51:決着しなかった事態
(´・ω・`)12月に出てくる蚊はでかい。あと更新再開。しばらく投稿時間は安定しないかもしれない。
超弩級戦艦アトラス――バレア帝国が誇る最新鋭艦であり、帝国の最新技術をこれでもかと詰め込んだドレッドノートである。
過剰とも思われる火力、防御性能を保有するが、それは速度を犠牲に得たものであったために「艦隊行動に難あり」と見做され欠陥機扱いされることもままある。
しかしそれは帝国による欺瞞情報であり、アトラスは環境問題から条約で禁止された粒子砲を搭載した秘密兵器という側面を持った船でもある。
それも残留粒子問題を解決した上での満を持した運用である。
そんな最新鋭艦を個人で所有するのが俺だ。
当然のことながら、軍用艦に分類されるクラス3以降の船は通常民間人は購入できない。
だが、偶々ギャンブルで大金を得た俺に目を付けた貴族のドラ息子が、その金欲しさに勝手にアトラスを売りつけたことが発端となり、幾多のトラブルの結果、その所有権が認められることとなった。
その原因となったのがクオリアであり、機械知性体――アルマ・ディーエの介入により俺は窮地を脱し、新たな窮地へと足を踏み入れた。
12億Crという一生かかっても払い切れない負債を抱え、俺はその返済のためにクオリアから派遣されたアイリスの勧めで、元傭兵という経歴とアトラスという戦力を生かして武装輸送商会を設立。
この銀河で護衛不要の運送屋として再起を図った。
そんな順調に荷を運ぶ俺たちの前に、運悪く厄介事が舞い込んでくる。
最初はただの馬鹿が突っかかってきただけだったが、それが思わぬ大事となり、その結末が俺の経歴に曰くを付けた。
それが原因となったかどうかはともかく、機密データ満載のアトラスへの不正なアクセスを理由に、流通ギルドが俺への詫びとして指名依頼を寄越すことになる。
しかしその指名依頼は侯爵である依頼人からの理不尽な理由で破棄された。
それすらも予定通りであったがために、莫大な利益を上げることには成功した。
ただ一点、問題があったとするならば――その侯爵家のお家騒動を巡る一件が、思わぬ方向へと転がったことである。
結果、俺は現在猛特訓中となっている。
「次です。訓練プログラムの更新を希望したのですから死ぬ気でついて来てください
「わか、っている!」
ぶっ飛ばされては起き上がり、投げ飛ばされては起き上がり、確保されたら逃げ出してを必死に繰り返している。
一仕事を終え、よい感じに稼いで後は帰るだけだったはずなのに……これは一体全体どうしたことか?
それもこれも、全部あの戦闘狂が悪い。
ムオルクリオ星系から無事に脱出し、ナーベステル星系にてリゾート惑星を眺めつつのんびりしていたところ通信がきた。
ダータリアンからの連絡ならば早すぎるので、俺はてっきり「お家騒動が終わったのだろう」と通信回線を開いた。
そこに映っていたのは少し前まで護衛対象であった暴力幼女ことシーラ。
「さて、まずは『世話になった』と挨拶しておこう」
普通であるならば、彼女がこちらに連絡を寄越すということは、状況の悪化による救援などを真っ先に思い浮かぶ。
しかし、写された映像を見れば、そのような状況にないことを一目瞭然だった。
「取り敢えずこちらの状況を説明するが……見ての通りイズルードル侯爵家は我が継ぐこととなった」
尊大な態度を取る幼女が腰掛ける肌色の何か――視線を下げればその腰掛けとなっているものが人であることがわかる。
しかもその人物こそが、パンツ一丁にされ、目隠しと猿轡をされたゼノリック侯爵であることが見て取れる。
痛々しいまでの無数の傷跡と青痣で何が起こったかを想像することは容易いが、まさか本当にやりやがるとは誰が予想できただろうか?
この少女は宣言通りに簒奪した。
しかもお得意の暴力によって、である。
つまり侯爵は暴力に屈したということだ。
帝国貴族ともあろう者が、身体強化されているとはいえ幼女の力に屈するとはなんとも情けない。
椅子替わりにされている侯爵の息遣いが少々荒い気もするが気のせいだ。
新しい扉を開いてしまっている可能性など考える必要などない。
しかしこの状況は決して俺にとって悪いものではない。
シーラが侯爵家の当主となるならば、その立役者とも言うべき武装輸送商会にはどのような恩恵が齎されるのか?
暴君の誕生にはこの際目を瞑るとして、シーラを支援したのはうちだけだ。
言い換えるならば一人勝ち。
つまり、今後侯爵家に取り入ろうとする者が、俺に仲介を頼みにやって来る可能性も十分に考えられる。
「返済が捗りそうな展開になってきた」とほくそ笑んでいたところ、目の前のモニターから冷水をぶっかけられる発言が続いた。
「しかし、だ。前当主の弟であるハインリックがこれに異議を唱えた。夫人とその息子らを黙らせることは容易かったのだが……こちらはどうして中々手強い。というのも、何故かあの時見た映像が向こうの手にあってな。それのお陰で『不義の娘』と指さされ、我がこの豚――ああ、前当主を父と思っていないことを暴露され、簒奪として扱われたことで侯爵家を掌握するに至っていない」
話の流れが一気に変わり、俺の額を冷や汗が伝う。
「豚と違ってハインリックは無能ではないらしく、こちらに隙を見せないどころか痛いところを的確に突いてきおる。いやはや、中々に強敵だ」
モニターに映るシーラが頭を振ってお手上げのポーズを取るが、その顔には笑みが浮かんでいる。
「それもこれも、貴様があのデータをハインリックに渡してくれたからだ」
その言葉で俺の体温が一気に下がるのを感じる。
順当にハインリックが勝ち残れば何の問題もなかったが、シーラが勝ち残った場合に致命的なデメリットが発生することが判明した。
頭の中で最悪のケースを想定する中、確実となる発言がモニターに映るシーラの口から発せられる。
「貴様のお陰で随分と手強い障害が我が前にいる。この礼はいずれ必ずする。それまで首を長くして待つがよい」
通信はこれで終わった。
俺の頭にあるのは今すぐ戻ってハインリックに肩入れするか、それともシーラに対して返信を行うべきかの二つ。
だが、その前に確認しなければならないことがあることに気が付くことができた。
「アイリス、これは想定の範囲内か?」
もしもこれが予想通り、または想定内に収まるものであるならば問題はない。
「いいえ。シーラが生き残り侯爵家を乗っ取る可能性は極めて低かったので除外しておりました」
つまりこれからどのように転ぶかはわからない。
改めて予想を聞いてみたが、ただ一言「備えてください」と言うだけに終わった。
どう転んでも同じような影響、または結末が訪れるようだ。
ならば、と俺がやるべきこととして選んだものが――訓練だった。
「取り敢えず、アレと戦って、生き残れるようになるまでは!」
アトラスのトレーニングルームにて、俺は気合を入れて目標を叫ぶが、だから何だと言わんばかりにアイリスに張り倒されていた。
「だったら機械化するなり強化するなりすればよろしいかと」
身も蓋もないことを言うアイリス。
以前の俺だったら、金銭面で問題なければ手を出していた。
「お前が一切手を加えない、というのであれば考慮する」
「では頑張ってください」
上半身を起こした俺に訓練再開を告げるアイリス。
肉体を弄ろうものならこの機械知性体は容赦なく介入してくる。
しかも清々しいことにその可能性を一切否定していない。
だから選択肢から消えたのだ。
「まずは戦闘スタイルの確立。それから適切な武装の使用で互角の勝負までは可能なんだよな?」
「はい」
「なら、そこまではちょっと自分を追い込む。付き合ってもらうぞ」
アイリスは「畏まりました」と一礼する。
そして俺は今日もトレーニングルームで気を失うように眠りついた。
シーラ「強敵だな。アフターサービスも素晴らしい! これは礼をしてやらねばな!」
ソーヤ「お礼参りかよ! クソが! 返り討ちにしてやらぁ!」




