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不運なソーヤの運送屋  作者: 橋広功
63/109

59:金は全てに勝る

 アトラスへと回収された救命ポッドを前に、俺とアイリスが揃う。

 基本的にこの手のものは開封に幾つか手順を必要とする。

 有体に言えば、拾った相手次第では中から出るわけにはいかないケースを想定してのことだ。

 なのでこういった場合は最寄りのステーションでの立ち合いの元にポッドを開けることが多く、拾って船内ですぐに開封というケースは結構珍しい。

 コロニーと接続されていない採掘ステーションだろうが、無人の星系監視ステーションだろうが問題はないのだが、こうして船内での開封となってしまった。

 何故そうなったかと言えば、向こう側からの要請によるものである。

 怪しさの増したこの状況に俺は油断なく、いつでもブラスターを抜く心構えでハッチの開放を見守る。

 貨物室の商品に傷つけたくはないが、最悪の事態は常に想定していなかればならない。

 待つこと数分――ようやく各種の手順が完了し、救命ポッドがピーという警告音を発してハッチの開放を告げる。

 直後、救命ポッドのハッチが動き、中から大量のスモークが漏れ出した。

 反射的にブラスターを抜いて構えるも、何処からともなく荘厳な音楽が流れてくる。

 ガコンと音を立ててハッチがゆっくりを開き、大量の赤い花びらがその隙間から噴き出した。


「ほう、薔薇ときましたか」


 アイリスが感心したかのように呟くも動かない。

 つまりこの煙と花びらには何ら脅威はないと判断できるが、俺は油断せずにブラスターの銃口をゆっくりと開くハッチへと固定する。

 そしてハッチが完全に開放され、それが階段のような足場となる。

 煙の中に人影が見えた。

 数は1――事前情報通りだが、視覚と聴覚に加え、嗅覚までもが妨害されている現状、見たままの情報を信じるのは命取りだ。

 油断なく構えていた俺の前に現れた女を一言で表すならば「ゴージャス」だろう。

 煙が左右に別れるように吹き飛び、微重力のカーゴスペースに花吹雪が舞う。

 その中で、鳥の羽のような扇を片手に堂々と歩を進める金色のドレスを纏った美女。

 よく見れば無数の宝飾品がギラギラと輝いており、趣味の悪い成金に見えなくもない。

 しかしその全てを吹き飛ばすほどに視線を釘付けにする箇所が彼女にはあった。

 長い――いや、長すぎるほどのブロンドの髪。

 それだけならばまだ良かったのだが、その巨大なツインテールを前にすれば全ての印象がそちらへと集中する。

 クルクルと巻かれたツインテールは時に「ドリル」とも呼ばれると聞き及んでいるが、今目の前にあるのはそのような優しいものではない。


「トルネード……」


 連想された竜巻の姿を幻視し、思わず俺は呟いた。


「ほう、悪くない感想だ。見所のある男で良かったと言うべきかな?」


 馬鹿でかいツインテールを揺らし、煙の中から出たことでようやく全身をお目にかかることができたわけだが……それでも出てくる言葉はゴージャスに尽きる。

 ファッションとは縁遠い俺でもわかるその金のかけようには溜息が漏れる。

 ついでに戦闘には不向きと言うしかないその恰好に俺は銃口を下ろす。


「まずは私を助けてくれたことに礼を言おう」


 そう言ってアイリスがよくやるようにドレスを摘まみ優雅に一礼。

 揺れる二つのドリルに目が行きすぎて、その華麗な所作を鑑賞するに至らないのはどうにかならないものか?


「取り敢えず、俺と接触することが目的で間違いないな? あとこの音楽を止めてくれるか?」


「その通りだ。話が早くて助かる」


 彼女は頷き、一度後ろを振り返ると荘厳なBGMが止まり、それを確認すると一歩前へ出る。


「私の名は『ルーンムーラ・アステリオ』。世間に疎い元傭兵でもこの名には聞き覚えがあるだろう」


「おいおい、アステリオってまさか……」


 ルーンムーラは「そのまさかだ」と俺の想像を首肯する。

 

「バレア帝国最大の複合軍需産業トップであるアステリオ社の御令嬢が、俺に何の御用でしょうかねぇ?」


「用件とは他ならない。これについて、だ」


 そう言って床を指差すルーンムーラ。

 ああ、やっぱりかと俺は手で顔を覆う。


「単刀直入に言おう。この船を私に売るか、それともこちらの指定する工廠で廃棄してくれ」


「どちらも飲めないな」


「金額くらい聞いたらどうだ?」


 腕を組み、中々のサイズの胸を寄せながら俺の即答に対してルーンムーラが首を傾げる。

 残念ながらこれに関しては幾ら金を積まれても無理なものは無理なのだ。


「こっちの事情を察してくれとは言わないが、アトラスを所有するに当たって色々とあってな。それで手放すという選択肢が取れない」


「ふむ……確か元の所有者はナールダル伯爵だったな? 幾ら払えばその問題を解決できる?」


 あくまで金で解決する姿勢を貫くルーンムーラに対し、クレジットではどうにもならないことをやんわりと伝える。


「わかった。確か購入時の金額は120億だったな。ならば150億支払おう」


 しかしこちらの意思が固いとでも見ているのか、具体的な金額を提示するルーンムーラ。

 非常に魅力的な提案であることは間違いないが、それでも無理なものは無理だと拒絶。


「む、交渉事が下手なのか? これ以上の吊り上げは無理があるのがわからんか?」


「だから金の問題じゃないんだ。わかるか?」


 懇切丁寧に金で解決できる問題ではないことと、その選択は互いに寿命を縮めるようなものだと諭すも、彼女は機嫌を悪くして持論を展開する。


「何を馬鹿なことを……世の中、結局は金だ。金に勝る力などあるものか」


「あれ? なんかすんごい既視感を覚えるんだけど?」


 どこぞの暴力至上主義を思い出し、俺はこの女とは相性が良くないであろう予感と予想されるこれからの展開に天井を見上げる。

 そしてこの理論が果たしてあちら側にも通用するのか、と後ろに控えるアイリスへと視線を送る。


「確かに金の暴力を前にすれば我々とて手が止まります。経済という概念を持つ者からすれば『金を積む』という手段は確実な一手と言えるでしょう」


 まさかの肯定に俺は僅かながら戦慄する。

 アレと同一かと思っていたが、それ以上に厄介な相手のようだ。

「そちらのメイドはよくわかっているな」と機嫌を直して頷くルーンムーラに、アイリスは彼女の流儀に沿った提案する。


「我々を今回の件から手を引かせるのであれば、これくらいは用意していただきます」


「ふむ? 伯爵から派遣されたメイドに決定権があるのか? しかも金額は1億8千万か……これは、いや待て!」


 目の前に出現したホロディスプレイに映る契約文書に目を通していたルーンムーラが目を見開く。


「クラウン……そうか、そういうことだったか」


 こちらの状況を察したのか、金で解決できる問題ではないとわかり渋い顔をするルーンムーラだが、どうやら別の何かにまで理解が及んだらしく、口元を隠すようにして一人でブツブツと呟き始めた。

 そして考えがまとまったのか、一つ大きく息吐いて頭に付いたドリルを揺らすと俺に向かってこう言った。


「すまない。どうやら君たちを巻き込んでしまったようだ」


 状況がいまいちわからないが、恐らく彼女がアイリスをアルマ・ディーエと知らなかったことが何かに繋がっているのだろうと予想できる。

「ああ、面倒事の予感が的中した」と俺は肩を落として天井を見上げた。

(´・ω・`)そろそろ更新が不定期になります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 面倒ごとってわかりきってるのになんで救難ポッドを受け入れた?
[一言] まったり待っとります! ちなみに1クラウンって何クレジットでしたっけ? ざっくり探してみたけど探しきれなくて;
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