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不運なソーヤの運送屋  作者: 橋広功
99/109

95:乗り換えはスムーズに

 リカー星系を発ってマンマール、ノボークと順調にアトラスは進む。

 その間の日常は特に変わったことはなく、海賊多発地域だろうが関係なく単艦で航行可能な戦闘力を持つのがクラス5の最新鋭である。

 近づく海賊船を薙ぎ払い、悠々と危険地帯を抜けてモーリモン星系に到着。

 ここからはもう帝国のパトロール艦隊の巡回ルートが近いので文字通り何事もなく順調な航海となる。

 時間こそかかったが、無事ニルバー星系へと辿り着く。


「こうして移動すると帝国の広さがよくわかる」


 ハイパードライブ航行から通常航行へと切り替わり、小さく見えるコロニーの光を眺める。

 移動するだけで2か月以上かかっているにもかかわらず、帝国全土からすれば半分にも満たないというのだから銀河最大の領土という肩書は伊達ではない。

 依頼の目的地はプライムコロニーだがアトラスの改修はセカンダリステーションである。

 なのでまずはプライムコロニーへと進路を向ける。

 そこでふと思ったことを口に出す。


「そう言えば、星系を飛び越えて移動する技術についてなんだが……あれって民間が使えるようになるのは何時頃になるんだ?」


 艦長席の隣に立つアイリスを見上げて尋ねる。

 通常メイドの姿が「ふむ」と顎に手をやり少し考えるような素振りを見せる。


「少なくとも御主人様が生きている間にはないでしょう。現状ジャンプドライブは我々を除いて使用可能な国家は存在しておりません。各国は似たような技術の開発に躍起になっておりますが安全に使用できるまでにはまだまだ時間がかかるでしょう」


 帝国は偶然にも成功を収めたが実用するには未だ至っていない。

 宣伝だけが独り歩きしてしまう結果に終わったとのことだが、これが各国の軍事バランスを崩して戦争もあり得たらしい。

 結局は偶発的な成功であることを意図的にリークすることで収まったのだが、ジャンプドライブの開発は影響が大きすぎて色々と大変なのだそうだ。


「これに関しては帝国の技術は間違いなく一歩リードしております」


 俺はアイリスの説明を聞いて感嘆の声を上げた。

 流石は帝国である。

 ちなみに燃費の問題を解決できるのであれば、一応の完成に王手がかかるとのことである。

 問題はその解決に必要となるであろう素材の開発までに間違いなく100年はかかるらしい。

 素材開発に関してはマーマレア連邦が一歩先んじることになるとアイリスは予想しており、最先端技術を用いた共同開発でもしない限り、俺が生きているうちにまともなジャンプドライブシステムが完成することはないのだそうだ。


「それ以前に帝国が分裂する可能性もありますので考えるだけ無駄かと」


「さらっとヤバイ爆弾投げるの止めてくれる?」


 こちらはあくまでシミュレートの結果なので「そうなる可能性がある」程度のものらしい。


「念のために言っておくが詳細は聞かないぞ?」


「ちっ……承知しました」


 露骨な舌打ちを混ぜるメイドに「何を聞かせようとしやがった」と抗議するも無視される。

 それからしばらくしてこちらの接近に気づいたステーションから通信が入り、いつも通りのやり取りを済ませてブリッジを出る。

 それから食って寝て起きたらコロニーがどうにか肉眼で確認できる距離まで近づいていた。

 これなら数日中には到着するかな、と思ったが他にも多数の船がいる関係上それは無理だとわかった。

 アトラスのブリッジにて、モニターに映る情報を眺めながらここに来るタイミングが悪かったことに肩を落とす。


「ミュージシャンて……」


 プライムコロニー周辺で順番待ちをしている多数の船をアトラスのセンサーが捉える。

 その数を見て呆れるように呟いたわけだが……隣のメイドは「そういうものです」と理解を示している。


「『推しは推せるときに推す』はマスターの格言です」


「意味がわからんなぁ」


 それとミュージシャンではなくアイドルグループらしい。

 浅学の俺には違いなどわからんね。




 結局アトラスがステーションへと入港できたのはそれから6日後だった。

 まさか丸一日以上待たされる羽目になるとは思わなかったと愚痴を溢すが、隣にいるアイリスは「ファンという生物の行動力を舐めない方がよい」と奇妙な忠告を受けた。


「宗教か何かか?」


「否定はしません」


 入港審査に引っかかるような馬鹿が出たことで予定時間が少しばかり遅れたが、それで暴動に近い騒ぎを起こすのだから余計な時間を取られることになった。

 行儀良く順番を守ればこんなことにはならなかったのだが、連中がコロニーに来ているアイドルグループとやらのライブを見るために死に物狂いであるということは何となく伝わった。


「良さがさっぱりわからないんだよなぁ」


 アトラスのモニターに表示されたアイドルたちを見る。

 グループ名は「ラヴァーズ」とあり、6人の美少女全員がそれぞれ恋人関係にあるとかないとか書かれている。

 取り敢えず待ち時間に暇だからと動画を見たものの、その感想があれなので恐らく俺は音楽という分野そのものに興味がないようだ。


「偶像崇拝に美少女は鉄板ということです」


「よくわからんから放置でいいよな?」


「教養不足の御主人様には無用ですので問題ありません」


 その言い方に問題があるんだよな、と隣に立つアイリスを見上げる。

 ともあれ、ようやく入港できたアトラスから下船した俺は早速流通ギルドの窓口へと向かう。

 そこで荷の受け渡しにサインをして依頼を完了させる。

 後はアトラスから荷物を降ろせば出航可能だ。

 手続きを済ませたので船に戻る……前にフリエッタに挨拶でもしておこうかと思ったが、あいつには必要はないなと頭を振って歩き出す。

 以前来た時と比べて明らかに人が多く、流れを逆走するために少々時間はかかったが無事アトラスへと戻ることができた。

 そして戻ったところでアイリスから一言。


「依頼を見る必要がないのですから船から報告すれば人混みに辟易することもなかったですね」


「先に言えよ」


 よくよく考えれば船を降りてまでする用事なんてなかった。

 取り敢えず降りる癖がついているのは元傭兵の経歴か?

 ともあれ、荷物が下ろされるまでは暇なのでゲームでもして時間を潰す。


「チームバトルロワイヤルのゲームに私を駆り出し勝ちに行く御主人様にはドン引きです」


「傭兵はあるものは何でも使うんだよ」


 結果は言うまでもなく全戦全勝。

 お荷物に近い俺がいようがお構いなしにアイリスは勝利をもぎ取り続けた。

 後日、アイリスの操作キャラが明らかにおかしな動きをしているとのことでアカウントを凍結され、そのチームメイトであった俺も巻き添えを食らうことになるのはまた別のお話。

 そんなわけで何事もなくステーションから出航。

 補給なしでここまで来ていたので結構ギリギリだったが、アイリスが計算して間に合うとの結論が出ていたので安心して造船所のあるセカンダリステーションへと向かう。

 流石にこれだけ近い距離で何か起こるはずもなく、何事もなくドックへとアトラスを停めることとなった。

 既に話はついているらしく、久しぶりにあったダールは淡々と作業内容を確認し、サインを急かして仕事に戻る。

 そんなやりとりを役人っぽい人が謝り、俺は変わらない光景に安心する。

 それからアイリスの案内で用意された客船へと向かう。

 ターミナルから見えるズラリと並んだ船の中にそれはあった。


「これが貴族向けの客船か……」


 データで見るのと生で見るのとではやはり感動が違う。

 情報通りの流線形のフォルムは美しく、無駄に豪華なデザインが俺の心をくすぐった。

 思わずそちらをじっと眺めていると俺の姿を確認した船長がこちらにやって来て挨拶をする。

 やはりというか何日も前に到着していたらしく、随分と待たせてしまっていたようだ。

 しかしそんな申し訳なさもすぐに吹き飛ぶ。

 さあ、嫌なことは忘れて存分に遊び倒してやろう。

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