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超常戦争  作者: 獅施額羅
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第七章 歴史語り

        第七章 歴史語り


 訓練開始から数時間が経過し、空には赤と紫の世界が広がっている。

(基礎の基礎を教える必要はない……か。大した自己分析だ。過大評価でも過小評価でもないな)

 銀色に輝く剣がレアードの頬を掠める。独特の形をしたその剣は彼に反撃の隙を与えずに突きを繰り返す。剣の主は両手両足に相当な量の重りを着けた上でさらに手加減しているようだ。

「はぁっ!」

レアードは気合いと共にミチヒサの突きを刀身でいなし、そのまま斬撃に転ずる。

 しかしその攻撃をミチヒサは剣で弧を描く様に弾き、生じた遠心力を長い柄でレアードの肩に叩き込む。

「つぅっ……!」

「休憩だ」

ミチヒサは衝撃で転倒したレアードの喉に剣を突き付けて言った。

(そういえば不思議な形の剣だな、ミチヒサのは。かつて本で見た異国のナギナタに似ているような……。しかし刃も切先も丸くて切れ味が悪そうだな)

「どうした?」

「それがナギナタというものか?」

レアードはミチヒサの銀に輝く剣を指さして言った。

「いや、違う。これは夢幻の剣というものだ。一部では天邪鬼の剣とも言われていて、剣の持ち主に応じて形や能力を変える。強い者が持つと弱そうに見えるようになり相手を油断させ、弱い者が持つと強そうに見えるようになり相手に威圧を与える」

「そんな珍しい剣を持っているあたり、やはり只者ではないな。今から休憩なのだろう?少し話が聞きたいな、あなた方に関しての」

 レアードは探るような鋭い眼をミチヒサに向けながら、喉に突き付けられた剣を慎重に払い立ち上がった。

「ふむ、まぁいいだろう。一つ言っておくと我々にも把握できていないことも多く、また知っていることの全てを話すことはできない。それでも良いか?」

疑問を問いかけてはいるが後半部分に関しての反論は受け付けないといった口ぶりだ。

「まぁいいさ。あなたにもプライバシーはある」

「その言い方は酷いな。事情を話すのは戦う君らには知る権利があるということの他にもう一つ、君が錬金術を学ぶ上で役に立つであろう話だからだ。故に訓練に値すると判断し、今日の実戦訓練はここまでとする。さぁ、小屋の中に入るぞ」

 二人は剣を収めて小屋に入り、蝋燭を灯した。




 火と共に二人の巨大な影が揺れる中、レアードは小屋の中に貯蔵してあるパンを引っ張り出して頬張りながら話を聞くことにした。レアードはミチヒサにも勧めたが、彼は断り話を始めた。

「我とシュンゾウは東洋の、ニホンという国からここに来た」

「たしかニホンというのは、黄金の国ジパングだったか?」

「いや、確かにそうだが黄金の国というのは違うな。まぁその噂は根も葉もないわけではないが……。さて、まずは我々がここに来た訳を話そう。遥か昔、神秘の力により栄えた国があった。その国の人々は競うように神秘の力についての研究を行い、それを二つの術に分けた。それが錬金術と魔術だ」

「ちょっと待て」

二つ目のパンをかじりながらレアードが口を挟む。

「錬金術と魔術は一つの術だったというのか?」

「そうだ……とは言っても通常では起こり得ない現象を引き起こす力をまとめて呼んでいただけで、性質が同じだったわけではないが……。話を続けて良いか?」

「どうぞ」

 レアードは三つ目のパンに手を伸ばす。三日間ほとんど飲まず食わず徹夜で錬金術に没頭した後、そのまま剣の稽古をしたためにレアードの食の勢いは止まらない。

「術が二つに分かれると術者も二つに分かれる。そして人間の思想が二つに分かれ、やがては国すらも二つに分けた。そうして出来たのが君達の国だ」

ここでミチヒサは一息つき、肩の凝りをほぐすように首を左右に倒す。

「それでな、二つの国の国境に一つ、どちらの国にも属さない村が出来たんだ。そこの民は錬金術と魔術、どちらを学ぶか選択することが可能で、当時唯一、二つの術が共存していた場所だった。そしてその村のある夫婦に双子が産まれた。彼らは成長すると一人は錬金術を、もう一人は魔術を学ぶことにした、自分達の村のように二つの術の共存を目的として。二人は天才だった。彼らは十年でそれぞれの術を飛躍的に発展させ、国のトップとして二つの国の関係を良好にした……いや、したはずだった。彼ら以外の権力者はトップの手前、表面上のみ良好な関係を取り繕い、裏では互いの国の侵略計画を進めていた。理由は恐らく自国の術こそが何よりも優れていると証明したかったためだろう……もともとはそれが理由で分裂した国だからな。彼らはその計画を察知し、争いや他国侵略を防ぐために二人で空間を切り離すことにした。その後彼らは世界を回り歩きニホンにたどり着き我らと知り合いになり、今の話を聞いたんだ。黄金の国の噂は彼らが金を生み出したのを見た異国の者が伝えた話が誇張されたのだろう」

「おい、嘘をつくな。年齢から考えておかしいだろう。空間隔離を行った五百年前の人物と知り合いの者が生きているわけがない」

レアードは手に着いたパンくずを払い落し、ミルクを口に流し込む。

「ああ、それは彼らの力さ。我には詳しいことはわからないが人間のある瞬間をデータ化し、保存するという装置を創ったそうだ。ただ装置の限界で何回も使えるわけではなく、また人間の限界で一度使えるかどうかわからないような危険なものらしいがな。だからデータである我々は食を必要としないし、過去の人間そのものであるから歴史事情にもそれなりに詳しいということさ」

「信じ難い話だな……。ところで隠しているのはそれだけか?」

「最初に言った通り全ては話せない。現時点で話せるのはこんなところだ。続きはまた今度にして今夜はゆっくり眠ってくれ」

 レアードは頷き横になり、十秒ほどで眠ってしまった。

 静かな夜に銀の刃が空を切る音のみが響いていた。

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