43:ここは任せて先に行け
ハイパーレーンを越えてムオルクリオ星系に到着した。
一応無茶な襲撃の可能性もないわけではなかったが、まだ理性のある相手らしく宙域にはそれらしい艦影はなし。
同じ手は二度使わない主義なのか、それとも対策をされていると考えて控えたか?
前々回同様の歩兵によるほぼ自殺戦術もなかった。
ちなみに回収された生存者7名は無事に保護されたらしい。
彼らは艦隊戦が起きた宙域で生存者を救助していたため、最後の襲撃には加わることはないとのこと。
敵方の戦力が増えないことは良いことだ。
終着駅のセカンダリステーションまで33時間。
それまでに武装のチェックを行う。
こちらがムオルクリオ星系に到着したことは伝わっているはずなので、ゼノリック・イズルードル侯爵からの連絡も待たなければならないので、テキパキと終わらせよう。
(通信傍受の可能性も考えて時間ギリギリに連絡してくることが予想される。最初から詳細を決めてくれていれば楽だったんだがなぁ)
不測の事態を考慮しての選択なのだろうが、それで振り回される側は堪ったものではない。
無茶な要求がないことをただ祈るのみである。
そんな俺の祈りが何処に行ったのか、侯爵からの連絡はステーション到着の5分後。
しかも合流ポイントがコロニー内部で30分後ときたもんだ。
つまりそこまでシーラを護衛しつつ時間厳守、ということだ。
「今すぐ武装をコロニーに入れるように変更してからダッシュで来いとの仰せだ殺すぞ」
「御主人様。本音がダダ洩れでございます」
そう言って軽く礼をしながら俺の武装変更を手伝うアイリス。
この時ばかりはこの手際の良さを有難く感じる。
管制室への応答も終わらせているので、後はドックのアームに固定してもらえばアトラスから降りることができる。
一応シーラに変装をさせようとしたのだが、既に情報が流出しているので生半可な手段では無意味とアイリスが忠告してくれる。
「やるなら徹底的にやるべきでしたね。御主人様が私を頼っていただけないので何も言いませんでしたがメイドならば骨格情報まで完璧に誤魔化すことが可能でした」
その言葉に「素直に頼るべきだったか」と少し後悔。
「今なら格安の2980Cでクオリア製変装セットをご案内できますが?」
しかし続く言葉に前言撤回。
頼らなくて正解だった。
コロニーに入るならば使える武装は自衛ができる範疇となる最低限。
ステーション内部でも似たようなものだが、パワードスーツは勿論、強化外装すら制限がかかる。
治安維持という名目で武装が著しく制限される中、相手は貴族特権で普通に兵器を持ち込んでいる可能性がある。
中々に難易度の高い場所を合流ポイントに選んでくれたものである。
ちなみに場所は高級ホテルのようだ。
一応貴族向けの区画ということもあって警備が厳重。
近づきさえすれば安全は確保されたも同然のようなのだが、どう考えてもステーションからの経路で襲撃がある。
アイリスのお陰で準備は完了。
通路で合流したシーラと顔を合わせ頷く。
「依頼人との合流ポイントは覚えたな? わかっていると思うが、お前さんを送り届けることが第一だ。予想される相手側の戦力の関係上、場合によってはお前だけで向かってもらうことも十分あり得る。その場合、お前が侯爵の元に辿り着くのに時間をかければそれだけこっちが危うくなる」
わかるな、と念を押すとシーラは黙って頷いた。
しかし俺は念には念を入れてもう一度釘を刺そうとする。
「わかっている。我とて目的を違える気はない」
そう言って俺の前を歩きアトラスから一歩外へ出た。
襲撃はなし。
降りた直後に狙撃されるくらいことはしてくるかと思ったが、予想が外れたようで何よりだ。
(やはり本命はコロニー内部か)
治安維持部隊が到着するまでの時間を考慮すれば、ステーション内部での襲撃はリスクが高い。
また、各種施設や船の整備などの都合上、ステーションでは使用可能なパワードスーツも存在する。
一方的な制限が課せられるコロニー内での襲撃を本命とするのは当然と言うべき選択だろう。
但し、若干一名そんな縛りなど関係のない者がいる。
最悪はアイリスに頼った挙句に侯爵様の権力で証拠隠滅のパワープレイ。
報酬がどれだけ低下するかわからないので、こちらに関しては本当に最後の手段だ。
周囲を警戒しながらステーションを歩く。
顔を堂々と晒しているのでとっくに見つかっているだろう。
それどころか「既に配置を終えているようですね」と後ろからアイリスが敵情報をボソッと呟く。
船を降りて5分と経っていないのに準備完了。
どうやら侯爵側の情報はダダ洩れなのかもしれない。
「となると正面突破か?」
遠回しに「迂回路ある?」と聞いてみたが、こちらの位置情報が筒抜けなのでお勧めできません、とのこと。
最悪は市街地戦となり、戦闘後の状態次第では損害賠償を背負わされる危険があるようだ。
「コロニー内で戦闘行為を行うなら人目の付かないところに限る」
そんなものは常識だ、とばかりに鼻を鳴らすシーラ。
お前はどこのマフィアだ。
何事もなくステーションのゲートに到着。
入場にも問題はなくコロニーへと足を踏み入れる。
迎えでも寄越してくれればそれでお役目御免だったのだが、こちらに反応を示す気配はない。
仕方なしに携帯端末のホロディスプレイに映るルートを目にして呟く。
「残り15分はきつくない?」
「普通に車を使えばよろしいかと」
それもそうだ、と近場で車をレンタル。
ゲート付近には必ずと言ってよいほどレンタル屋があるので時間はかからなかった。
車に乗り込むが久しぶりのドライブを楽しむ余裕はない。
「レンタルされることを見越して車に爆弾が設置されてるとかってある?」
「ありませんので前を見て運転してください」
はいはい、と生返事をしながら周囲を警戒しつつ車を走らせる。
襲撃があるとすればこの先にある倉庫エリア。
最短距離を取るならばそこを経由してホテルのある歓楽街エリアとなる。
ここを迂回するなら繁華街、歓楽街となるので巻き込まれる市民が大量に出る。
逆に市民を囮にすることでシーラを安全に送り届ける案もあったが……その場合、侯爵がその地位を揺るがされる恐れがあり、最悪切り捨てられて主犯に仕立て上げられる可能性がある。
結果、相手の有利な条件で襲撃を許す外なくなった。
もうちょっと侯爵が融通を利かせてくれれば良かったのだが、巨額の報酬を考えれば致し方なし。
そして、案の定倉庫エリアに入ると同時にアイリスから警告。
「来ます。回避してください」
何を、という前にその正体がわかった。
「いきなり、それか!」
道路の先に見えたのは一人の大男、その肩にはまごうことなきロケットランチャー。
ハンドルを切る俺が見たのはこちらに向かって放たれた弾頭。
それを避けるための急な方向転換に乗員全員が大きく揺さぶられる。
「御主人様。安全運転でお願いします」
「ロケットランチャーより危険な運転した覚えはないぞ!」
車の後方で爆発が起こり、正面にはまたしても大男。
しかし何も持っていないこととスーツ姿に似つかわしくないほどの体格から、まず間違いなく強化外装を中に着込んでいることが見て取れる。
ならばとアクセルを踏み込み跳ね飛ばしてやろうと車を加速させる。
衝突はしなかった。
何故ならば、スーツの男は自分の腕を走る車のタイヤの下に潜り込ませ、浮き上がった車体を掴むと蹴り上げたのだ。
「はあ!?」
俺が驚愕の声を上げるとフロントガラスから見える景色はコロニーの空。
反対側の都市区画が見えたところでアイリスの手がこちらに伸びた。
そして爆発と衝撃――車から飛び出た影は二つ。
自力で脱出したシーラとシートベルトを引き千切り俺を掴んで飛び出したアイリスだ。
直後、空中でレンタカーが爆発四散。
その衝撃で着地を少々失敗したが、不格好に転がることで怪我はなし。
偶々バイクで近くを走っていた青年が驚きのあまり盛大に街灯にぶつかっていたのが目に入る。
バイクから転げ落ちた青年が襲撃者の武装を見て一目散に逃げ出した。
「巻き込んですまない」と思いつつも、実に都合の良いバイクに目を付ける。
今まさに襲撃者と戦おうとしているシーラの首根っこを掴み、こちらを振り向かせるとバイクに視線を送る。
「乗れるな? 行け」
その顔は遊びに行くのを止められた子供そのもの。
しかし自分の立場を思い出したのか、襲撃者とバイクを交互に見る。
「お前がここで行かなきゃ、被害がここだけでは済まなくなる。さっさと行って、この争いを止めて来い」
「しかし、だな」
先ほどから気になる相手がいるのか、視線がそちらから外せないようだ。
俺の勘も言っている――あいつはヤバイと。
「こっちにはアイリスもいる。何の問題もない。わかったら、ここは任せて先に行け」
「ここで死ぬ気か?」
「どう解釈したらそうなる?」
唐突にシーラが疑惑の目を向けてきた。
死ぬつもりなんてあるわけないだろう、と言う前に今度はアイリスからも同じことを聞かれた。
「御主人様はここで死ぬおつもりですか?」
「あるわけねぇだろ」と声を荒げる俺に首を傾げる二人。
訳のわからないことで急に同調するのはやめろ。




