表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超常戦争  作者: 獅施額羅
8/13

第八章 穏やかな時間

        第八章 穏やかな時間


 ヘルメスとレアード、二人の出会いから十二日の時が流れた。

 彼らは戦闘訓練とそれぞれの術の訓練をその短期間でこなし、二人は成長した姿で再開した。

「前にも思ったことだがまるで鏡を見ているようだよ。眼や髪の色は違うが、双生児よりも近似しているのかもしれない」

レアードは開口一番にそう言った。

「まぁお前の方が俺より傷だらけだけどな」

ヘルメスは傷だらけの顔に笑みを浮かべてそれに応える。

 恐らく冗談を言ったのがヘルメスでなければレアードは無視していただろう。たった数時間しか一緒にいなかったヘルメスは彼にとって、何年も共に過ごした自国の人間の誰よりも特別な存在となっていた。

「当然だ。私は君よりも厳しい訓練を受けたのだからな。それはもう傷だらけだとも」

 生まれて初めての冗談、それと満面の笑顔はどちらも少しぎこちなかった。

「うっ……。いや、俺が言ってるのは見える部分のことで服の中はきっと俺の方がボロボロだぞ」

「まぁ私は成長が早かったのでケガは少ないかもしれないな」

「さっきと言ってることが違うじゃないか!」

どちらからというわけでもなく二人は笑い出す。

 穏やかな時間だった。数日後に戦争を控えていることなど感じさせず、ずっと続くのではないかと錯覚させられる。

「しかし他愛のない雑談が楽しいものだなんて、知らなかったな……」

レアードが寂しげな表情でポツリとつぶやく。

「親や友達とはこんな風に話さないのか?」

「父上も母上もそんなに親密に接してはくれない。それに私の国では子どもたちは皆、魔術で遊ぶからな。魔力が無く、それを王族の威厳を保つために民に隠さなければならない私には友達などもいなかった」

「そっか。じゃあ戦争を止めさせて平和になったら俺がお前の今までの人生分、話に付き合うぜ」

 一切の負の感情を浄化させるような無垢なる笑顔を放ち、ヘルメスは告げた。

(同じ顔なのに私にはできない表情だな。こんなにも自然な笑顔は初めて見た。使用人たちの作り笑顔とは全然違う……)

「どうした?」

「いや、それは楽しみだなと思って。ところでヘルメスには友達がいるのか?」

「ああ、俺も落ちこぼれで友達は少ないけど学年一頭の良い親友がいる」

ヘルメスはレアードの反応を予想していた。恐らくは「学年一頭の良い」というフレーズに興味を示すだろうと。

 しかしレアードは彼の予想とは異なる反応を示した。

「そうか。ヘルメスの親友か……。会ってみたいものだな」

頭の良いという台詞には微塵も反応せず、代わりに親友という言葉に眼を輝かせた。

「それなら戦争なんてさっさと阻止して三人で遊ぼうぜ。なんせ奴は学校一頭が良いからな、気が合うと思う」

「勉強ができるかどうかなど、どうでもいいことだ。だが君の親友なら気が合うと私も思う」

 レアードの心は今までのどんな時よりも穏やかで清々しかった。会話するだけで楽しい気持ちになれる。それがヘルメスの魅力であり、彼の親友もそんなところに惹かれたのだろうとレアードは一人思っていた。




 二人が三十分ほど会話をしているとミチヒサとシュンゾウが二人揃って森の奥から姿を現した。彼らは両国の現状調査に出かけており、その間にヘルメスとレアードが会話をしていたのだ。

「お、早かったな」

「それで、やはり戦闘態勢に入っていたのか?」

東洋の服を着た独特の形状をした身の丈ほどもある大剣を携えた男と、全身をほとんど黒い布で覆った痩せ型の身軽そうな男の姿を認めると、ヘルメスたちは会話を中断し、二人に駆け寄った。

「ああ。空間の境界線である例の森付近にはすでに軍隊が待機している」

「これから私とミチヒサは警備に入る。お前たちに教えられることはすべて教えてきたつもりだ。残りの二日間はそれぞれ自主訓練に励んでくれ」

そう告げると二人は踵を返し歩き出そうとした。

「おい、術が解けるのにあと二日あるんだろ? もうちょっと稽古付けてくれよ」

「五百年も二つの国の空間に効果を及ぼすような術だ。誤差が出る可能性が極めて高い。術者の話によると予定との誤差は二日前後らしい」

「誤差二日でも驚異的なことだ。我等は開戦と同時に君らを呼び、敵将以外を出来る限り多く食いとめる。それまでにもう少し腕を磨いておけ」

「わかった」

二人揃ってコクンと頷く。

「ああ、それと」

 ミチヒサが去り際に付け加える。

「ヘルメスは魔術の国の将を、レアードは錬金術の国の将を頼むぞ」

「え? なぜだ! 私の父が原因なんだ。私が父を討つ! 決意は固い、情は掛けない! だから……」

「いや、魔術を打ち破るのは魔術でなくてはならない。錬金術も同様に……。そういうことだ」

 レアードが反論する間もなく彼らは去って行った。

「なぁ、そんなに自分の手で父親を倒したいのか?」

「……この戦争は複雑なんだ。私たちの行動に対して国民がどう思うのか、それがカギとなる。そしてどの行動をとろうともリスクを負うこととなる」

 重々しく語るレアードの話を、ヘルメスはかつてない真剣さで聞き入っている。

「先ず私たちが自国と戦ったとしよう。私たちは彼らの目にどう映るのか。無論、戦争を止めるために立ち上がった少年のようにも見える。だが少し見方を変えればただの反逆者、それも戦争の相手国と同じ術を使えば裏切り者だと思われる確率は高い。加えて私の場合は王権を継ぐために父を殺したように見えるかもしれない」

 レアードがヘルメスをチラリと見ると、話の一区切り毎に頷いている。

「次に私たちが他国と戦った場合だ。いくら同じ術を使うといっても所詮は相手国の人間だ。戦争においての敵戦力に見える可能性が高い。それでは戦争に加担しているも同じだ」

「それで、お前はどっちが低リスクだと思うんだ?」

レアードが話し終えると同時にヘルメスが質問する。

「……後者の方だ。相手国の者だと明らかになるとは限らないからな。その場合でももちろんリスクはあるが……」

「それでもお前は最初に言った方が良いと?」

「……ああ。やはり父親の過ちは私の手で正したい。たとえこの手で殺めることになろうとも、王家の血の誇りに賭けて……」

 それだけ言うとレアードは押し黙ってしまう。その間、ヘルメスは顎に手を当て、軽く目を閉じながら何か考え事をしていた。

「なあ」

数分後、ヘルメスが目を開けてレアードに話しかける。その眼には強い光が宿っているように見えた。

「なんだ?」

「良いこと思いついたんだけどさ、聞く気ある?」

レアードは自分そっくりのその顔がつくる表情を見て思った。

(この顔には私も覚えがある……。これは確固たる自信に満ちた表情だ)

「聞かせてくれ」

 迫る開戦の時、交わるモノは空間だけではないだろう。過去から来た者や争いを起こす者、従う者、抗う者。様々な人とその想いが決戦の地で激突することとなる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ