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俺の悪友  作者: 岡本圭地
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② 嘘つきの最低野郎



 北川は、公園のベンチへと座った。


 妙に神妙な面持ちだった。



 だが、そんな事を気にしている場合ではない。


 俺は足音を立てないように、慎重に背後へと近づいた。


 もともと幽体なので、足音はしないのだが。



 北川の真後ろに佇むと、深呼吸を一つ。


 今からボコボコにして、気絶させてやる。


 握り拳を振り上げた、その時だった。



「こんにちは。北川君だね?」


 男の声がした。


 俺と北川が、振り返る。



 そこにはスーツを着た、五十歳くらいの男性がいた。


 色白で青髭が濃く、少し太っている。



 優しそうな笑顔を浮かべた彼は、北川の隣へと座った。


 当然だが、彼にも俺の姿は見えていない。



「私は捜査一課の水落というものだけど、急に呼び出したりして、すまないね」と言う。


 捜査一課と言えば……刑事。



 もう俺の死体が見つかり、捜査が始まったのか?


 その瞬間、ある事を思い出した。


 そうだ!


 昨日の昼過ぎに、ガス会社の人が、俺の部屋に点検に来る予定だった。



 きっとそこで、俺の死体を見つけたに違いない。


 人が来るからと、ドアに鍵もしていなかったように思う。




「……あの、山崎が死んだって本当ですか?」


 北川は拳を握りしめ、強張った顔で刑事に訊く。



 刑事は両膝の上で手を組むと、落胆の息を漏らした。


「ふむ……残念な事に、本当なんだ。友人を亡くしてショックを受けている時に申し訳ないんだけど、いくつか訊きたい事があるのだよ」


「はい……」


 北川が返事をすると、刑事は胸ポケットから手帳を取り出した。


 北川の言葉を、書きとめておくのだろう。



「まずは、最近の山崎君の様子は、どうだったかね?」


「別に……いつもと変わらない様子でしたけど」


「……そうか」


 その後も刑事は、俺の性格や交友関係について色々と訊いている。



 やがて刑事が、手帳をパタンと閉じた。


「……ところで」と前置きをした後、「三日前の夜、君達は口論したようだね」と刑事が問う。


「えっ?」


 なんで、それを知っているんだ? と言いたげな北川。


 俺も同じだ。



 刑事は注意深く、北川の顔色を伺いながら話を続けた。


 先程の優しそうな雰囲気が、影を潜める。


「その時、君は『殺すぞ、この野郎』と言ったようだね。君達の同級生だった笠君が、たまたま目撃しているんだよ。今いる、この公園で言い争ったんだろ?」


 ギクリとした北川は、目を剥いて顔を左右に振った。



「いやいや、あれは冗談ですよ! 売り言葉に買い言葉ってやつです! 金を貸してくれって言ったら、あいつが『今すぐ死ね』とか言うから、つい頭にきて……」


 北川が、必死で言い訳をしている中、ふと俺は思い出す事があった。



 確かにあの夜、遠くに人影が見えた。


 あれは同級生だった笠か。


 なるほど。




「そもそも、山崎が悪いんですよ! アイツに二十万も貸したのに、知らねえとか言うんですよ!」


 ん? こいつは何を言っているんだ?


 こいつに金を貸した事は何度もあるが、借りた事など一度もない。




 ——そうだった……いつも、そうだった。


 北川は口達者で、言葉巧みに全ての罪を、俺になすりつけてくるのが得意だ。



 あれは高二の時だった。


 イタズラ好きの北川が、校長室の窓ガラスを割ったのだ。


 目撃者の証言により、北川が校長室に呼ばれる。



 だが、北川の口八丁により、なぜか俺も共犯者にされてしまったのだ。


 しかも、最終的には俺が「校長室の窓ガラスを割るぞぉ!」と、まくし立てた首謀者になり、停学を食らってしまった。



 高三の時にも、同じような事があった。


 北川が教室の窓から、真下を歩く校長の頭に唾を垂らしたのだ。


 それも俺が犯人にされた。


 もちろん、しっかりと停学も食らった。



 本当、こいつは嘘つきの最低野郎なんだ。


 鼻をかんだティッシュ以下の男だ。


 ああ、思い出すと腹が立ってしょうがない。



 俺が怒りで震えていると、刑事が口元を緩めた。


「……いや、心配しなくていいよ。君を疑っているわけじゃないんだよ。だって山崎君の死亡推定時刻である、昨日の午後一時から二時の間、君はネットカフェにいたからね。お店のカメラもチェックしたよ」


 俺と北川は、唖然とした。


 日本の警察は優秀だ。


 もうこんなにも捜査が進んでいるのか。



「実はね、山崎君は不幸な事故で亡くなった可能性が極めて高いのだよ。遺体の足元にピザトーストが落ちていて、足に火傷の痕もあるんだ。つまり、電子レンジで温めすぎたピザトーストが足に落ちて、熱さで転ぶとテーブルの上に置いてあった包丁が落ちてきて、刺さった。おそらく、こういう流れだと思うよ」


 うわっ、ばれてるよ。


 俺は思わず頭を抱えた。



 北川は、しばらく呆然としていたが、やがて口を開いた。


「……え、いや、そんなアホな事故死って、あります?」



「まあ、そう決まった訳では無いんだけど、その可能性が高いという事なんだ。だからと言って、殺人の可能性が全くないわけじゃない。アパートの防犯カメラに映らないよう、誰かが侵入したのかもしれない。ドアに鍵もしてなかったようだしね。もしかしたら、第一発見者であるガス会社の社員が殺したのかもしれない。だからこうして今、君に山崎君の近況を訊いているのだよ」

 

 もう駄目だ。


 北川のアリバイは証明されていて、なおかつ事故死という事も、ほぼ確定している。


 ちくしょう、北川を犯人に仕立て上げたかったのに、もう無理か。



 ……いや、待て。


 まだ時間はある。


 ダメ元で、やってやる。


 こいつを絶対に犯人にしてみせるぞ!






つづく……

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