ある王子の幸せな末路
「ーーア…ザ、ア……アザレア」
懐かしい声に呼ばれ、目を開く。
そこは、小鳥が鳴き、風が優しく流れる穏やかな場所だった。
…僕は確か…
「アザレア」
目の前に、いる人は…?
「…よぞら、さ…?」
僕の、会いたかった人…ずっと、最期まで、思い続けた人…
「夜空さん!!……夜空さん、夜空さん!!!」
起き上がり、そのまま抱き着く。声も、においも、体温も…全て、忘れていたはずのものが流れ込んでくる。
夜空さんだ…夢じゃない?いや、だって僕はもう死んだはずだ。
なら今のこれは?白昼夢…?走馬灯…?なんでもいい。夜空さんが…僕の前に、夜空さんがいる…!
「アザレア…ごめん。連れてってあげられなくて、ごめんな…」
「ほんとですよ!!なんで置いて行ったんですか!!ひどいです!僕ずっと、ずっと寂しかったんですよ!!夜空さんがいなくて、夜空さんが、一人で行っちゃって、いなくなっちゃって…!」
その後も、僕は夜空さんに自分の感情をまくしたてた。怒りも恨みも、悲しさも、悔しさも、全部…そのどれも、夜空さんは相槌を打ちながら聞いてくれた。
口数の少なさが、ただうなずいて話を聞いてくれるこの感じが…何から何まで、懐かしい。
「…僕、魂がない存在だったので…もう二度と、夜空さんには会えないと思っていました。夜空さん、今は旭陽さんとして生きていますし…」
「.…その旭陽が、粋なことしてくれたから。だから、会えたんだと思う」
「粋…?」
「…お前、何回か名義変えて、俺が生きてた頃の話書いたろ?…それに影響受けて、小説家になったんだよ、あいつ」
「…もしかして…」
心底うれしそうな顔をして、彼はうなずく。
「自分と、お前が過ごした日のことを書いたんだ。そのオチで、俺と再会させた」
「え…じゃあ、今僕の前にいる夜空さんは…」
「そうだな。本来なら、物語上で作られた、別の夜空だ。でもお前は…「不思議」であるアザレアは、俺が作り出したも同然のものだった。それから…俺は、最期までお前に呪われていた」
「そ、そうだったんですか…!?」
「最期の最期まで、俺のことを思ってくれていた。って言った方が、正しいな…だから、こうして俺は、お前に惹かれてこにに来られた」
「…じゃあもう、僕はこれから、夜空さんと、ずっと一緒ですが…?生まれ変わるまで…?」
「……それなんだが…」
申し訳なさそうな顔をして、続ける。
「...俺は、旭陽に生まれ変わったわけじゃない…俺はもう、生まれ変われないんだ。呪われすぎて」
「……?じゃ、じゃあ…僕はどうして…?」
「…あいつは、夕飛だ」
「夕飛さん!?」
「俺と夕飛は双子だった。双子は、同じ魂が二つに分かれて生まれる…つまり、だ」
「…僕は、夕飛さんに戻してもらうことも可能だった…と…?」
「…ごめん」
一瞬あっけにとられる。それじゃあ、あの時、夕飛さんに言ってもらえば、僕は…?
「…最低です」
「…ごめん」
「……でも…結果的に、僕は旭陽さんに話を書いてもらわなければ、夜空さんには会えなかったってことですよね…?」
「そうだな...俺も、そこは失念してたけど」
「……なら、ちゃんと生きた甲斐がありました」
「…でも、辛かっただろう?」
「それは…辛かったですよ」
「……晩年にもなったら、もう少し落ち着くかと思ってた……けど」
不意に、顔をあげさせられる。目の前には、最後に見たときよりずいぶん若い…出会った頃そのままの、夜空さんの顔。
「…逆に欲が出た。俺のことを、ずっと思ってほしくなった……ごめん」
何かを答える前に、口をふさがれる。
少し痩せた、柔らかい唇…夜空さんの唇だ。
触れただけで離されたそれがじれったくて、今度は僕から引き寄せる。
「その欲張りは…生きている時にも発揮してほしかったです」
そのまま抱きしめて、キスをして…久しぶりに、恋人同士でしかしないことをした。
そのどれも、何もかもが変わらなくて、当時のままで…
気が付いたら涙が出ていて、それをぬぐって、また笑って…ああ…なんて、幸せなんだろう。
「大丈夫…また目が覚めたら、ここにいるから」
眠りにつく前、優しく頭を撫でられる。その手にすり寄れば、また触れるだけのキスを返してくれる。
「おやすみ、アザレア…愛してる」
ああ…どうか、どうか…この夢が覚めませんように。
ボツになったif展開