57:帝国人は驚愕した
(´・ω・`)あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
ブリッジから見える船を観察する。
触腕と思しき長い2本の腕のようなものを持つ生物のような船。
バレア帝国内では滅多に見かけないが、こんなデザインの船を使う種族などポライド以外に存在しない。
「なんでキノコが俺の船と接触を?」という疑問に加え、ポライドという種族に対しての印象が悪い俺はその通信に対し消極的となる。
そこに横から伸びた手が回線を開いた。
「おい」
「恐らく私宛のものですのでお気になさらず」
艦長の意向を無視するアイリスだが、どうやらこのメイドに用があっての通信らしい。
どのような経緯で発生した用件なのか気になるが、今はモニターに映った巨大キノコの相手をしなくてはならない。
なのでまずは向こうの通信の意図を尋ねる。
「初めまして。宇宙を駆ける隣人。こちらは武装輸送商会のソーヤだ。用件を伺おう」
軽く自己紹介をしてみたわけだが……相変わらず何も喋らない。
データが無言で送られてきたが、開封して大丈夫なものなのかと手が止まるも、意に介した様子がないアイリスが受信した内容をモニターに表示。
そこには簡単な挨拶とアイリスに渡すものがある旨を伝えるメッセージだけがあった。
「いつの間に取引なんてしてたんだ?」
「御主人様と出会う前からですよ。シークエセンテ共同体は我々から見ても有用な取引先です」
「マジか」という俺の驚愕を放置してアイリスは船を介して返事を送る。
するとブリッジから見える生物のような船の一部がぐにょんと歪んだかと思えば、そこから小さめのコンテナが一つ射出された。
こちらの船からも回収用のドローンが出されていたらしく、荷物を難なくで受け止める。
回収を確認したポライドの船がこちらから離れると通信が一方的に切られた。
相変わらず無口でよくわからん連中だな、と速度を上げて離れる船を見送ったところで、アイリスが一言。
「御主人様。彼らに発声器官は存在しませんよ?」
「あ、そうだったの?」
全く喋らず至近距離でも合成音声やデータ通信のみでやり取りするのはそういうことだったのか、と傭兵時代に出会ったポライドを思い出しつつ長年の謎にようやく納得がいった。
帝国とは隣接しておらず、遠い文明ではあるが一応程度に国交のあるシークエセンテ共同体。
謎の多い文明であり、彼らポライドはキノコ型の人類種として知られている。
俺が今まで見た彼らの印象は一言で言うと不気味。
歩行に適した体を持たないため、移動は専らフロートボードで行い、傘の部分から伸びる触手によって端末を操作する姿には不安を覚えたものだ。
「しかしクオリアと取引ができる何かがあるのか……」
「はい。ポライドは余計なことを考えなくて済む大変わかりやすい取引相手です」
あれのどこを見て「わかりやすい」と評するのかは不明だが、機械知性体にとってはそうではないらしい。
「あれがわかりやすいのか……」
そんな俺の呟きに答えるように、アイリスはその理由を説明してくれる。
「ポライドには『個』という概念がありません。全て一つに繋がっている集合意識体と呼ばれる存在です。それ故に彼らが求めているのは極めて単純。『生存』と『適応』が彼らが求める全てです。そこに『繁栄』が含まれていないが故に非常に付き合いやすい相手となります。交渉事に余計な思惑が一切混ざらないので我々の交渉相手として成立しているのです」
「……すまん。いまいち意味がわからんのだが、要するにこちらから接触しない、向こうの邪魔にならないのであれば無害。という認識で間違いないか?」
「愚かな御主人様は減点です。ですが、その認識で間違ってはおりません」
差し引きでプラスマイナスゼロとのことだが、最早ポイントなど考慮することもない。
使い道は聞いているのだが、ポイントの使用を拒否されるので意味がないのだ。
「それと、あのコンテナの中身についての詳細は聞かせてもらえるのか?」
「勿論です。遺伝子改造を行った原料で作成された食品のサンプルとなります」
一瞬あのピンクのワームを思い浮かべてしまったが、資料を見ると見た目が思ったよりもブロック肉に見えて美味そうである。
思わず「ほう」と感嘆の声を上げてしまうくらいには良い出来だ。
こんな技術を持っていたのか、と感心していたところにアイリスからの追加情報が入る。
「ちなみにシークエセンテ共同体の生物・遺伝子工学の技術力は我々を除けば銀河でも最高峰です。少なくともクオリアにはない技術を持っていることは確認しております」
「マジか!?」
まさかの「クオリアにもない技術」という行で反射的に驚愕の声を出してしまうが、アイリスは冷静に「でなければあのような船は作れません」ともっともな意見を述べる。
「というか、やっぱりあれ生物だったのか?」
「正確に言えば生物の中に船を埋め込んでおります」
「余計に意味がわからなくなった」
それから話していてわかったことは、シークエセンテ共同体の総合的な技術力はバレア帝国を上回るという驚きの内容だった。
特に先に話した生物・遺伝子工学の分野においては比較対象にすらならないとのこと。
国家が技術を秘匿するのは当然のことだが、それでもある程度は把握できる。
「バレアに技術力で勝るとすればマーマレアかル・ゴウと思っていたんだがなぁ」
「どちらも帝国と同等以下と評価しておきます」
特に軍事技術に秀でるル・ゴウ・セスが帝国と良い勝負をしていると思っていたのだが、どうやらクオリアが把握している情報では違うらしい。
詳細は教えてはくれなかったが、軍事力は確かに帝国と並ぶものの、その技術は一段低いものとなっているようだ。
アイリスが言うにはこのアトラスに搭載されている粒子砲に加え、装甲に使われている素材を開発したことにより、明確に一歩先を行くという評価となった模様。
思わぬところで仕入れた銀河情勢の話だが、当然これらには守秘義務が課せられる。
こんなことを話す相手などいないので然したる問題はない。
取り敢えず通信を寄越してくるような船は周囲には見受けられない。
ようやく通常運行に戻ったことを確認できた俺は、大きく息を吐き出して体を伸ばす。
やはり異種族との接触は緊張したのか、気持ち体が強張っていたように感じる。
本来ならば戦闘訓練をしている時間帯だが、少し時間を空けてからの方が良さそうだ。
その旨をアイリスに伝え、トレーニングルームの準備だけを頼むと俺はブリッジのコンソールから航路を確認する。
現在地であるヨブ星系の次はホモーク星系となっており、そこでネージアン星系へと最短距離を進む。
このネージアン星系にはカルホーズ、スノルキンへのルートがあり、このスノルキン星系が海賊が逃げ込むには絶好のポイントとなっている。
よって隣接するネージアン星系にも出張してくる海賊が多く、普通の輸送船はここを通るようなことはしない。
当然このアトラスならば何ら問題はなく、カルホーズ星系からタイタナへと入り、そこからマーマレア連邦と隣接するサージス星系に行くことができる。
このルートにより、本来ながらリカー星系から8つの星系を跨ぐところを6つで済ませることが可能となる。
星系二つ分を短縮すれば、如何に船の速度が遅くとも依頼の期日には十分に間に合う。
とは言え、少しばかり時間がかかり過ぎている、というのも難点だ。
「効率次第では他にも何か考える必要があるか?」
しばらく考えてみたが良いアイデアは浮かばず、あまりアイリスを待たせるわけにもいかないと、俺はモニターを消してトレーニングルームに向かった。




