、足止めをしていた煙はうちの左手首付近……つまりブレスレットの辺りでふわふわと漂っていた。何も言わないどころか、意思疎通も難しい。でも、さっきも戦闘中に痛みが和らいだ瞬間があった。最初にスケルトンに驚いて動けなかったうちの前に出て、スケルトンの視界を塞いでくれた。戦う覚悟をした後も、距離が詰められないように妨害をしてくれていた。
視線に気づいたのか、煙がうちの顔のすぐそばにふわふわと漂ってくる。ただの黒い煙にしか見えないけど、さっきから何度も、助けてくれた。
「……あんた、すごいよ」
感謝の気持ちをこめて小さく呟く。返事はない。でも、ただの煙じゃないってことは、もう分かってた。
名前は、まだつけない。今はちょっと、そういう気分じゃない。
でも──
「……ありがと、煙」
さっきまでの震えが、少しだけおさまった気がした。
(今更な気もしますが、各話)最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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