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超常戦争  作者: 獅施額羅
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第九章 開戦

        第九章 開戦


 ある朝、二人の少年はさえずる鳥の声で目を覚ました。五百年前に発動した術の自然解除が早まることはなさそうである。

 目覚めた少年たちは、まだ半開きの目を擦りながら朝食を取る。

「ついに来たな、この日が」

ヘルメスが口を開いた。

「確定事項ではないぞ。誤差というからには解除が長引く可能性もあるということだ」

レアードは欠伸をしながらそう答える。茶色の瞳からは涙が湧き出てきた。

 少し雲が掛かっているものの、晴れた空には金色に輝く太陽が圧倒的な存在感で浮かんでいる。

 ヘルメスの金色の髪は同色の日光を反射し、神秘的な輝きを放っている。

「うまくいくかな? 俺の作戦は」

ヘルメスが伏し目がちに重々しく口を開く。その唇は乾燥しており、表情からは緊張の色が見て取れる。

 そんな彼に……大切な相棒に、自分はどんな言葉を掛けてやれるのだろうか。

 レアードは少し考えた後、語り始めた。

「……私は今まで、何かを信じたことが無かったんだ。伝承も、書物も、父上も母上も、そして自分さえも。学問ではあらゆる事象に疑問を持ち、全てを疑わなければならない。周りの人間は私と接する時、常に距離を置いていた。国で唯一魔術を使わない、使えない私を、彼らはどこか異端者を見る目で見ていたのかもしれない。そして、何も信じられない自分が、何よりも信じられなかった」

 嵐の前の静けさだろうか。戦争を間近に控えたこの森は不自然なほど静かで、レアードの声は何にも妨げられることなくヘルメスに伝わる。

「そんな中で私は君に出会った。私とは対照的な、無垢な心を持った君に……。私や、私が関わった者たちには心に裏が、汚れた部分がある。だからだろう、私が信じることができなかったのは。だが私は君のことは信じられる、君のことを。だから私は君の作戦も……信じている」

少し顔を赤くし、しかしまっすぐヘルメスを見て言った。今まで共に過ごした、数日間だが貴重な時間を与えてくれた彼に感謝の意を込めて。

 すこしばかり照れているレアードに、ヘルメスは元気に告げる。

「じゃあ、俺も信じるよ。俺が信じるお前が、信じてくれるこの作戦を」

 二人の覚悟は決まった。後は開戦の時を待つのみである。




 ヘルメスとシュンゾウは、元は国境であった森の木の上で、かつての友の術が五百年の時を経て解ける瞬間を待っていた。朝焼け後の金色の太陽が二人を照らしている。

「最後に見る朝日が綺麗で良かった。そうは思わないか? シュンゾウ」

 ミチヒサは穏やかな朝の空気に心を委ね、隣の友に話しかける。

「朝日など、任務に明け暮れていた私にはゆっくり拝む暇などなかった。故に、いつもより綺麗なのかどうかはわからない」

 寂しさも切なさも浮かばない、ただ無表情な顔。

「それでもこの朝日は、綺麗だと思うだろう?」

「……綺麗だと思う感情など、私にはほとんど残っていはいないだろう。時を越える前の私は、それほど過酷な任務を繰り返していた。そもそも私にとって朝日など任務終了の合図でしかなかった」

シュンゾウは過去を思い出したのか溜め息をつき、もう一度朝日を眺める。

「それでも……この朝日は悪くはない……」

黒い布で覆われたシュンゾウの口の端が、かすかに上がったように見えた。

 二人はまばゆい朝日を少しの間眺めていた。

「……そろそろだな。彼らの予定した時間は」

 太陽の高度を見ながらミチヒサが口を開くと、目の前の空間が振動したように見えた。

 大地が音もなく揺れ、まるで真空に空気が入りこむように強い風が吹き荒れる。数メートル先の景色がぼんやりと霞み、徐々に小さく、正確には遠くへと移って行く。

「準備はいいな? ミチヒサ。戦闘開始前に両軍に致命的なダメージを与え、機先を制するぞ」

二人は木の上で飛び出す体勢を取る。

 眼前に眩い光が広がり、空間がかつての姿を取り戻した。

「これは……。なんということだ!」

 光が収まった後、二人が目にしたのは飛び交う炎やエネルギー体、対峙する雷雲を纏った獣と白と無色を基調とした人のようで、どこか違う異形のホムンクルス、そして殺し合う両国の兵士たちだった。

 すでに様々な生き物が、傷つき倒れている。

「シュンゾウ、作戦変更だ! 我とお前はそれぞれレアードとヘルメスを敵将まで護衛だ。こうなってしまっては戦いを最小限に留めるのは不可能だ」

「……了解。では彼らを迎えに行くとしよう」

 激しい戦争を背にし、彼等は二人の少年の元へ向かった。




 二人の少年が朝食を終えた頃、空間の境目の方向に強風が吹きこんだ。その風はあたりの木々を容赦なく揺らし、木の葉や石などを巻き上げる。

「さてと……準備は良いか?」

 風が収まるとヘルメスが立ち上がり、屈伸をしながらレアードに問う。

「ああ、いつでも行ける」

 レアードがそう答えると同時に、ミチヒサとシュンゾウが一直線に向かってきた。

「すまない! 至急戦場に向かってくれ! 奴ら、どうやったかは知らないが術が解ける前に戦争を始めていたんだ」

 ミチヒサはは若干の焦りを見せつつ二人の少年に告げる。

「レアード、我と共に来い! 敵将まで援護する」

ミチヒサがそのままの勢いで黒髪の少年に向かって言うと、彼はコクンと頷いた。

「……ヘルメス、先に行ってろ。私もすぐに行く」

シュンゾウは金髪の少年にそう言うと、ミチヒサの近くに歩み寄る。

 二人の少年は、森の奥にそれぞれ向かった。

「いいのか? ミチヒサ」

ヘルメスとレアードが去るのを見送ると、シュンゾウが口を開いた。

「何がだ?」

「とぼけるな。いくらそっくりだと言っても、髪や目の色を変えたくらいでお前が見分けられない訳が無いだろう」

「いいんだ、あれで。二人がそう決めたのならな」

 ミチヒサは二人が去って行った森を眺め、微笑んだ。

「すべてはお前の望み通り……か?」

「いや、我らが友の……だ。そして、最後までそうさせてみせる!」

 二人はそれぞれ武器を構えた。ミチヒサは等身大で薙刀の様な形状の大太刀を、シュンゾウは腕の長さ程度の刀を。

「ならば、彼らを死なせる訳にはいくまい。ミチヒサ、出るぞっ!」

 ミチヒサがそれに頷くと、彼らは再び、戦地へと向かった。

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