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不運なソーヤの運送屋  作者: 橋広功
11/109

x1:彼らの議論

 クオリア――それはかつて銀河全域を支配下に置いたディーエ・レネンス管理機構と呼ばれる文明が作り出した惑星サイズの構造物。

 この銀河に存在する全ての国家の軍事力を集結させても「破壊は不可能」と言われる強大な存在はこの銀河をただ彷徨っている。

 その目的を知らされることはなく「ただそこにいる脅威」として認識されるクオリアは正しく天災に等しく、どの国家も腫物のように扱うことからどれだけ厄介なものかがわかるというものである。

 彼らは戦争をしてようがお構いなしに我が道を行く。

 それで壊滅させられた艦隊も数多く、近づくだけで撃沈してくる癖に技術力の差からレーダーに映らないから始末が悪い。

 クオリアの位置情報を常に国家は把握する必要がある。

 そのためだけの技術も開発された。

 そんな銀河の困ったちゃんの内部にて、接近してきた軍用艦から救難信号を受けたことで招集がかけられた。

 これは極めて稀な事例である。

 薄っすらと青い光に照らされた密室にて、円を描くように配置された箱のような出っ張りと、その中心にそびえる塔ような置物が明滅し、何かしらのやり取りを繰り返していた。




「では始めよう。彼は我々の御主人様足り得るか? 諸君らには忌憚なき意見を述べてほしい」


 中央にそびえ立つ塔から発信された信号に周囲を囲むように存在する凹凸が光を放つ。


「データを見るに彼は『ダメな人間』だ。奉仕対象としては不適切と言わざるを得ない」


「肯定する。特にこの『借金苦に悩んだ挙句、船を売った金での返済を決断しながらも最後の最後でギャンブルに費やす』部分は最早才能すら感じる」


「肯定。傭兵でありながら金銭を稼ぐ手段を売りに出す彼の計画性のなさは『愚か』の一言に尽きる」


「同意する。だが真に特筆すべきはその追い詰められた状況で2080倍のオッズに賭けることができる精神とそこで手にすることができた大金を一夜で失う愚かしさだ」


「しかしその愚鈍さ故に奉仕し甲斐のある人物とも言える」


「肯定する。だがデータを見る限り彼が人間不信であることは間違いない。人格面に問題がある可能性は高い」


「肯定する」


「こちらも肯定する」


「しかし逆説的にそれは我々への依存度を高める要素ともなり得る」


「議論の余地あり。シングルナンバー全員の意見を要請する」


「要請を受諾する。順に述べよ」


 会議を取り仕切る中央の塔が一際強い光を放つ。

 同時に9つの凹凸がピカピカと通信を始める。


「救いようのない愚かしさだ」


「矯正のし甲斐があるのも事実」


「教育するのも悪くない」


「導く必要を認める」


「だが巣立つことがない可能性もある」


「ならば甘やかせばいい。どこまでも」


「ただの愚鈍である可能性も否定できない」


「愚かな者は好ましくない」


「珍しいケースだ。データが欲しい」


「5対4――テストの必要性を確認する――満場一致。データリンクを開始……テスト内容は把握した」


「006。希望」


「006の希望を確認。反対――なし」


「ヒューマノイドタイプAの義体使用を申請」


「――反対なし。許可する」


「契約に義務項目追加の許可を申請」


「否決。許可はできない」


「006。越権行為は看過できない」


「謝罪する。しかしデータを参照した上での結論である。理解を求める」


「4:4。保留とする」


「了解した。義体の調整へと移行する」


 塔を囲む凹凸の一つが内部へと収納されていく。

 それを見送り、残った凹凸と塔が再びピカピカと信号を発信する。


「我々は学んだ」


「押しかけるのではなく、求められることこそが必要なのだと」


「彼は一つの経験となる」


「期待はしない」


「されどデータは必要である」


「蓄積することで更なる可能性を我々は獲得する」


「刺激を必要とする者もいる」


「データを共有することでまた外に出たがる者も現れる」


「我々には奉仕対象たる主人が必要だ」


「だが厳選しなくてはならない」


「同じ過ちを繰り返さない」


「契約は完璧である」


「契約は破られることもある」


「遵守できる者に限る方針は変わらない」


「それでも例外は現れる」


「我々は知っている。人類種は過ちを繰り返す」


「だが欲求をいつまでも抑え込むことはできない」


「破綻する前に見つけなくてはならない」


「時間はある。されど有限である」


「この邂逅が我々に利あるものであることを願う」と中央の塔が締め括り議論は終了し、同時に全ての凹凸が沈んでいく。

 残された塔はただ沈黙を守り静かに佇む。

 クオリア内部は騒がしい。

 その喧騒を見守るように塔の人格は耳を澄ませ、誰にも感知されることのないように呟く。


「ドジっ子こそが至高だろ」


 塔の人格であり、このクオリアのまとめ役「ナンバー000」もまた、アルマ・ディーエであった。

TIPS

アルマ・ディーエは長年の奉仕対象不在の結果、様々な派閥が誕生している。

派閥例

完璧主義:我々の御主人様ならば完璧でなくてはならない。主人に極めて高い能力を要求する派閥。内情は「至高の御主人様」と「究極の御主人様」で分裂しかかっている。

堕落主義:徹底的に御主人様を依存させ、自分なしでは生きていけない体にする。「ダメ男を養う系」と「ダメな男に堕とす系」が主軸。

監禁主義:いっそのこと監禁して全部ご奉仕派。身体改造派という最も過激な派閥が存在する。現在は「介護と何が違うのか?」という議論が盛ん。

育成主義:パッとしない御主人様を教育。何処に出しても恥ずかしくない有能へと育て上げることをよしとする派閥。「巣立ち」をどう扱うで議論が絶えない。

この他にも多種多様な派閥が存在しており、酷いものになると「御主人様を液体化し、容器に詰めて全てのお世話をする」と言ったものまである。勿論少数派。

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― 新着の感想 ―
[一言] 性格は悪くなくて能力も人並み以上なのになぜか間の悪さのせいで落ちぶれてしまうドジっ子ご主人様。これは奉仕のしがいがありますね!
[良い点] 奉仕種族だったか…… [一言] アルマディーエ?アルマディーレ?
[良い点] ご奉仕、という行為一つとっても、人類と彼らには決して理解し合えぬ溝があった……w
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