54:落としどころ
ダータリアンの話を聞いて俺は少し考える。
どうしてそうなったのか?
何故そのような愚行を犯そうと思ったのか?
「……つまり、俺は舐められているわけだな?」
考えつく理由は「新人だから」や「補償するのが惜しい」など様々だが、それもこれも、俺が舐められているからに他ならない。
「貴方が新人であることを理由にしているのは間違いないわ。ギルドの権益のために、貴方には不利益を被ってもらおうというのが彼らの言い分」
完全に舐められている。
そっちがその気なら、と口を開きかけたその時、ダータリアンは溜息を吐いてこう続けた。
「それを煽動しているのが役員のヨンミーという女なんだけど……問題は彼女を唆した人物なの」
途端に陰謀めいてきたことで半開きの口が閉じ、嫌な予感がひしひしと伝わって来る。
「そいつの名前はローン・ハイドリッシュ。貴方たちと諍いを起こした後、辺境送りとなる途中で宇宙怪獣に遭遇して死亡したモーンの父親よ」
「いたな、そんな奴」という感想はさておき、まさかそんなところに因果が発生するとは思わなかった。
「……というか、それ私怨でやってるなら完全な逆恨みだよな?」
俺の言葉にダータリアンは頷くような仕草を見せる。
「息子を失ったことで何でもいいから貴方の足を引っ張りたいだけ、というのが私の見解。で、ヨンミーの周りの連中もローンに何を吹き込まれたのか、おこぼれにあずかれるとあることないこと吹き込む始末」
「ああ、つまり連中は俺のことなんてどうでもよくて、金のことしか考えてないわけだ」
話を聞いて納得できた俺は呆れる外ない。
こちらにはアイリス――アルマ・ディーエがいるのに無茶苦茶な理論を押し付けようというのだ。
武装輸送商会について何も調べていないと言っているに等しい。
「確かローン・ハイドリッシュは息子と違ってまともじゃなかったのか?」
「その息子が死んでおかしくなった、と見るしかないわね。当然ギルド上層部は勿論、まともな役員らも同じ意見」
「だったらそのヨンミーとかいう女をどうにかしたらどうだ?」
このもっともな意見にダータリアンは渋い顔をした。
どうやらその女にも面倒な何かがあるらしい。
聞いてみればこのヨンミーとかいう女、コネでギルドの役員となっており、切り捨てるのが難しいのだと言う。
その詳細とこれまでの調べを聞いて俺は唖然とした。
「あー、つまり何か? 議員のコネで流通ギルドの役員となった元愛人のアホ女が、豪遊し過ぎて金がないからギルドの金を横領した。その損失を埋めるために今回の件に至る、と?」
「概ねその通りね。もっと言えば、その着服にかかわっている連中が彼女の取り巻きの中にいて、引くに引けなくなっているおバカがいるせいで過激になってるの」
うへぇと新たな厄介事に舌を出して心情を吐露したところに横にいたアイリスが一言。
「御主人様は面倒事を引き込まねばならない決まりでもあるのですか?」
「俺が故意に引っ張ってきてるみたいな言い方するの止めてもらえる?」
甚だ不本意な物言いに抗議をするも、アイリスは俺を無視してダータリアンに質問する。
「確認します。クレジットの流れは把握しているのですね?」
「できている――と言いたけど、もう一度見落としがないか確認するよ」
この言い方からして既にアイリスは今回の件を調べ終えているようだ。
答えを聞きたいところだが、聞いたところで教える気がないのはわかりきっている。
そんなこちらの状態を察したのか変な物を見る目でこちらを見るダータリアン。
「取り敢えず、そっちの状況は把握した。だからと言ってこっちが引く理由は何処にもないな」
完全に流通ギルドの問題であって、俺がそれに巻き込まれた形である。
「当然ね。権利を失うということはとてもとても恐ろしいことよ。この件に関しては貴方は一切引く理由もなければ必要もない。『ギルドのために』と言う人間はいるけど、理由を知っている側としては言葉通り『お話にならない』のよ」
「で、そっちとしてはどうするつもりなんだ?」
「今後を考えるならば、ここで潰しておきたいというのが半数。折角だからもっと切り取れそうなところ切り取ってクリーンな体制を、とノリノリな人たちが少数。残りは日和見ね」
「なるほど。運営ってのも大変だな」
俺の心にもない労いの言葉にダータリアンは苦笑する。
「ああ、それと……フリエッタから言伝があるわ。『ごめん、気づかなかった』ですって」
「ちょっと管理能力問われてもいいじゃないか、あいつ?」
うちが人手不足って知ってるでしょう、と笑って返された。
まあ、事前に気づいたところでフリエッタに何かできたとは思えない。
アトラスのメンテナンスにはニルバー星系に立ち寄る必要があるので、いずれこれをネタにしてやるとしよう。
さて、そろそろ頃合なので建設的な話をしよう。
「それで、今回の件も含めてギルドは俺に何をしてくれる?」
「どうしたものかしらねぇ?」
「単純に金銭でもいいかとも思ったんだが、できれば長期的に儲かる方が都合が良い」
モニターに映るダータリアンは「まあ、そうくるわよね」と予想通りであると呟く。
そして送られてきたデータファイルを展開すると、そこには今回の件で俺が得られる報酬が選択式で表示されている。
流通ギルドの署名が付いたものなので、これがギルドの決定と見て間違いない。
「ランクⅢへの無条件昇格と各種優遇措置。または一部免税とランクⅡへの昇格、ね」
金銭面の報酬が書かれていないと思ったが、こちらはギルド側がお家騒動次第と希望している。
これを受け入れるのであれば、指名依頼での各種費用と時間換算での賃金が支払われ、流通ギルドで依頼の優先権を回数制限付きで得られる。
守秘義務が課せられる部分もあるが、概ね納得のできる範囲だ。
「悪くない落としどころだ」
俺はそう言って免税の付いた報酬を選択。
ついでにギルドの希望も受け入れるので優先権も獲得した。
「納得がいってくれて何よりだわ」
「最後に確認しておきたいんだが……この件はギルドで処理してくれると思っていいんだな?」
「勿論よ。流石にこんなものに貴方たちを巻き込むほど馬鹿ではないわ」
その言葉を聞いて俺は「ようやく終わったか」と安堵の息を漏らす。
しかしここでアイリスが待ったをかけた。
「こちらからも最後に一つ。度し難いほどの愚か者の行動は時に狂人の域に到達します。そんな狂人の凶行として我々が不利益を被ることのないようお願いします」
そう言ってアイリスは優雅に一礼する。
それは警告であり、牽制でもあった。
俺はすぐには思い至らなかったのだが、アイリスは追い詰められた輩がこちらに対して自爆特攻を仕掛けてくるケースを想定していたらしく、如何なる形であれ、こちらが巻き込まれた場合「仕方なかった」で済ますつもりはないことを予め伝えたのだ。
「肝に銘じておくわ。確かに頭のおかしい奴のしたことだから、で済ましてよい理由はないし、それを阻止するために動くことも確約する」
これで本当にこの件は終了した。
ギルド内の問題に巻き込まれ、勝負の見えた戦いの果てに、自暴自棄に陥った馬鹿が何故かこちらに向かってくるケースとか考える必要はあったのだろうか?
そんなことを考えなくもないが、追い詰められた人間は何をするかわからない。
その可能性を潰すことはできないが、何かあっても責任は取ってもらえることになった。
思えばギルドの金を着服して、その補填として他人の報酬をなかったことにするような思考の持ち主がまともであるはずもない。
「確かにもっと考えておくべきだった」と自分の読みの甘さを反省する。
俺が交渉事を最後まで一人でできるようになるのはいつの日か。
そう思わずにいられない一件であった。
(´・ω・`)明日はお休みです。次回更新は月曜日になると思われます。




