07)お見送り
ご覧いただき、ありがとうございます。
「今日は兄のためにお運びくださり、本当にありがとうございました。こういったことに慣れておりませんもので、何のおもてなしもできず、申し訳ありません」
とりあえず、お見送りの挨拶はこんなものかしら。
リュカはもっとスマートに何か言うわね。
にぃさまはどうかしら。よくわからないけど、父さまの名代として社交をしてるから、私よりずっとそつなくこなされるとおもう。
帰宅して、兄の寝室の方からあのにおいがしていた時には、あまりに怖くて足元にぽっかりと穴が空いたみたいな心地だった。
お見舞いに上司の方がいらっしやってると聞いて、てっきりご高齢の方かと思っていたのに。
「じゃ、マディちゃん、楽しかったよ」
軽妙に手を振るシャルル様は、とても健康的な方だ。
にぃさま程ではないけれど、背が高くて、がっしりした体躯は間違いなく常に鍛えられているものなのは、領地の騎士や兵士たちを見てきたから、よくわかる。
相変わらずあのにおいが取り巻いているから、勘違いではないのに。
私は、このにおいについて、シャルル様にどうやってお伝えしたら良いのか、案ひとつ浮かばなかった。
夜会でもあって、どこかで顔を会わせられればいいのだけれど、あいにく夜会の季節はもう少し先だ。
「あっ、あのっ!」
何とか縁を繋げておきたい。
にぃさまの上司とはいえ、にぃさまから直接言ってもらうわけにもいかないし、そもそも、にいさまがお休みしている間に何かあったら寝覚めが悪い。
何とかしなければ。でも、どうしたらいいの?
ていうか、こんなときに、何でリュカはいないの?
「ん?どうしたの?緊張してるの?可愛いね」
「っ…………」
シャルル様は大人の余裕で私をからかってみせる。
こういうとき、自分の社交性の低さが嫌になる。
もう少しすれば十八になるのに。
学園の同級生には婚約している子もいるし、卒業と同時に結婚する予定の子も何人もいる。グループは違うけれと、驚くほど大人っぽい子たちもいる。
だというのに、私ときたら、からかわれたのはわかるのに、こんな時に気の利いた言葉も言えずにいる。
ともかく。
シャルル様からあのにおいがするのは間違いない。
こんなに、若くて健康的なのに。
お元気そうなのに。
でも、ジョシュアだってそうだったわ。
あんな風にいなくなってしまうなんて、思わなかった。
外れてほしかった。気のせいだと思いたかった。
だけど、このにおいは悪い意味で私を裏切らない。
ただの一度も間違えたことがない。悲しいことに。
「じきに兄もよくなりますので、ぜひともまた、我が家にお寄りくださいませ。お待ちしております」
とりあえず、思うままに伝えてみた。
うちに来てもらえばとりあえず状態は確認できるだろうし。
「うん、また来るよ、じゃあ、またね」
にかっと笑う顔は、人好きがする感じだけど、何ていうのか、あまり誠実そうではないわね。遊び慣れた感じがするわ。大人ですものね。
本当に。どうしてリュカはいないのかしら。
にぃさまに頼れない今、リュカがいないことが思った以上に堪える。
私はこんなにも兄とリュカに甘やかされて、守られてきたのね。
友人にいつだったかに「マデレーナは箱入りだから」ってからかわれた理由がよくわかるわ。
一人では何の役にもたたない。
とにかく、にぃさまが元気になったら、それかリュカが帰ってきたら。
話はそれからだわ。
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「これは想像以上だったな」
帰りの馬車の中で、男は思わず声に出していた。
自分でも理由かわからずに咄嗟に偽名を名乗ってしまったが、部下の妹は可愛らしかった。
単純に、見た目が非常に可愛かった。
そりゃ、エリオスが「そんなとこにやらない」と、隠しておきたがる気持ちもわかる。
あんな可憐な子、騎士団に来た日には大騒ぎになる。
まだ幼さが残る雰囲気も、言葉を選びながらも、また来てほしいと必死に言い募る様子も可愛らしかった。挨拶の礼のために重ねて下ろされた指先が、微かに震えていた。緊張していたのだろう。いつも自分の周りにいる女性たちとは違って、初々しくてなんともいえない新鮮さがあった。
その様子を思い出すと、頬が緩むのが自分でもわかった。
「まいったなー、エリオスんとこは狂犬が煩いから、一回見るだけにしようと思ったんだけどな」
自分と同じくらいにご令嬢から人気のあるエリオスには、二十歳を過ぎても結婚はおろか、婚約者もいない。妹を可愛がりすぎてるせいだ、というのが専らの噂だったが、あの妹ならそうなるのも不思議ではない。
その腹心も『女神に愛された美貌』とマダムたちから絶賛されている秀麗な見た目の子爵だ。女性人気だけなら世代で飛び抜けて一番だろうが、こちらも独り身だ。
まぁ彼らより年長の自分もそうなのだが、三番手でスペアにもなれない側妃腹と、勇者の末裔の嫡男では立場的な将来性の価値が違う。もちろん、向こうが上だ。
階級で言えば、現状は自分が上だが、二十年後は絶対的に相手の方が上になる。
騎士団での立身もいずれ頭打ちになる。
自分の能力については、きちんと客観視できてるつもりだし、無理を押す気もない。
いずれ、王太子の邪魔にならない、適当な相手と婚姻するかもしれないが、気楽に遊べる現状を楽しんでいるのも事実だ。
だけど。
「ああいう初々しさってのは、特別だよなぁ」
何度目かの感想が口をついて出る。
今日はいい日だ。
続きは今週中に投稿できればと思います。
よろしくお願いします。




