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不運なソーヤの運送屋  作者: 橋広功
95/109

91:情報屋をやっつけた。経験値を獲得した

 息を吐く。

 そして考える。

 俺の記憶が確かならばヒロロシークは帝国領土の中心部に近い星系だったはずである。

 ならば皇帝から呼び出しを受けた場合、ついでに立ち寄ることも不可能ではない。

 つまりあの腐れ野郎を殴ることは現実的な話だ。

 そのように恨みを晴らす算段を付けていたところで後ろから冷や水を浴びせられた。


「御主人様。先ほどの画像は最新のものではありません」


「……え、もしかして所在不明な感じ?」


 アイリスの言わんとしていることを察した俺の言葉にモニターの前のアンドラースの目が泳ぐ。

 それを見逃さなかった俺が無言で情報屋を見つめる。

 しばらくそのまま圧をかけ続けていると進退窮まったかアンドラースは降参とばかりに両手を上げた。


「いやー、実は買いたい情報ってのはそのことなんだ」


 曰く「情報屋としてのプライドをくすぐられた挙句、上手いこと乗せられ『トーアの所在を突き止めてやる』と啖呵を切ったはいいが、信じられないくらい完璧に足跡を消されてて追跡不能に陥った。このままでは前払いで手に入れた金も使い切りそうでヤバイってところに新たな依頼を押し込まれちまった。これを理由に期間の延長を願い出て承諾してもらえたまではよかったんだが『ならついでにこれやってくれるよね?』と押し付けられたのが今回の依頼」らしく、そっちの件は失敗と判断したから情報売ってほしいと結構な早口で捲し立てられた。


「つまり?」


「こっちはしがない情報屋なんだよ。権力には逆らえないから仕方なくやっただけなんだ」


 トーアの居場所については本当に知らないらしく、なんだったらここまで調べた分のデータを寄越してもいいので情報を売ってくれと泣きつかれた。


「いや、ほんとマジでどっちも失敗に終わると俺の人生がヤバイんだよ」


「その前にアイリス……アルマ・ディーエに煽り入れた時点でお前の人生終わってないか?」


「だって絶対格好良かったろ!? あのキメ方完璧だったろ!?」


 取り敢えずこの情報屋がどういった人物なのかは把握できた。

 能力はさておき、ただのアホである。

 気になる沙汰はと言うと……アイリスに視線を送り判決を下してもらう。


「まあ面白かったので無罪としましょう」


「繋がった! 俺の首の皮繋がったよ!」


「情報は売りませんが後は自分で何とかしなさい」


「絶望した!」とモニターに映るアンドラースの頭皮。

 感情の起伏が激しい奴だが演技臭い。

 アイリスの反応から恐らく切り替えたと見るべきだろう。


「それで、こっちに売りたい情報ってのは何だ?」


「できればその前に……はい、出した情報次第で売って……いや、考えていただけるだけでも十分です、はい」


 涙目になるアンドラースだが、アイリスに睨まれれば平身低頭は仕方のないことだ。

 振り上げようとした拳の行方を捜しているとポツポツと情報屋が商品を並べ始める。


「まず最初にハインリック・イズルードルの暗殺事件の犯人なんだが……」


「ルゼリス・ホーウィッド。理由は語るまでもありませんね」


 並べた商品は手持ちにあると即座に切り捨てるアイリス。

 しかしここで引いては情報屋の名が廃るのか、続けて商品を取り出すアンドラース。


「イズルードルのお家騒動だが、その暗殺の件でハインリックの実働部隊が動いているのは知ってるな?」


「既にシーラ・イズルードルの手により壊滅済みです」


 またしても牽制のジャブにカウンターでアッパーをぶち込むアイリス。

 というかあのバカは地位についてもまだ自分で動いているようだ。

 呆れを通り越していっそ清々しい戦闘狂である。


「……シーラ・イズルードルの目的」


「知らないことは口にしない方がよろしい」


「え? 自分より強い奴に会いに行くとか、そういうのじゃないのか?」


 思わず口を挟んでしまったが不正解だった。

 しかし方向性は悪くないとのことでお情けで30点貰った。

 何に使えと言うのか?


「というか、犯人わかってるのに収まらないのか?」


「ルゼリス・ホーウィッドはシーラの親なんだよ。だから余計にこじれた」


「つまり『私怨で殺害した』ことにしたいハインリックとどうにかして揉み消そうとしているシーラの構図です。決定的な証拠を掴ませていない辺りに協力者の影が透けて見える――とだけ言っておきましょう」


 二人の補足説明に「そういうことか」と俺は頷く。

 アイリスが最後の部分をぼかしたということは、その部分を情報屋は知らないと見てよいだろう。


(あ、これもしかしなくても、情報を引き出すためにワザとやってるくさいな)


 流石は情報屋と言うべきか?

 俺が警戒度を上げたことでアイリスもこちらの意を汲んでか通信を終わらせようとする。

 当然目的を果たしていないアンドラースは待ったをかけた。


「まあ待て。俺が売れる情報はこれだけじゃない。それにこいつはどっちかと言うとそっちのメイド向けの情報だ」


 視線の先をアイリスに変えた情報屋がニィっと口の端を吊り上げる。

 どうやら余程自信のあるとっておきのようだ。


「聞いて驚け、クオリアが把握していないであろう遺跡の情報だ」


「ほう?」


 前回のようにあからさまに機嫌を悪くするようなことはなく、いつも通りのアイリスにこれは何かしら心当たりのあるパターンだろうかと予想する。


「こいつは何世代にも渡ってある貴族が秘匿し続けたものだ」


 その言葉に俺は「ん?」とつい最近の出来事を思い出す。


「バウハウル関係か?」


 ついつい口に出してしまったのだが……これがどうやら大当たりだったらしく「え?」という声が聞こえてくる。


「ええ……それも知ってるのかよ」


「知ってるも何も……」


 つい最近会ったばかりであることを告げると頭を抱えるアンドラース。

 そしてどうやら手札を使い切ったらしく、それっきりうんともすんとも言わなくなった。

 その姿に少しばかり同情してしまった俺は隣に立つアイリスを見上げる。

 視線の意味に気づいたアイリスが頷いたので、俺は情報屋に取引を持ち掛ける。


「あー、消費期限は近いが売れる情報が一つある」


「ほんとか? 買う買う。なんでも言ってくれ」


「そのバウハウル家に奉仕対象が誕生した」


 それを聞いてフリーズするアンドラース。

 しばらく言葉の意味を理解しようと何度か首を動かすと「マジか?」と絞り出すような声が聞こえてくる。


「マジだ」


「マジかよ……」


 再び頭を抱えるアンドラース。

 情報屋としては失業レベルのライバルが増えると言っても過言ではない爆弾である。

 ついでに何時頃の話かもしてやったので情報屋なら稼ぎ時を見逃すことはないはずだ。

 アンドラースは如何にして儲けるかの算段をしているのか、それとも自らの領分を冒されないために何をするべきかを考えているのかはわからないが、思考に耽っており取引が進まない。

 仕方がないので俺は勝手に話を進めることにする。


「金額はこんなもんでどうだ?」


「悪魔かお前は?」


 提示した金額は10万Crとお安くしておいたつもりなのだが、どうやら少々高すぎたらしい。

 最近取り扱う金額が大きすぎて感覚が麻痺しているのかもしれない。


「こっちの残りの予算がこれくらいなんだよ、貸しを作ると思って勉強してくれ」


「いや、6万しかないとか分捕った予算は何処行った? 売るなら倍の値段は付けれる情報だぞ」


「消費期限短いっつってたろ。あと予算てのは前金のことだ。トーア探すのに大半をつぎ込んで底尽きかけてるって言ったろ?」


 やいのやいのと情報屋と値段交渉を開始したところでアイリスからタイムアップを告げられた。

 どうやらもう一件の通信の方にそろそろ繋げとのことだ。

 しかたなく6万Crで妥協して貸しを一つということにしたら「これだから機械知性体の関係者とかかわるのは嫌だったんだ」と愚痴られた。

 半分以上自業自得だと思われるのだが、情報屋との通信を終了したとことでアイリスが一言。


「24点」


 及第点にはまだまだ遠い。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつか満点の解答が読みたい(笑)
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