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03. 空央西高校ダンジョン、発生

 真っ赤な空のヒビ割れた先は黒い。あれは、一体なんなんだろう。もしかして、夢でも見てるのかな。数学の授業じゃ寝ちゃダメだって、思ってたのに。


「みんな!非常持ち出し袋を持って!直ぐにグラウンドに避難するよ!」


その声で、またしても我に返る。いつもは聞きたくない甲高い声だが、今日はその声に安心した。まだ涙の滲んだままだった目元をぐしぐしと拭う。夢だったらいい。けど、夢じゃないなら逃げないと。


「非常口に急いで!落ち着いて行動して!」


運が良かったのか、地震で歪んでいなかったらしい教室のスライド式のドアをガラガラと押し開けたタダ先の言葉にはいつも反発していたのに、今は逆らう気にはなれない。普段は文句しか出なくて、友達と悪口を言うのが日常茶飯事の、大嫌いな先生だった筈なのに。この場で誰よりも、頼りになる人だと思った。自分の都合がいい考えに腹が立つけど、自己嫌悪は、今じゃない。

 廊下に出ていくタダ先をぼうとしたまま見送って、言われた通りに机の横にかけてある非常持ち出し袋に手を伸ばす。


「みゆー、運動場って、大丈夫なんかな。津波とか…」

「いや、彩乃、空見た?絶対これ普通じゃないでしょ」

「いや、そうじゃなくってぇ」


非常持ち出し袋を掴んで近くにやって来た彩乃と話しながらも、非常持ち出し袋に引き出しに突っ込んでいた昼に食べてなかった菓子パンと飲みかけのお茶の入ったペットボトルを突っ込んで、スカートのポケットにスマホを入れる。こんな状態でも緊張感ってものが無いらしい、クラスの中でも特に仲の良い友人二人の内の一人である彩乃…遠山彩乃の言葉に呆れながらも、非常持ち出し袋の口を閉じ、ナップサックに近い形にして背負う。

 緊張感の無い彩乃に触発され少し落ち着いたうちらと違い、クラス内は未だにパニックに包まれている。啜り泣く女子の声、タダ先の言葉を聞いて机を蹴り転がして廊下に飛び出す男子。少しだけ冷静になったからこそ、この現実味のない光景にまたしても恐怖がぶり返して来そうになるのを、頭を振って考えない様にする。


「…てか彩乃、中山は?」

「透?なんで?」

「いや、彼氏じゃん。うちの心配してくれるのは超助かるけど、中山の心配もしてやんなよ」

「いやぁ、だってこういう状況で一緒に動くカップルって、モロ死亡フラグじゃない?

…それに、透もういないし」


彩乃はこんな時に、いや、こんな時だからこそかもしれないけど、そんな風に言って茶化してくる。続いた言葉に釣られて教室を見渡すが、既に教室に中山は見えない。机を蹴り転がして廊下に飛び出した男子の中に、どうやら中山も含まれていたらしい。彼女を置いていって!と言いたくなるが、こんな状況じゃ文句も言いにくい。


「のの花も大丈夫だと良いけどぉ」

「保健室だし、ここより早く避難できるでしょ。それよりうちらも早く避難を…」

「ねぇ、なんで先生、戻ってきてくれないのかな」


そこまで仲は良くないけど、喋りはする程度の友達である、坂田優花の声が教室に響く。独り言が思ったより大きな声で出てしまったようで、彼女は何処か気まずそうな顔で視線をうろつかせた。


「いや、だって、みんなの声も聞こえないし…ふつう、待っててくれるよね。こういうのって、点呼とか、取るんじゃないっけ」


避難訓練は、そうだったよね。続く彼女の言葉に、まだ教室に残っていたうちと彩乃を含めて二十人ほどのクラスメイト達の中に、確かに、という空気感が流れる。うちら普通科三年二組の人数は三十一人。つまり、生徒の過半数がクラスに残っている状態で、急かされもせず、こうして喋っていること自体が異常事態だと、皆察してしまった。


「は、早く出よう!もしかして置いてかれちゃったのかも…」「やばいって!」「マジ!?嘘でしょ!」「置いていかないでよ!」「早く行って!」「急いでよ!」


一瞬の沈黙の後、クラスメイトのほぼ全員が怒声や悲鳴を上げながら教室を飛び出す。クラスメイト達と共に教室を出ようとするうちの手を、小柄な彩乃が握って、必死の形相で首を横に振って止める。そのあまりの必死さについ足を止めてしまうと、あっという間にクラスメイトの声は聞こえなくなった。

…あっという間に?この、一瞬で?


「ここ、ダンジョンだよ、美優」


いつもの間延びした声じゃなかった。彩乃は真剣な顔で、うちの手を強く握っていた。良く見れば、彩乃の顔色は青ざめて、うちの手を握る指先は小さく震えていた。


「世界で唯一の、ロシアにある現実反映型異空間ダンジョンの空の写真と、おんなじ…」


赤い空に浮かぶヒビ割れを指さして、彩乃はそう言う。メガネの奥で不安げに揺れる瞳を見て、握ってくれた手を、ただ握り返す事しか出来なかった。


「さっきの地震で津波とかを心配する必要はないって、言いたかったの。もっと大きい声で、言うべきだったのかもしれない。けど、不安を煽るのは良くないかなって、思って…ごめん」

「…彩乃は、悪くないよ」


意味の無い事だと分かっていても、そう言うしか無かった。

 彩乃と仲良くなった切っ掛け。一年前に突然発生したダンジョン、正式名称 高危険異常領域。

 通称だとしても、ダンジョンなんて、ゲームとかで有り触れた、耳馴染みの良い言葉で括っていいものじゃなかった。


 うちらは今、常日頃から鍛えて、銃も持っているような自衛隊員も死ぬ様な、そんな空間にいる。

遠山彩乃(とおやまあやの)…オタク女子。小柄で胸が大きくておっとりしていて庇護欲を唆るので、男子の間で密かに人気がある。二年生の時にダンジョンについて話してから美優とは仲良くなった。


とりあえず書いたところまで。

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