表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

あとがき


 僕はあとがきがどういうものなのかよくわかっていない。作者が勝手に書き始めるのかそれとも誰かにお願いされて書くのか。僕は人生であまり本を読んでこなかったから、あとがきを読む機会もあまりなかった。

 世の中のあとがきが誰のために書かれるのかわからないけれど、このあとがきは僕のためだけに書かれたものである。だから、このあとがきは蛇足でしかない。もし、あなたが本編をよんで満足しているなら、これから先は読まない方がいいと思う。

 

 誰かが青年に言った。

「お前は視野が狭くなっている、自分の考えに固執して現実が見えていない」

 青年は答えた。

「お前は何もわかっていない。視野の問題ではない。俺の視野を360度見えるようにして、地球の裏側のごみ箱の裏まで探したって、お前の言っている選択肢なんて見つかりはしない。俺の視野が狭まっているんじゃない。そもそもそんな選択肢は俺の世界には存在していないんだ」


また別の誰かが言った。

「お前は現実から逃げているだけだ。実際問題、お前は何もしてないじゃないか。ぐうたらぐうたら楽をしているだけだ」

青年は答えた。

「俺は現実から逃げてなどいない。俺は自分が弱いことを知っている。もう何度も経験した。何度も、何もできなかった。そのたびに強くなろうとした。だけど、いい加減、そんな現実逃避はやめたんだ。俺は弱いんだよ。

なあ、お前。俺が弱いって? そんなこと知ってるよ。そんなことは、知ってるんだよ。俺が弱くて、現実に向けて必要なことを毎日やることすらできない。そんなことは何度も起きてきた。お前が見ているのこの一瞬は、俺の人生の中で頭がおかしくなりそうなくらい、何度も、何度も繰り返されてきたんだよ。でもね、お前。お前が言っていることも正しいんだ。俺は今も現実から逃げ続けているだよ。でも、それは変えることはできないんだよ。だって俺は弱いんだから。それでもやりたいことがあるんだ。だったら、もう何かを捨てるしかないじゃないか。弱い人間はすべてを手に入れることはできないんだ。だから、取捨選択するしかないんだよ。

 だから、俺はお前の言う現実を捨てたんだよ。後から現実に飲み込まれたって知るもんか、それが俺の現実なんだ。俺はお前のいう現実から逃げたんじゃない。自分の現実を見るために、いらないものを捨てただけだ。それが未来の自分を追い立てることが分かっていても、そうするほかに道はないんだ」


 誰かが言った。

「理解してもらえないみたいな顔をしているけれど、あなたは何も言わない。言ってくれないと何も伝わらないよ」

 青年は答えた。

「そんなことをいわれても俺には何も言うことはない。俺がやりたいのは夢のようなものなんだ。夢は理解してもらうものじゃない、理解させるものだ。

 俺が何を言えばいいんだ? 口でごちゃごちゃ喋って、達成可能性は極めて低いけど頑張ってますって言えばいいのか。こんなのみじめなだけじゃないか。俺が理解されるときは俺が成し遂げたときだけだ。成し遂げなければ、何もしていないと一緒なんだ。だから、俺はすべての批判に対して何も言うことはないんだ。俺は自分の弱さに向き合い、そして強くなる以外にないんだ。そういう人生を選んだんだ」


 静まり返った夜、スタンドライトに照らされた部屋の中、青年はこたつ机の前に座り、机の上に置かれたA3用紙に目的もなく文字を書き連ねていく。彼は自分の鼓動が速くなっているのを感じた。浅くなった息に気づき、肩で大きく息を吸い呼吸を落ち着かせる。

 青年は考えた。

(俺の根源にあるのは怒りだ。これは何に対する怒りなのだろうか。自分でもよくわからない。だが、これが怒りであることはわかる。そしておそらく、俺のこの怒りは認めてもらえないことに対する怒りだ。それはひどく利己的なものだ。そのことがまた俺の怒りを増幅させ、そしてそれ以上に惨めな気持ちにさせる。それは決まって夜に訪れる。夜は余計なことを考えるんだ)

 そこで青年は思考を止めた。ペンを置き立ち上がる、明かりを消しベッドに入り、目を閉じて眠りについた。


 僕は全部うまくいくようにと願いを込めてつぶやいた。

「アーメン」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ