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超常戦争  作者: 獅施額羅
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第五章 疾風の同志

        第五章 疾風の同志


 翌日、ヘルメスは朝日と共に目覚めた。大きな欠伸をすると彼は昨日のミチヒサの話を思い出した。

 彼の話によると二つの国の空間は一時的にミチヒサが繋げたもので、現在はまた空間が隔離されて戦争はまだ起こっていないがおよそ二週間後には空間を隔離していた力が消滅し、争いが始まるだろうということだった。

(期限は二週間……それまでに魔術を使いこなせ……か。そういえば俺の特訓に付き合ってくれる人が来るって言ってたけど……)

ヘルメスはあたりを見回したが見えるのは木々ばかりだった。

(レアードはミチヒサと別の場所で特訓だし。俺……もしかして独りで……?)

ヘルメスがそう思い前を向いた瞬間、音もなく一人の男が現れた。男は目以外を黒の布で覆い、見るからに身軽そうで気配がなく、今にも木々の影に同化しそうであった。

「遅れたようで申し訳ない。拙者……いや、私はシュンゾウと申す。かつて忍びであった者だ」

「シノビ?」

「忍びとは君主に仕え密偵、暗殺等を行う者たちだ。どうやら私の一族は滅びてしまったようなので、私はもう忍びではないがね」

「そうなのか。ところでそれは?」

ヘルメスはシュンゾウの後ろに置いてある二つの大きな袋を指さして尋ねた。

「ああ。これは君の特訓用に連れてきた魔獣とホムンクルスだ。実は今日遅れてしまったのはミチヒサ達にもこれらを届けたからなんだ。忍術でこいつらを無力化するのに少し手間取ってしまってね」

「えっと、空間って切り離されているはずじゃ……どうやってここに来たんですか?」

「確かにそうだが、私は小規模で短時間ではあるが空間に影響を与える術を使えるから切り離されていても行き来できる。ミチヒサに魔獣やホムンクルスの大群の映像を送っていたのも私だ」

一呼吸置いてシュンゾウが話を続ける。

「さて、我々には時間がない。この二週間で君には一人で一国と渡り合える魔術師になると同時に、それに見合う武器を作ってもらわなければならないのだから」

「え? そこまではさすがに無理じゃないですか?」

「君なら不可能ではない。無論容易ではないが。それに一つ言っておくと私とミチヒサは君たちのサポートしかしない。国の首領を討ち取るのは君達でなくては意味が無いからな」

「なぜです? 誰が止めても同じでしょう?」

「例えばの話だが……君が誰かと道端でケンカしていたとする」

「うん」

「そこに見ず知らずの人が急にやって来て君らを殴り飛ばした。果たしてそれでケンカが収まるか?」

「なるほど。一時的にしか収まらないな」

「その可能性が高い。外からの力ではなく内からの力で止める必要があるんだ。わかったらさっさと訓練を開始するぞ」

「ちなみに俺達ができなかったらどうするんだ?」

「その時は」

シュンゾウは威圧を放ち静かに告げた。

「両国を滅ぼすだけだ。錬金術と魔術は他国にとってそれほどまでに脅威なんだ」

 その言葉でヘルメスの顔つきが変わった。




 一時間後、森の中を三つの大きな火球が凄まじい速さで、しかし無数の木々にかすることすらなく飛び回っていた。

「ヘルメス、訓練開始から一時間経過、休憩の時間だ」

シュンゾウが声をかけるとヘルメスは火球を消滅させて木に寄りかかるようにして座った。

「シュンゾウさん、どんな感じですか? 俺の魔術の成長は」

「すごいな。正直ここまで才能があるとは思わなかった。私個人は君たちに任せるのは無理だと思っていたがこれならば可能かもしれん」

シュンゾウの言葉を聞くとヘルメスは苦笑いに似た笑みを浮かべた。

「どうした?」

「いや、人に褒められたのって初めてだからさ。嬉しいような気恥ずかしいような感じでね」

「喜ぶのは構わないが期待をされるというのは良いことばかりではないぞ」

シュンゾウは楽しそうに言った。

「どういうことさ」

「次からは魔術の訓練と実戦に対しての訓練を同時に行う。戦闘の中で新たな術を身につけろ」

「そんな急には無理だろ。さっきの魔術では全然戦えないっていうのか?」

「火は熱を放出するだけの基本的な術なんだ。それ故に対策もされやすい。それと強い術を使えても実戦経験がなければ勝つことは難しい。何度も言うが君には時間が無いんだ」

「わかったよ。あいつらと戦えばいいんだな?」

ヘルメスは魔獣とホムンクルスの袋のあたりを指さした。

「いや、あいつらは手加減しないからな。相手は私だ」

「シュンゾウさんと? 危ないんじゃ……」

「大丈夫だ。手加減はする」

「そうじゃなくて、シュンゾウさんに魔術を使うなんて……」

「問題ない。やってみればわかるさ。武器はとりあえずこれを使え」

シュンゾウはヘルメスに短めのよく手入れされた古い剣を渡した。

「魔術で戦うのに剣が要るんですか?」

「敵の攻撃を防ぐときに使う。それと魔術を使うときに、武器に魔力を経由させると威力が増し、コントロールもしやすくなる。さて、そろそろ始めたいんだが……」

「わかりました。よろしくお願いします」




 森の中に金属と金属のぶつかり合う音が響いている。ヘルメスはギリギリのところでシュンゾウの攻撃を受けていたが、放たれたニ連撃を受け切れずに転倒してしまった。

「受けているだけでは駄目だ。それに魔術を使わなければさっき練習した意味がないだろう」

「ちょっと、攻撃が速過ぎだって。俺は戦いなんてケンカくらいしかしたことないんだぞ。初めはもう少し加減してくれよ」

「しかし私の身体能力ではこれくらいの加減が限度なんだが。私は生まれた瞬間からあらゆる技術の訓練を受けていたからな」

(俺の動きのどこがダメなんだ。たしかに速いが見えないスピードじゃない。シュンゾウさんと俺の違いは……。身体能力か、経験か、才能……)

 シュンゾウはヘルメスの考えを見抜いたかのようなタイミングで再び話し始めた。

「お前は下半身が不安定すぎるうえに攻撃を受ける際に反射的に目を閉じている。軸となる片手も中心から大きく外れているうえに……」

(あれ? なんで俺は……)

「……魔術を使う機会は自分で作らなければダメだ。相手がそんな隙を見せることを仮定した訓練では……」

(魔術では落ちこぼれじゃないはずなのに……なんでこんなにボロクソに言われているんだ?)

ヘルメスに怒りに似た負の感情が沸々と込み上げてくる。

「……いいか? 攻撃は斬撃も術も真正面ではなく受け流すように力を分散させ……」

「うるさい! 俺はあんたとは違って普通の、ただの子どもなんだ! そんなに急に強くなれるわけないだろう!」

ヘルメスはいつの間にか沈みかけた太陽とは反対の方向に歩きだした。

「どこへ行く?」

「疲れた、少し休む」

少しずつ暗くなる森の中を指先に小さな火を灯しながら歩いた。




 ヘルメスが目を開けると日はすでに沈み、空には星が煌めいていた。遠くの方から鋭い空気の乱れる音が聞こえる。どうやら彼が目を覚ました要因の一つはそれのようだ。

(俺、眠っちまったのか。それにしてもこれは何の音だ?)

ヘルメスは大きな欠伸をしながら音のするほうへ歩き出した。

 やがて月明かりに照らされた少し開けた場所が見えてきた。音が大きく聞こえてくるにつれそれが一定のリズム、一定の音量であることに気付いた。

 音の中心にはシュンゾウがいた。彼は二メートルほどの丸太を握れるように加工したものを使い素振りをしていた。

(すごい……)

「シュンゾウさん、なんであんたがこんなことを。そんなに強いならいまさら鍛える必要はないだろう」

「幼い頃からの日課なんだ。最近は訳があってできていなかったがな。それに相手は錬金術や魔術の国だからな。君らのサポートか、あるいは両国を滅ぼすにしても鍛えすぎということはない」

(そうだ。いくら強くても十分なんてことはないんだ。それなのに俺はすぐに上達しないからってアドバイスも聞かずに八つ当たりして、訓練を放り出して……。自分の国の問題なのに……俺は、最低だ……)

「シュンゾウさん、図々しいとは思いますが訓練の再開をお願いします」

「休憩はもういいのか?」

「はい」

ヘルメスの訓練は連日深夜まで行われることとなった。

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