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君の"エガオ"を奪うまで If  作者: 夜の塩焼き
原型、正規世界線
6/11

眠り

「ーーあ……」


気が付くと、そこは暗くて冷たい、牢の中だった。

懐かしい、本当は二度と戻りたくなかった、大嫌いな場所…でも、あの千年間に比べれば、これから起こることなんてどうってことはないだろう。

もう、見慣れたあの小屋も、旭陽さんの声も、パトロンさんの突飛な話も、聞くことも、見ることもない。

……ずっと帰りたかった、あの質素なワンルームに戻ることもない。


「……ぅ、あ……ああ……!」


泣くシーンではなかったのに。もっと辛いことは、これから始まるのに…喜びかも悲しみかも分からない謎の涙が、なぜか止まらなかった。


千年と、百年ちょっとぶりの地獄は…慣れることはない。

やっぱり苦しかったし、辛かった。


何度も、痛みに耐えられず悲鳴を上げた。

何度も、助けてほしくて名前を呼んだ。

涙腺が焼き切れるのではないかと思うほど、泣いた。

彼が手入れをしてくれた髪を切られるのが、辛かった。

彼が愛してくれた身体が…心が汚されていくのが辛かった。

最後に重ねた口づけが、欲に上書きされるのが、辛かった。


辛い、辛い、辛い、辛い、辛い、辛い……

ーーどうして、僕がこんな目に


幸せな過去は、絶望に塗りつぶされていく。忘れたくないことだけ、忘れていく。


あの人と、何をしたっけ?あの人に、何を言われたっけ?あの人を…僕は、どうして好きになったんだっけ?

…ああ、でも…これだけは忘れてない…これだけ忘れていなければ…もういい。それ以外は、全部絶望に攫われてもいい。


「一一囚人、何か言い残したいことはあるか?」


松明が揺れる。星のない夜空に、真っ赤な火が揺れる。


ーー赤い、花…僕の花、みたいだ。


「……よ、ぞら…さん…」


つぶれた声帯を震わせ、最期に名前を呼ぶ。理由なんてどうでもいい。これだけ…この気持ちだけ、覚えていればそれでいい…


「ーーあい、してます」


憎しみより、僕の心は…あなたのものでありたい。


「ー一放て!」


足元から、死が迫る。花のような炎が迫る。

麻の服に燃え移り、手足を縛る鎖を熱し、皮膚が収縮し、焼けていく。

激痛なのに、もう声は出ない。もがくこともできない。

いや、もう死を確信している僕は、それにすがることもない。必要ないとわかっているから、こんなに体が動かないのだろう。


これで死んだらまた…あなたに会えるかな…いや、おそらくそれは叶わない。僕には魂がない。僕は「不思議」だから……生き物ではないから…。


最期僕は、どんな顔をしたんだろうか。物語に描かれたように、憎しみに染まっていただろうか。苦しみに歪んでいただうか…。

ーー願わくば、あの時の彼と同じように…笑えていたらいいな。


僕の願望か、真実だったか…それはわからないが、僕を包む炎がいつもより、大きく感じた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





アザレアさんの本を、燃やした。

絵本に戻った後、あの結末を読みたくなくて、開くこともせずに燃やした。

パトロンさんにそのことを伝えようと再度屋敷に赴いたが、もう、僕には資格がなくなってしまったらしい。たどり着いた場所は、何もない空き地だった。

なんだか家に帰りたくなくて、そのままあてもなく、陽が沈んだ街を歩いた。

俺くらいの子供は、もう帰る時間なのだろう。周りの大人が、たまにいぶかしげに俺を見てくる。

放っておいてくれ…俺はついさっき、この手で…言葉で、最愛の人を殺したばかりなんだ…

でも、世間はそんな、ひねたクソガキのことを放っておいてはくれないらしい。


「ちょっと、君!」


声をかけられ、腕をつかまれる。ああ、俺もついに補導デビューか…そう思って顔を上げる。しかし、そこにいたのは…どこかの制服を着た、同い年くらいの女の子だった。


「危ないよ、こんな時間に一人で歩いてたら…パパとママは?」

「...…うっせ」

「あっ、さては君、家出少年だな!?だめだぞ〜、そういう時は、ちゃんと頼れる人を確保してからーー」

「いたよ!!」


思わず声を上げる。いた。頼れる人は…さっきまではいたんだ……俺が、殺したんだ…


「さっきまでは……いたんだよ…」


うなだれる俺を見て、女の子は少し驚いたようだ。腕を振り払って逃げればよかったのだが…それをする気力は、今の俺にはなかった。


「…そっか。別れた直後だったんだね」


どう解釈したのか、女の子は少しかがんで俺の顔をき込む。


「ごめんね、急に声かけて…でも、君が心配だったからさ。今にも倒れちゃいそうだったんだもん」

「…………」

「……私、リサ。里に桜って書いて、里桜。うち、子ども食堂やってるんだ。よかったら…まだ帰りたくないんだったら、来る?」


女の子…里桜は、手に持った買い物袋を掲げると、快活な笑顔でそう問うた。


「おねーさんが、奢ったげる!」

最終話の原型

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