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鉱坑の星

作者: i/o

 書き足りなかったので再投稿させてもらいました。本当にすみません。

 僕はこの日も来たる帝国戦に備えて騎士団での過酷な訓練に耐えていた。


「あー!このままじゃ筋肉が引きちぎれる!」


「文句を言っているうちはまだ大丈夫だ。本当にキツイ時は声が出ないから」


「そうなる前に体もう悲鳴をあげてしまう!」


「退団するか?」


「………………頑張ります」


 そんな感じで僕は魔道具屋さんのおじいちゃん店長と笑いあった。こんなことでよく笑えるなと思う。最近は笑える話題がないから尚更だった。


「やっぱり近々戦争が起きそうだから訓練も厳しくなってきたのか?」


「帝国が攻めに来るそうだ。うちの戦力の5倍はゆうに超えるのにどうやって勝つってのさ?」


「……帝国も昔は平和を願って戦争を止めたのにな」


「そうなの?信じられないな」


 帝国は侵略戦争を幾度となく起こしている。平和とは無縁なのに。


「私のひいおじいさんの話だけど。聞くか?」


「お願い!」




 昔、ある一人の少年が勇者となり魔王を倒す為の人間兵器として召喚されました。普通だったら召喚されたらとても強いスキルを持って召喚されるはずでした。でもその子には才能が全くと言っていいほど在りませんでした。そこらの少年よりも実力がありませんでした。結局、彼は役立たずとして王宮を追放されてしまいました。

 本当だったら彼は1人で死ぬ運命にあったでしょう。

 でも神様は彼を見放しませんでした。ある家族が彼を匿ってくれたのです。

 そこから彼は言葉の違いを頑張って乗り越えました。文化の違いも乗り越えました。本当に逞しい少年です。12になると彼は義理の父の職を継ぎました。

 そして彼は18になった頃、国を変えてしまうような大発見をしてしまいます。

 1つは大規模な天然砥石(てんねんといし)の鉱山、2つ目は超高純度の魔鉱石(まこうせき)の鉱山です。



「お前は私の誇りだ!」

 彼の父はとても喜んでいました。彼はやっと報われたと言って泣きました。



 しかし、これは国を揺るがす大発見で大きな戦力になるので、国有化されました。

 ここで不思議なことが起こります。何故か彼以外の人が採掘しようとすると、純度が大きく下がったり、脆くなってしまったりしてしまいました。結局国は採算が合わないとして、その鉱山を彼に返還しました。



 彼は採掘の技術は優れていました。岩と岩の隙間にとても上手にノミを入れて天然砥石や魔鉱石を取り出せました。彼の父は世界一の採掘者と絶賛していた程です。ただ1人では中々稼げないのも事実です。普通は、ですが。彼の綺麗な天然砥石や魔鉱石は相当な高値で取引されました。火の車だった家計を立て直すのには充分すぎるほどでした。



 ただ。彼には引っかかるものがありました。自分が売った鉱石が人を殺す為の武器の材料としてとして取引されている現状に。



 彼はある決意をしました。それは、もう人の命を奪う為の鉱石として売らないということを。

 彼は大工道具の知識を友人に教えて再現させてもらいました。それほどヒットはしないだろうと思っていましたが、その予想を覆して多くの注文が来ました。(かんな)などに使われる、多くの魔鉱石や天然砥石の注文が相次ぎました。そして彼は自分の目標である人の命を奪う為の鉱石として売らないことを達成しました。これは当時の採掘業界では史上初のことでした。そしてこの記録はあとにも先にも達成したのは彼しかいません。



 そうしてめでたしめでたしで終わらないのがこの世界の非情さです。彼は長期に渡る採掘で塵が肺に溜まり、塵肺(じんぱい)を発症しました。



 そして、ある日彼がいつも通り鉱山に採掘しに家をでた後、中々帰ってこないのでみんな心配して彼を探しに行きました。すると、鉱坑の一番奥の広い空洞のところで亡くなっている彼がいました。極度の疲れで倒れそのまま低体温症になってしまったのが原因のようです。相当苦しかったはずです。でも彼は魔鉱石を抱えながら笑顔で体を横にして倒れ込んでいました。35歳のとても短い波乱万丈の人生が終わりました。




「こんなお話だ」


「そんなすごい平和について考えていた人が帝国にいたとは。平和な時代だったんだな」


「彼は採掘技術に多くの功績をもたらし、採掘者の権利向上のきっかけにもなった。だから彼は帝国でこう言われている。『鉱坑の星』ってね」


「大工道具も広めたとは。多彩な人だったんだな~」


「おかげで帝国には多くの良い建築物が立てれるようになった。建築業界に革命をもたらしたんだよ」


「もしかして、帝国が『建築都市』と言われるのはそれがきっかけなの⁉」


「あぁ、その人がきっかけを作った」


「そんなにすごいとは思わなかった……というか、彼の名前はなんて言うの?」


「召喚されたときにはなかったそうだ。この世界での名前はアルスという名前だ」


 この名前を聞いたとき、あることに気付いた。


「おじいさん、あなたの名前もアルスだよね。関係があるの?」


「あるよ。なぜならば僕は彼の義理の弟のひ孫だからね」


「そんな縁があったんだ」


 こんなにもすごい人の子孫だとは信じられないが長年の付き合いもある。その言葉に嘘があるとは思えない。


「なぜ僕がこの国に来たのかは知らないんだけどね。でもやっぱり自分の故郷が戦争をしていると思うと心が痛む」


 ……もし自分がおじいさんと同じ境遇だったら騎士団には入らなかったかもしれない。でも帝国は変わりきってしまった。どんな国も侵略する『略奪国家』に。


「それは違う」


 おじいさんははっきりと述べた。


「帝国のことを許したり擁護したりするわけではない。でもね、帝国は一度たりとも略奪を承認したことはない。数少ない帝国の良いところだ」


 一部の馬鹿はそれをやってもその後、地獄以上の罰が待っているのだと言った。


「当時の帝国は本当に戦争ばっかりしていた。でも彼の平和への願いが当時の皇帝を感動させてね。戦争を止めたんだ。でも今の帝国は様々な国へ侵攻して大陸統一をして世界平和を成し遂げようとしているのだろう。この平和思想が彼の平和への願いが歪んでできたものだと思うと皮肉だなと思う」


「……彼はどんな思いで鉱山で採掘していたんだろう?」


「一番は人のためだったと思う。でも、それと並ぶくらい大きな理由がもう1つあったと思うよ」


「……ただ掘るのが好きだった。それだけなんだろうね」


「その通りだと思う。そうじゃなかったら……」


 僕はおじいさんの話を聞いて鉱山のある場所を聞いた。鉱山自体はまだあるようなのだが、採掘できる人がおらず事実上、廃坑になっているそうだ。

 その鉱山はこの国からでも見えた。

 昔は緑で生い茂ったいたようだが、戦火で禿山(はげやま)になってしまっていた。

 彼の本当の想いが届くのはいつなのか。魔鉱石製の天然砥石で研いだ剣を無慈悲にふるい続ける僕には、分からなかった。

 ただ1つわかっている真実があるとすれば。帝国は平和でなくなったということだけだった。








 案の定、帝国は侵攻を開始した。大陸に残る唯一の帝国の敵国国家『サノア共和国連邦』。この国が滅ぶのは逃れることの出来ない運命だった。王宮直属騎士団の活躍も焼け石に水。大陸最初で唯一かつ最後の共和制の多民族国家は姿を消し、140年の歴史に幕を閉じた。


 あの平和の象徴であった、禿山になった鉱山が人間の醜い争いを見下ろしていた。まるでその山は平和を願い、その夢が破れ悲しんでいるように見えたのだった。






「ねぇねぇ、おじいちゃん、どうしたの?」


「どうもしてないよ。心配してくれてありがとね」


 帝国侵攻からもう40年は経っただろうか。おじいさんが言った通り帝国は略奪をほとんど行うことはなかった。騎士団として戦い華々しく散るかと思ったらしぶとく生き残ってしまった。結局俺のいたサノア共和国連邦も消滅し帝国の悲願であった大陸統一を果たされてしまった。唯一の救いは帝国の統治が良かったことぐらいだった。


 アルスおじいさんは老衰して亡くなり、かつて魔道具屋があったところを俺が継ぐことにした。時々子供たちが遊びに来ると魔道具を使っていろいろなショーをやって何かと人気になった。


「おじいちゃんおじいちゃん、何か昔話してよ!」


「いいとも。さぁ何を話そうかな……」


 中々良いものか思いつかない。悩んでいると俺がかつておじいさんに聞いた昔話を思い出した。この内容のままだと理解しづらかったり怖かったりするから少しだけ内容をいじって子供たちに教えた。





「難しいね」


「ごめんな、俺の知っている昔話はこれぐらいしかないんだよ」


「そのアルスって人、どんな世界から来たんだろうね?」


「それは俺にも分からない。頑張って別の世界に行くための魔法でも作ることだな」


「王様はひどいね、勝手につれてきたのに追放するなんて」


「大人な意見だね」


「エッヘン!」


 褒めたのはまずかっただろうか……調子に乗らなければいいが。ただこの風景自体は懐かしかった。こんなに人と話して笑顔になったのは数十年ぶりだった。このまま平和が続いてほしい。そう俺は願った。そして最後に子供たちにこう言った。


「君たちが大人になったとき、もし誰かが同じように聞いてきたらこのお話をしてほしい。俺からのお願いだ」


「本にすればいいじゃん」


「だったら、君たちが最高な文章でこの物語を伝えてってくれ。俺は書くのが苦手だから。お願いな!」


「「「分かった!」」」


 伝えるべきことを伝えきったのだろうか。俺は数日後に倒れた。子供たちが見舞いには来てくれたがまともにしゃべってあげられなかったのが悔やまれる。俺の意識はそのまま闇へと消えていった。









 240年後の事。革命により帝政が崩壊。これに乗じ、サノア共和国連邦が独立した。

 また戦争が起き多くの人が亡くなった。ただ、いつもの歴史とは違うところがあった。

 独立した他の国と不戦条約を締結したのだ。もうこれ以上戦争の犠牲者を増やさないために。どうせ戦争を起こす国家はでてくるだろう。でも、みんな口を揃えてこういった。


「ないのに比べればあった方が歯止めはかかる」


 みんな、条約を守ってくれる。指導者はこのときだけでもこの条約に騙されてみようとすることにした。


 独立した際に国旗も変わった。そこにはある星が描かれていた。

 その星は、()()()()()()()()()()()平和を願った「アルス」という人物を象徴したものだった。その星の名前は……


















「鉱坑の星」と言う。




 その元になった鉱山は240年かけてまた青々としてきた。

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