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不運なソーヤの運送屋  作者: 橋広功
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65:崩れた前提

 二度目の揺れが周囲を騒然とさせる。

 何かあったことは言うまでもなく、その原因が二人の機械知性体に因るものであることはほぼ確定であり、それを知る俺はどうするべきかと考える。

 選択肢として真っ先に思い浮かんだことが「アイリスに丸投げする」という日和ったもの。

 実際これが一番有効なのだから仕方ない。

 次点で「自身の安全の確保」である。

 焦って動き回ることで状況が悪化するというケースも考えられる。

 大人しく周囲の警戒と比較的安全な場所への移動に留めておくのも立派な選択だ。

 そして恐らくやってはいけないことが「アイリスを探すこと」だ。

 幾ら装備品がクオリア製と言えど、まだその運用に慣れていないどころか試す時間すらなかった。

 口頭の説明と説明書を読んだ程度では十全にこの装備の性能を活かすことは難しいだろう。

 となれば現状の俺は足手まといと判断するしかなく、機械知性体を想定した戦闘は同じアルマ・ディーエであるアイリスに任せるのが正しい。

 よって俺はそのままカフェに居座ることにした。

 勿論周囲の警戒はしっかりと行う。


「まるでコロニー全体が揺れたかのように感じたが……どう見る?」


「……何故俺に振る?」


 同業者とは言え世間話をするような仲でもない。

 しかし俺の返答に首を傾げるフォーネイは前に見た時と違いロングコートが追加されている。

 流石にあの露出度の高い恰好で出歩くことはないようだ。


「今の揺れがそっちの船とは無関係と言い切れるのか?」


 その発言で俺はハッとなる。

 アトラスには帝国の最新技術がてんこ盛りである。

 ならばそれを手に入れるために何者かが騒ぎを起こす可能性も十分にあり、事前に廃棄処分とされた逸脱した機械知性体の話を聞いていたために、そちらにばかり注意が向けられていた。


「軍が警備に当たっている。もしもの心配は不要だ」


 だがその機密を守るのはこの星系に配備された正規軍である。

 ここでの俺のミスはと言えば、思わずうちの船が軍に警備されるものであることを自白してしまったことである。


「何故軍が警備を?」


「荷物が関係している。これ以上は言えんぞ」


 咄嗟に出た言い訳としては満点だ。

 事実、俺が軍からの依頼を受けていたと勘違いをしたフォーネイが感心したかのような声を出す。


「もう軍からの指名依頼か。なるほど、あの時の自信はそういうことかい」


 謎が解けたとばかりにニヤリと笑うフォーネイに俺はお手上げのジェスチャーで「これ以上は追及してくれるな」と意思表示。

 都合の良い勘違いは存分に利用させてもらう。


「ちょっとそっちのコネが本気で知りたくなってきたよ」


 テーブルに手を置いて俺の顔を覗き込むように腰を曲げるフォーネイ。

 118cmの谷間が目に付くが、同時にその身長の高さも実感する。


(腰を曲げてこの高さか。俺が182だから……間違いなく俺より背が高いな。190はないと思うが……それくらいはありそうだ)


 一応これが色仕掛けである可能性も考慮し、視線を逸らそうとしたところでまた揺れた。

 勿論コロニーが揺れたわけだが、合わせて揺れるものもあった。


「またか」


 苦戦などすることはないと言った口ぶりだったが、思ったよりも手こずっているのだろうか?

 周囲の客がざわめく中、冷静なままの俺と僅かな焦りが見え始めたフォーネイ。


「何かあったのは間違いない。こっちは船に戻る……待て、あいつら何処行った?」


 今更だが連れがいないことに気づいて周囲を見渡すフォーネイ。

 記憶違いでなければカフェに入るまでくらいは一緒にいたような話しぶりだったが、その連れがいない。

 携帯端末で呼び出しを続けているようだが、一向に繋がらないらしくその苛立ちが伝わって来る。

 そしてようやく繋がると同時に所在を尋ねようとした彼女を遮るかのように大きな声が響く。


「逃げろ、フォー! あいつら普通じゃない!」


 聞こえてきたのは指示――船長であるはずのフォーネイに対し、あの時のちびっ子が焦った様子で叫んでいた。

「急げ」という言葉を残して一方的に切られた通信に只ならぬ事態であることを理解したフォーネイが、俺を一瞥して走り出す。

 その直後、一際大きな揺れと爆音が響いた。


(おいおい……どういうことだ? 「あいつら」ってことは犯人は複数? つまり別件?)


 いや、最悪二つの事件が同時進行している可能性すらある。

 これは悠長に構えている場合ではないのかもしれないと俺は立ち上がり、携帯端末での支払いを済ませて外に出ようとする。

 しかし入口を塞ぐように棒立ちしているフォーネイ。

 何をしているんだ、とばかりにその尻ををコート越しに引っ叩くが、何の反応も返ってこなかった。

 訝しむ俺が騒然としている後方を無視して彼女の脇を抜けると、そこには「異形」という外ない何かが練り歩いていた。


「何だあれ?」


 見た目でロボットであることはわかった。

 人型であることには違いない。

 問題はその形状であり、多腕型にしてはあまりにも不格好でバランスが悪い。

 本来の人型としてあるべき場所に腕や足、頭があるのは問題ないが、何故背中や腰にまで腕を生やしているのか?

 その無駄に生やした腕をグルングルンと回転させ、おかしな角度まで曲がる頭部が何かを探すように動いている。

 こいつをデザインしたデザイナーはちょっと感性がおかしいのではないか、と思わず現実逃避してしまうくらいには不気味な印象を受けるスーツのような服の残骸を着たロボットだ。


「ホラーアトラクションからの出張か?」


「アレが何かわかるか?」


 俺の言葉に反応したフォーネイが尋ねるが、正確なところはわからないし、そもそも教えるつもりもない。

 だから俺は小さく首を振って答えたが、恐らくは敵対中の機械知性体が利用しているロボットか何かだろうと当りは付けている。

 説明する義理はないので黙っているが、どうやらフォーネイはアレが何かを計りかねており、ここから出るに出れない状態なのだろう。

 だが、意を決した彼女は飛び出した。

 その動きに反応した歪な多椀ロボが不揃いの手足を使ってシャカシャカと這う。

 思わず「早くてキモい!」と口に出してしまうフォーネイと並走するロボット。

 逃げまどう市民がいるのだから治安維持部隊にはさっさとご登場していただきたいのだが、お役所仕事はこういう時に限って緩慢だ。

 口の動きから舌打ちしたであろうフォーネイは、ステーションへと走りながらもロボットの相手をすることを決断。

 腰のベルトにぶら下がっているホルスターからブラスターを引き抜き、並走する相手に向けて連射する。

 全弾命中したものの、やはりコロニー内に持ち込める程度の武器では大したダメージにはならないようだ。

 このままフォーネイに引き付けてもらって安全を確保するのも良いのだが、この事件についての情報を確保しなければならない気もする。


(少なくとも目の前の歪なロボットが、本当に機械知性体絡みかどうかは確認しておきたい)


 現状が逸脱者単体に因るものなのか?

 それとも複数かを知ることができるだけでも大きく状況が変化する。

 また、アトラス絡みでスパイが暗躍した結果である可能性も存在しており、原因を特定することができた場合のアドバンテージがかなり大きい。


「最悪は機械知性体が多数。最高は別件で何者かが動いているだけ」


 状況の確認は完了した。

 ならば後は動くだけである。

 俺はカフェを出るとステーションへと向かったフォーネイを追う。

 すると進行方向を塞がれる形で交戦中の彼女をすぐさま発見。

 手にしたブラスター程度では有効な攻撃とはならず、防戦一方であることが見て取れる。

 彼女に貸しを作る意味はあまりないが、不本意ながらそいつに用ができてしまったので仕方がない。

 だから俺は何気なく、いつものようにホルスターからブラスターを引き抜く感覚でパルスガンの銃口を目標に合わせた。

 直後、俺の動きを察知した歪なロボットがこちらへとそのよく曲がる首が向けられる。

 そこに撃ち込まれるフォーネイのブラスター。

 しかし微動だにしないロボットはじっとこちらを見ている。

 警戒されてしまった以上、この中途半端な距離では回避される恐れがある。

 距離を詰めるか、それとも待つかの選択が迫られる中、そいつは確かな動きを見せた。


「ダ……」


 それは音ではなく声――開きっぱなしの口から出てきたのは紛れもない何者かの声。

 そして動き回る焦点の合わない目がしっかりと俺を捉え、ガクガクと体を激しく震わせながらそいつは絶叫した。


「ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダんな様ぁぁぁあああっ!」


 この叫びだけで俺はこいつが何なのかを理解した。

 これ、最悪のパターンだ。

(´・ω・`)復活。ご心配をおかけしました。

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― 新着の感想 ―
[一言] (´・ω・`)復活めでたい こんなん恐怖しかないんだよなぁ・・・
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