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05)回想、マデレーナのデビュタント4

ご覧いただき、ありがとうございます。

「ともかく。デュプレ様にお手紙を書くわ」

「マディが書くのか」

「わたくしが書くのが、やっぱり筋でしょ」


 マデレーナはうん、うん、と頷きながら、自分に言い聞かせるように言った。


「リュカ……明日にでも何の飾りもない便箋と封筒を用意して」

「畏まりました」


 エリオスの指示に、リュカが軽く、しかし従者としての返事を返した。


「どうやって書こうかしら」


 妹からの手紙にすら返事を書けない、筆無精に聞いてもいい意見は出てこないぞ、と思いながらも、何とかアドバイスらしいことを言わねば、と、エリオスは苦心する。


「……マディの思うままに。そうだな……夜会で会ったことを書いておくといいんじゃないか?」

「何か、ご本人の特徴をお伝えして、夜会でお見かけしたことを信用していただきたいわ。……あのドレスは皆さんがご存知のお色なのよね?」

「マダム・デュプレと言えば、派手な黄色のドレスだ」


 たしかに間違いのない目印ではあるが、有名すぎるほどに有名だ。下手したら、市井の人でも知っているかもしれない。そう思いながら、エリオスは妹の問いかけに答える。


「じゃ………髪飾りはどうかしら。イエローダイヤモンドとインペリアル・トパーズの美しいものだったわ」


 黄色のドレスに、黄色とピンクの髪飾り。

 トレードマークの大きなダイヤモンドのイヤリングも欠かさず、となると、やはり目がチカチカしそうだな。と、エリオスは少々失礼なことを考えた。


 いずれの宝石も希少性の高いものばかりだ。

 デュプレ伯爵領は国内有数のダイヤモンド鉱山を持っている。広告塔としては優秀なばぁ様なんだろう。


「トパーズはデュプレ伯が南の大国からの販路を拓くのに噛んでたはずだよ、確か」

「ならいいわね、きっと。そちらをお伝えして、夜会でお見かけしたことを信用してもらうわ」


「あと、何か……手紙に特徴をつけたいな」

「特殊な印璽で封をする、とかですか?」

「うん、そんな感じ」


 エリオスはリュカの問いに賛同したものの、印璽にしても良い案が直ぐには浮かばなかった。


「……便箋に香りを移すわ」

「香り?」


 マデレーナの提案に、とても女性的な発想だな、と、エリオスは内心で感心した。野暮な自分では到底、思いつかない。


「便箋と一緒に香りのある花を入れておくと、香りが移るから。………安息花(あんそくばな)と……そうね、安息花は北部の花だから、南部の……カムの実を合わせるわ」

「あんそくばな??聞いたことないな」


 エリオスは花の名前はさして詳しくない。マデレーナは幼い頃には庭師のジョンの元に花を届けていたりしたから、花に詳しいのだろうか。それともこれも淑女の常識なのだろうか。


「王太子妃さまのご実家の名産の、紫色の小さな花よ。心が落ち着くらしくて、妃殿下が好んでるから流行ってるの」

「王太子妃だと、実家の小さな花まで流行するのか」


 外戚としての政治的な立場だけでなく、そんな些細なものまで流行するのなら、実家は潤うな。高位貴族が躍起になって競って嫁がせるのも納得だ。


「学園では話題になってるわ。小さくて素朴なお花なのによい香りがするから。でも、華やかなお花じゃないから、贈り物には向かないわね」


 淑女の常識の方だったらしい。


「あと、カムの実か?」


 エリオスは小さな小さな柑橘の実を思い浮かべた。母の実家がある南部地域の特産品だ。

 酸味はあるが、甘味もある、旨い果実だ。たしかに爽やかな香りがする。


「カムの実は、皮からいい香りがするから。一日箱に入れておくだけできっといい香りの便箋になるわ」


 カムの実のジャムはマデレーナも好んで食べている。今は少し早い時期だが、市場には出回っているだろう


「気持ちのいいお手紙じゃないもの。せめていい香りがしたほうがいいわ」


 マデレーナの優しい気遣いに、エリオスは重ねて感心する。泣き虫で甘ったれの妹だと思っていたが、思いの外、成長しているようだ。


「割り符をつけましょう」


 黙って聞いていたリュカが徐に提案してきた。


「割り符?ってなに?」

「例えば……」


 妹の問いかけに対し、リュカはジャケットの内側の隠しから、夜会の招待カードを取りだし、半分に破った。


「互いに持てば、お互いが正しい相手だとわかります」

「対になるものね!なんか特別な感じで素敵ね」


 マデレーナが少しだけ声を弾ませる。


「価値のある、わかりやすいものがいいですね」

「コイン?とか?」


 エリオスは反射的に答えたが、コイン割れるだろうか


「ああ、いいですね、そうしましょう。二枚の白銀貨に傷をつけて割り符にしましょう」


 リュカがさらっと賛同する。


「白銀貨を手紙に入れるのか」

「金貨にしますか?」

「金貨はちょっとやりすぎだろ。僕のお腹がかなり痛くなるよ」


 エリオスとリュカが冗談めかして言うと、マデレーナも少し笑顔を見せた。


「まぁ、白銀貨でも十分な特徴になりますよ。白銀貨の同封された、花の香りの手紙。イタズラとは思われにくいと思います」

「じゃ、リュカ。明日にでもそれぞれ用意して」



 それから数日後、妹は何度も何度も書き直して、マダム・デュプレ宛の手紙を書き終えた。

 泣くのを堪えているのか、顔が真っ赤で、力が入っている。


 エリオスは、用意された二枚の白銀貨を重ね、小刀で傷をつけた。そして、傷ついた白銀貨一枚と、マデレーナの書いた手紙を封筒に入れると、リュカが手早く熱した蝋を落とし、残ったもう一枚の白銀貨を押し付けて、印璽代わりにして封を閉じた。


「マディだけじゃない。みんなでやることだから。ね。一人で苦しまないで」


 リュカは、幼馴染みの口調でそう言って、マデレーナの頭をそっと撫でた。

 その手に応えるかのように、ぽろり、ぽろりとマデレーナの瞳から涙がこぼれた。




 マダム・デュプレの訃報を聞いたのは、それから十ヶ月ほど経ってからだった。


 その間も、夜会は何度も催され、マデレーナはエリオスのエスコートの元、いくつもの夜会に参加した。

 そのほとんどで、マデレーナの顔は一瞬、強ばり、微かに眉間に力が入る。


 そして、何度も泣きそうな顔で手紙を書いたのだった。



安息花はラベンダー、カムの実は金柑のイメージです。

白銀貨は千円くらい、金貨は一万円くらいのイメージです。


続きは今週中に投稿できればと思います。

よろしくお願いします。

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