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不運なソーヤの運送屋  作者: 橋広功
26/109

24:この擬態は吉と出るか?

 翌日、朝食を終えた俺はとある疑問をアイリスにぶつけてみた。


「聞きたいことがあるんだが……」


「スリーサイズは義体調整で如何様にもできます。お好みをサイズを提示していただければ変更致します」


 そうではなく、と昨日の続きというわけではないが、ふと俺に最も適した武器は何かという疑問が浮かんだ。

 傭兵として白兵戦の経験はそれなりに積んできたが、アイリスが把握している俺のスペックの最適解となる武装を聞きたくなったのだ。

「そういうことでしたら」とアイリスは俺の目の前にホロディスプレイを出現させる。

 表示されているのは様々な銃を始めとする武器や各種アタッチメント、項目の中にはパワードスーツもあり恐らくは大企業のページだろう。


「武装のカタログとか久しぶりに見たな」


 俺の知っている銃と随分デザインが変わっているが、何か技術革新でもあったのか、とそのスペックを見て理解する。


「……クオリア製じゃねぇか」


 お値段も全てC表記。

 とてもではないが買える代物ではない。


「御主人様にお勧めするのはこちらのコンバットパワードスーツの一式となります。減衰フィールド搭載型としては最もコストパフォーマンスに優れる激しい銃撃戦を想定した重装タイプ。お値段もセットで172万Cと大変お安くなっております」


「破産で済まない金額なんだが?」


 口だけ笑う俺を見て「わかっております」と全てを察しているかのように頷くアイリス。


「ご安心ください。御主人様ならば特別に体でお支払いすることも可能です」


「絶対にしないからな?」


 命あっての物種とはよく言ったものである。

 即座に拒絶した俺にアイリスはまたも「わかっております」と言わんばかりに頷き、的外れな説明を始める。

 

「御主人様。なにも私は『瓶詰にさせろ』と言っているのではありません。徹底的に余すことなく最高のご奉仕を昼夜欠かさず受けていただき私なしには生きていけない体にしたいだけです」


「お前らの奉仕の概念が理解できない」


 そもそも瓶詰とは何か?

 言葉通りに解釈するなら人間を生きたまま瓶詰にするということなのだろうが、そんな物騒な奉仕があってたまるか、と否定の言葉を口にするも、アイリスは神妙な顔を作って涼し気に流す。


「御主人様。ご奉仕の道は多種多様。奥深き道なのです」


「それっぽいこと言ってる風に聞こえるが騙されないからな?」


 心外です、と頬を膨らませるメイドのなんと信用のないことか。

 結局この話は俺が自分の携帯端末でカタログを出したところ、アイリスが「どれも大差がないので同じです」とクオリア基準で語ったことでまたの機会となってしまった。

 アルマ・ディーエからすれば帝国の銃はどれも同じようなものらしい。

 これに関しては「民間人が持てる銃だから性能差は微々たるもの」という説明に、それもそうかと納得した。

 なお、軍用を含めても評価は変わらないそうだ。

 そんなわけで銃器に関しての話は終了し、それならばとパワードスーツについて聞いてみる。


「目の付け所は悪くありませんが時期尚早です。基礎能力が十分と言える段階に入ってからの購入をお勧めします」


 俺自身がある程度完成されるか、スタイルの方向性が定まるかしない限りは碌に使いもせずに買い替えることになりかねないと忠告される。

 自分でパワードスーツを勧めておきながらと思ったが、基本スペックが違いすぎて使用者である「俺」という要素が誤差の範疇に収まるらしい。

 この解説に少々凹むところはあったが、それ以上に俺の提案がすんなり通ることがない辺りにまだまだ勉強不足と理解させられる。

 堂々と俺の目の前でポイント加算しているアイリスを見て溜息を一つ漏らす。

 果たして俺はアイリスのこれを止めさせられる日が来るのだろうか?




「すまん。もう一回言ってくれ」


 組合の応接室にて――仕事を見繕うから2、3日待ってくれとの要望通り、待った結果が信じられないものだった。


「武装輸送商会に依頼する仕事の手配が進んでいない」


「……理由は?」


 聞けば納得の行く理由。

 だがそれで納得しないのが人間だ。


「どこも新参に任せる仕事はないの一点張りだ。こっちが幾ら保証すると言っても頑なに話を聞こうともしない」


「『どうにかする』と言っていただろ?」


 俺の言葉にフリエッタが渋い顔をする。

 理由としてはもっともだが、果たしてそれだけだろうか、という疑念がある。

 そんな俺の表情を察したのか、溜息を吐いてフリエッタが話し始める。


「この前の一件でお前さんらに対する情報の開示を求められ、それを規則として断った。公開されている情報が少なすぎるのもあるが、信用できないと突っぱねられている」


 おまけに元傭兵という経歴と「元」となった理由が錯綜しており、正確な情報を掴めない連中が警戒を隠そうともしていないとのことである。

 そしてこの錯綜する情報が何処から来たのか?

 誰が広めているかが全くわからないらしい。


「つまりこれが流通業界の競争、ということか」


 傭兵時代にもあった足の引っ張り合い。

 どの業界も世知辛いとソファーにもたれて天井を見上げる。


「突然現れた新参者が、あの面倒くさいモーン・ハイドリッシュを追放に追い込んだんだ。しかもその人物は元傭兵で『武装輸送商会』なんて武闘派な名前を名乗っている。興味よりも警戒が勝って距離を置かれたと見ている」


「そこかー……」


 俺から言わせてもらえればあれは完全に自爆である。

 だが周りにはそうは見えなかったようだ。

 確かにアイリス関連は公開できないので、真相を知ることができるような業者はまずいないだろう。

 アトラスもそうだが、うちは公開できる情報が少ない。

 結果、信用問題に発展するのも当然と言える。

「なにこれ、めんどくさい」と半ばやけっぱちな思考が口から漏れ、運送業を始めようと言い出したアイリスに目を向ける。


「なあ、こういったケースを想定していないわけじゃないんだろ?」


 暗に「何かいいアイデアあるよね?」とアイリスへと顔を向けた俺が尋ねる。

 そこにフリエッタが乗っかった。


「ギルドの権限で強引に仕事を回すこともできなくはないが……それをすると後が続かない上に不信感でこっちも立ち行かなくなる。現状を打開できる案があればお願いしたい」


 俺とフリエッタの視線を受け、アイリスが仕方ないという仕草をわざわざ挟んでから口を開く。


「どう足掻いてもアトラスの存在は隠せません。そして公開することにも難がある。だから偽装するという案までは良かったですがあのサイズの船に施すには金銭面に問題がある。だったらこうしてしまえばよいのです」


 そう言ってアイリスはホロディスプレイに表示される武装輸送商会の所有する船の項目にこう書き加えた。


「……ジャンク船」


 むしろ書かない方が良かったまであるイメージダウンに、俺は読み上げると同時にがっくりと肩を落とした。

 しかしアイリスは堂々と続ける。


「あの船は中古品として購入しております。そして現在内部を切り取るなどして改修中。加えて武装の一部を売却しておりますので『パーツ単位で切り売りされた船』としてジャンク船と呼称することに何の問題もありません」


「いや……まあ、確かにそう呼ぶことに問題は発生しない、はずだ……が?」


 思考を言語化することに詰まっているフリエッタが頭を捻りながら「これで良いのか?」と複雑な表情を浮かべている。

 そもそもこれで問題が解決するのか、という話だ。

 そんな俺の疑問を読み取ったのか、アイリスはこれにどのような意図があるかを明らかにする。


「ジャンク船故に所有船を公表しなかったと理由にすることで一部の疑念の払拭。ついでに駆け引きも満足にできない荒事に強いだけの新人と侮ってもらいましょう。経歴を知れば勝手に勘違いしてくれます。また船の詳細に関しても足は遅いが武装は軍用という説明にしておきます。軍用に関しては訳アリ品ということにしておけば問題ありません。大型なので積載量の誤魔化しもできます」


 ここまでアイリスが解説したことでフリエッタが「そういうことか」と頭を抱えた。


「一応言っとくけど、あんまり釣り出して殴るような真似はしないでね?」


 フリエッタの懇願を「そうならないようにしろ」とばっさり切り捨てるアイリス。

 冷徹なメイドを指差しこちらを見るフリエッタに頭を振って俺は応えた。

 取り敢えずアイリスがよからぬことを考えているのはわかった。

 しかし残念なことにそれを止める力が俺にはない。

 恐らくこちらを舐めてかかった連中に口実を作らせ、そこを突いて逆に弱みを握る、または踏み台として利用するつもりなのだろう。

 正解かどうかはわからないが、多分間違ってはいないはずだ。


「御主人様。ここまで来たのですから依頼を見ておきましょう。個人業者向けの依頼であれば現状でも受諾できるものがあります」


 アイリスに提案に頷き、俺は応接室を後にする。

 儲けの大きな企業案件はフリエッタに任せるとして、荷の少ない小規模な依頼でも数をこなせば大きな儲けとなるはずだ。

 後はジャンク船との詐称……もとい、擬態が上手くいくことを祈っておこう。

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― 新着の感想 ―
[一言] SMのSはご奉仕という話を思い出しました。
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