第四章 謎の男
第四章 謎の男
ヘルメスは目の前の少年に告げられた仮説を信じるべきかどうか決めかねていた。
(俺と瓜二つの顔、威張りくさった口調、見慣れないけどなんか派手で高そうな服。うん、こんな奴があの国にいたらさすがに気付くな。てことはやっぱりこいつの言った通りか……)
「名前は?」
「へ?」
ヘルメスが考え込んでいる間にレアードが質問してきた。
「だからあなたの名前は?」
「ああ、名前ね。俺はヘルメス。お前は?」
「レアードだ。ヘルメス、私と共に国王に謁見してほしい。世界が繋がったことを報告するための証人としてね」
「え? 腹減ったから帰りたいんだけど」
「だったら城で食事を出そう。わが国で出せる最高の食事を……って、え?」
レアードの話の途中でヘルメスは歩きはじめた。
「なにぐずぐずしてんだ? さっさと行くぞ」
(この者は、おいしいものを食べさせてあげるといったら初対面の者についていくのか?話が早くて助かるが、なんだか誘拐しているみたいでいい気はしないな)
レアードがそんなことを思っていると地響きが鳴った。どうやら前後から何かの大群が凄まじい勢いで彼らに迫ってきているようだ。
「ふたりとも、そこを動くなよ」
どこからか男の声が聞こえ、二人が返事をする間もなく彼らは光に包まれた。
やがて光が収束すると地響きは聞こえなくなっていた。
「はじめまして、ふたりとも」
先ほどの声の主がどこからか急に現れた。その者は、見るからに異国の者と思われる格好をしていた。
ヘルメスとレアードは次から次へと起こる事態についていけていないようだった。
「混乱しているところ悪いが時間がないので手短に説明させてもらうよ。まずはこれを見てくれ」
ふたりの前に無色透明の球体が差しだされた。その球に少しずつどこかの風景が映し出されていく。
「これは先ほど聞こえた地響きの原因の一つだ」
そこには火を吹く竜や雷雲をまとった獅子などの大群がいた。
「こいつらは魔獣じゃないか! 数百年姿を見せなかったこいつらがなぜこんなに……」
レアードは驚きの声を上げた。
「これがもう一つの原因だ」
球体に別の場所の風景が映し出された。
「こいつらは……ホムンクルス! 生命を創りだすことは禁じられていたはずなのに、どうして……?」
ヘルメスもレアードと同じように驚きの声を上げた。
「簡単なことだ。まず魔獣だが、その名の通り魔力を持った獣のことだ。つまり獣に魔力を持たせてやれば魔獣の量産も可能だ。ホムンクルスに関しては禁忌とされていただけだ。誰かが秘密裏に創りだしたんだろう」
「……魔力を、持たせる……?」
「妙な期待をするな、レアード。魔力を持たないものに無理に与えれば体が変化する。獣たちと違い人間の体はその変化に耐えられない」
「なぜ私の名を……! それに私に魔力がないことまで……あなたはいったい何者なのだ?」
レアードは警戒を強めながら聞いた。
「わが名はミチヒサ。おそらくは君たちの味方であろう。すまないが今はこれだけしか言えないな」
「おそらく?」
ミチヒサの言葉を聞きヘルメスが聞き返した。
「君たちの意思次第では我と敵対することもあり得るということだ。君たちが平和を望むか、戦を望むかのな」
「じゃあさっきのホムンクルスたちと魔獣とかいう奴らって、まさか……」
「戦のために生み出された兵器だ」
「いったい誰がそんなことを……」
ヘルメスは考え込んだが、すぐに助けを求めるかのようにレアードを見た。
「ひとりではあれだけの数は生み出せないだろう。おそらく強大な権力を持っていて優秀な人材が多く集まる場所にいる奴らだ。もしかしたら優秀な者たちの入れ替わりも頻繁かもしれないな。全員が従うとは思えない……」
少し悲しげな表情でレアードはそう答えた。
「入れ替わりが頻繁……? そういえばケガを負ったぐらいで先生が変わるのはおかしいな。代理として一時的に変わっているわけではないし。……ってことは俺の国の黒幕は学校か! お前の国はどうだ? レアード」
「考えるまでもない。こんなことをできる権力を持っているのは国王陛下ただ一人。つまり私の父だ」
「え……?」
ヘルメスは驚きと戸惑いの混じった声を上げた。
「さて、そういうことで二人には二つの選択肢がある。我と共にこの戦いを止めるか自国に帰って国の味方になるのか。脅迫するつもりはないが後者を選んだ場合、障害となる可能性があるので事態が収拾するまでわが管理下に置かせてもらうがな」
「なぜ私たちを協力者に選んだのだ?」
「優秀な錬金術師と魔術師が適していると判断しただけだ」
「おいおい、俺は錬金術師の落ちこぼれだぞ」
「私に魔力がないのことを知っているのだろう?」
ミチヒサの答えに二人が反論する。
「そんなことは知っている。我が借りたい力はヘルメスの魔術師としての力とレアードの錬金術師としての力だ」
「どういうことだ?」
「ヘルメス、君は錬金術を行っている時に突然器材が爆発するだろう。それは君が元素を扱えない体質であることと無意識に発動してしまう魔術が原因なんだ。レアード、君の物事への探求心は錬金術師にとって必要不可欠のものだ。おそらく君は元素を扱える。どうかな? 二人とも。我に協力してもらえないだろうか?」
二人は戸惑いながらも力強く頷いた。