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凶という日の始まり

 一月一日、僕は家族と初詣に来ていた。

 肌を突き刺すような寒さから身を守りながら長い階段を登り、お参りをする。

 去年、行きたい高校の推薦入試に合格したこともあって、周りの受験生と思しき人たちが神妙な面持ちでお参りしているのに対して、僕は晴れやかな顔でお参りすることができた。

 今年はいい年になりそうだ。

 そんな気持ちでおみくじを引く、気になるおみくじの内容は


超凶 お前は死ぬ


と書かれていた。

 十度見した。

 調教の打ち間違いかと考えたが、仮に調教でもろくな目に合わないだろう。

 というか超凶ってなんだ?小学生が考えた大凶の上位互換みたいな感じだけど。

 ていうか、お前は死ぬって、今日びそんなストレートな予言聞いたことないぞ。

 あ、もしかして小学生のいたずらかなこれ?いやでもその割には他のおみくじと比べても遜色がないぐらいにはよくできてるし……

「どうしたの?お兄ちゃん」

「ヘアッ!?」

「へあー?」

「あ、いやなんでもないよ」

「お兄ちゃんのおみくじどうだった?」

「え、いや、まぁうんはい、yeah」

妹は少し怪訝な顔をしながら、おみくじ見せてくる。

「わたしね、凶だったの」

「そ、それは残念だね」

「でも、中に書いてることは結構いいことだったの」

「そ、そっかぁ、まぁ凶だからといって全部が全部悪いわけじゃないからね、それに所詮おみくじだしね」

 半ば自分に向けて言い聞かせるように言う。

 そうだ、所詮おみくじなんだ。

「お兄ちゃん、顔色悪いよ?」

「そう?寒さのせいかなぁ」

「あ、もしかして」

「も、もしかして?」

「お兄ちゃん大凶引いちゃった?」

「そ、そうなんだよ大凶引いちゃってさ」

「あはは、兄妹揃って凶引いたんだね」

「兄妹ならぬ、凶妹だね」

動揺のあまり、とんでもなくつまらないギャグを言ってしまった。

「あはは、なにそれー?」

「あ、あははは…」

「おみくじ結びにいこっか?」

「そうだね」

兄のクソギャグに対して笑ってくれた妹の優しさに感謝しながらおみくじを結ぶ。

 おみくじを結ぶ理由として、悪い運を境内にとどめたり、神様との縁を結ぶためという理由がある。 そういう意味で言えば、この最悪なおみくじを結べば、なんとかなるかもしれない。

 願いを込めておみくじをキュッと結ぶと、その瞬間おみくじがビリビリに破れてしまった。

「…………」

「うわぁ、お兄ちゃん、相変わらず不器用だね。」

「そうだね…」

明らかになんらかの力がはたらいたような破れ方だった気がするけど、もうなにも考えないことにした。

 その後、下りの階段で足を滑らせて、1番下まで転げ落ちてしまった。

 それからというもの、僕は毎日命の危険にさらされた。

 学校に侵入した野犬が真っ先に僕を襲ったり、卒業式の練習でひな壇が僕の立っていた場所だけ壊れたり、卒業式本番で校長先生から受け取った卒業証書で両手を切ったり、校内1番のモテ男 茂手くんの第二ボタン争奪戦に巻き込まれたり、命がいくつあっても足りなかった。

 そんな毎日をなんとか潜り抜け、生きて辿り着いた入学式、指定された教室に行かないといけないのに迷ってしまった。

「本当に広いなぁ」

 周りを見渡しても人影一つ見当たらない。

 適当に歩いていると、木々が立ち並ぶ庭のような場所に出た。

 ほんのりと湿ったベンチに腰掛けて、ため息をつく。

 県立凛充高校、自由な校風、充実した施設、確かな実績、小学生の頃から憧れていた場所に足を踏み入れることができている。

 それ自体は非常に喜ばしいことなのだが、今自分に起きていることを考えると、気が重くなる。果たして自分は生きてここに通えるのだろうか……

「いや、くよくよしたってなにも変わらない!頑張っていこう、この青空のように!」

自分を鼓舞しながら空を見上げる。

 空はどんよりと曇っていた。

 おかしいなぁ、さっきまで晴天だったんだけどなぁ。

 空の灰色を見ていると、自分の心も灰色になりそうだ。

 ぼーっと空を眺めていると、屋上に人影が見えた。

「え…?」

見間違いでなければ、誰かが屋上のフェンスの上に立っている。

 慌ててベンチから立ち上がり、声を上げる。

「そ、そこの人!飛び降りなんてしちゃダメだ!」

喉が裂けんばかりに声を上げる。

 声が届いてないのかそれとも無視しているのか、人影はなにもない虚空にゆっくりと倒れ込む。

「うわぁ!?」

人影は頭をまっすぐに地面へと向け、ミサイルのように落ちてくる。

 混乱した頭で逃げるべきか助けるべきかを考える。

 下手なことをすれば自分も死んでしまうかもしれない、だが、目の前で死なれてはこの記念すべき日が凄惨な日となる。

 考えだけがぐるぐる回って、足はただジタバタと動くだけだった。

「ぐ   」

 頭に衝撃が走り、目に閃光が映る。

 後のことはもうわからない

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