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04)マデレーナの回想3

ご覧いただき、ありがとうございます。

 引きこもりになったところで、七歳の私の周りはさほど変わらなかった。


 以前のように庭を走り回ることはなくなったが、兄もリュカ兄も相変わらず傍にいてくれた。

 刺繍は、ジョシュアがいなくなったことでやらなくなっていた。少し怖くもあったし、苦手なのでジョシュアのために、という理由がないならやりたくなかった。

 マーゴはそれについて何かを言うことはなかった。


 子ども同士の交流会もあったのだろうが、屋敷から出たがらない私に対して、両親は特に何かを言うこともなかった。


 今思えば、腫れ物扱いだったのかもしれない。


 ジョンとジョシュアの死をきっかけに、私はあのにおいの本質について理解した。そして私の家族たちも。


 ジョンとは毎日会っていたわけではないけれど、ジョシュアは毎日会っていた。

 あのにおいは、きっちり一年以内の余命宣告なのだと、 


 病気や、老いだけでなく、事故や怪我で亡くなる場合もわかること。


 家族で何度か話し合い、そんな結論を出した。




 この国は、賢者が聖女とともに建国したといわれている。

 そのためだろうか。時々、稀なる能力が現れることがある。

 大抵が「ちょっと便利」だったり「他の人には出来ないね」みたいな能力で、その力は『賢者の欠片』と呼ばれてる。


 建国からの長い長い年月を経て、王家の血が多少なりとも混ざっている貴族が多い。古くからの貴族なら、家系図を辿れば、いつかどこかで王家に縁のある人物が出てくる。

 それくらい、薄い、薄いつながりだったとしても、時に現れるその能力は、建国の父である賢者の能力を受け継いだ証になる。だから『賢者の欠片』なのだ。


 大々的に公表している人もいれば、隠している人もいる。

 国も、わざわざ調査したりはしない。

 業務に生かせる能力持ちは重宝がられるとは聞いたことがある。


 ともかく、何らかの特殊能力が発現しても、国へ届ける必要はない。



 ジョシュアがいなくなってしまって、2年くらい過ぎると、リュカ兄が学園に通い始め、その翌年には兄も学園に通うようになった。


 兄たちが学園に通うようになる頃には、私は立派な引きこもり令嬢になっていて、私の行動範囲はそのほとんどが屋敷とその庭で完結していた。


 日々、本当にやることもなく、定期的に来る家庭教師がいなければ、家族や屋敷にいる使用人以外の人と話すことはないという生活をしていた。


 はっきり言えば、退屈な日々でもあった。

 ただ、私は外に出ることが怖かったため、退屈であろうとも引きこもりを止めるつもりはなかった。


 兄が学園に通うようになると、相手をしてくれる人もいなくなり、私の時間を潰す方法は、読書と散策(庭と屋敷の)程度になってしまった。

 私は10歳になろうとしていた。


 庭に花が咲き競い、緑が鮮やかになっていき、空の色がくっきりしてくる。

 夏が訪れるのを期待しているような季節。


 ジョシュアがいなくなって、丸3年が過ぎようとしている頃、マーゴが眉間にうっすらと皺を寄せながら、私の元に刺繍の道具を持ってきた。


「お嬢様。本来ならラインの刺繍をするのは今時分の年頃からだったのです。ジョシュアのためにご無理を言いまして、申し訳ありませんでした」


 マーゴは刺繍の道具を私の部屋のテーブルに置くと、そう言って頭を深く下げた。


「マーゴ、刺繍はいやよ……」


 ジョシュアの最期を思い出すから。


「いいえ、ここは引けません。旦那様や、エリオス坊ちゃま、リュカのために刺繍をしてください」


 きりりと引き締まった顔つきで、マーゴは言葉を重ねてくる。が、私はよい子の返事ができなかった。


「……マーゴはジョシュアの従妹なのよね?」

「そうです。私の父とジョシュアの父が兄弟でした」

「………私の知らない、ラインの事をたくさん知ってるのよね?」


 マーゴは私の言いように少し眉根を寄せたが、少し考えるように私の顔を見て、小さく頭を振った。


「私にお話しできることは多くはありません。ですが、多少ならばお嬢様にお教えできることもありましょう」

「私が『ラインの姫』であることとジョシュアがいなくなったことは関係ある?」


 ジョシュアが亡くなって、ずっと聞きたかった事だった。

 ジョシュアは私のせいで死んでしまったのだろうか。


 マーゴは即座に否定をしてくれなかった。

 何か考え込むように、言いかけて止めるかのように、パクっと何度か口を開けては閉じて、を繰り返していた。


 そして、決心したように、いつものマーゴの、朗らかで、迷いのない表情で言った。


「お嬢様、ラインに戻られませんか?学園に入学されるまでの3年ですが」


 マーゴの提案は、思ってもいないものだった。

 私が返事を出来ずにいると、マーゴは更に続けてきた。


「旦那様は、まぁ、ラインと王都を行き来する、今と変わらない生活ですね。奥様はラインの方が性に合っているでしょうし。………あら、思い付きで言ってみたんですが、これは実は名案ですわね。そうしましょう。ラインにいれば、お嬢様が『ラインの姫』であることが実感できるはずですし。ささ、そうとなれば早めに段取りをしなければ……」


 マーゴは独り言なのか提案なのかよくわからない様子で話し始めた。


「マーゴ?にぃさまもリュカ兄も学園に行かないといけないわよ?」

「そうですね。二人は寮に入れましょう。やんちゃ盛りの子ども二人でタウンハウスでの生活なんて、どうなるか考えるのも恐ろしい……」


 マーゴはぶつぶつとやるべきことの算段を始めてしまった。

 わたしはマーゴのそんな様子に呆気にとられ、なんの話をしてたのかすら忘れそうになっていた。


「お嬢様、大丈夫です。マーゴにお任せください。ラインでなら、間違えることなく、誤解されることなく、お嬢様の知りたいことをお伝えできます。王都(こんなとこ)ではダメです。ラインに戻りましょう」


 私はマーゴの勢いに押されるまま、頷くことしかできなかった。

 マーゴは、何をどうやったのかわからないけれど、まるで魔法の杖を一振りしたかのようにササっと事態をまとめ上げ、私と母さまは、わずか3日後には馬車でライン領を目指していた。



続きは、本日の夜、投稿できればと思います。よろしくお願いします。

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