表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超常戦争  作者: 獅施額羅
12/13

第十二章 裏切り

        第十二章 裏切り


 杖と大太刀……それぞれの武器を手に、彼等は巨大な、城の様な建造物の前に立っていた。その建物には、前までの賑やかなで楽しそうな雰囲気など微塵も残っていなく、禍々しい空気が満たされている。

 少し前までは心地よかった風とその音も、今はもう冷たさと不気味な声にしか感じられない。

 彼等が巨大な扉に一歩、歩みを進めた時、それはゆっくりと開いた。中からは外の風よりも妖しげな風が吹いてくる。

「気をつけろ、ヘルメス。誰か来るぞ!」

二人はグッと身構える。コツ、コツ、と足音を鳴らし、ホムンクルス達には無かった威圧感を纏い、ゆっくりと近づいて来る人影。以外にもそれは雰囲気に似合わず、大きなものではなかった。

「やぁ、ヘルメスか? 心配したぞ。今までどこに行ってたんだ?」

見慣れた友人の姿。扉を開いて現れたのは、ヘルメスの友人、ゲオルグだった。

 しかし、その表情には以前の様な明るさは無く、言葉にも抑揚がない。まるで、感情が欠落しているかのように。

「ああ、ちょっとな。お前こそどうしたんだ? 全然元気が無いだろう」

「ちょっと疲れているのかもね。ところでそちらは? 見ない顔だけれど」

ゲオルグの視線がミチヒサの方へ行った。それに対しミチヒサは怪訝そうな顔をし、黙っている。

 少しの間の後、ヘルメスが口を開く。

「この人は助っ人だ。この戦争を止めるために力を貸してくれるっていう、凄い強い人なんだ。俺達はこれから学園長のところに行って、この戦争を止める。お前も来るか?」

ヘルメスは人懐っこい笑顔でゲオルグに問う。

「ああ、いくよ。実は、僕は今まで監禁されていたんだ。戦争反対の意思を掲げたために。隙を見て逃げ出してきて、これからどうしようかと思っていたところだったから、ちょうど君と会えて良かったよ」

なおも無表情のゲオルグと、共に会えた喜びで笑顔になっているヘルメス。それと、終始訝しげな表情のミチヒサが、揃って学校の中に足を踏み入れた。

 赤黒く長い絨毯の上を、ヘルメスとゲオルグにミチヒサがついて行く形で、三人は進行する。

「そうだ、聞いてくれよ。俺が錬金術を使えなかったのって、魔力のせいだったんだって。それでさ、練習したら魔術が使えるようになったんだよ。この戦争が終わっても、錬金術の学校には通えなくなるかな?」

身振り手振りを加え、楽しそうに語るヘルメスは、敵の本拠地の中だというのにまるで警戒していない。

「そうなんだ。魔術……へぇ……」

 この時、初めてゲオルグの表情に変化が見られた。歯をチラリと見せるように、口の両端を上げる。

「ならやっぱり、この国を裏切ったんだ……」

「え?」

ゲオルグは人形のように頭を高速でヘルメスに向けた。大きく開かれたその瞳には一切の光が無く、口だけが微笑を浮かべたまま凍りついている。

「気を付けろ! ヘルメス!」

ミチヒサの叫び声と同時に、ゲオルグは隠し持っていた禍々しいナイフでヘルメスに斬りかかった。

 ミチヒサは間一髪、大太刀の柄でヘルメスを突き飛ばし、事なきを得た。

 床を転がった後、ヘルメスはすぐに体勢を立て直し、杖を構える。

「何するんだよ!」

親友からの予期せぬ攻撃に驚き、腹を立てるヘルメス。しかし友の持つナイフを見ると、徐々に血の気が失せていった。

 彼の手に握られていた黒と緑の混じった色のナイフは、勉強不足のヘルメスですら知っている禁断の武器「魔邪のナイフ」だった。それは切り口から熱に強く致死性の無い毒が入りこむと同時に、高熱が傷に与えられる。そして傷口が徐々に石化していくという、かつての錬金術師たちの拷問器具だった。

「何をする……? それは君の方だよ。戦争を止めようなんて、愚かなマネをしようとするなんてね」

 そう言うゲオルグの目からは、光が見えるどころか、全てを飲みこむ闇すら見えるようだ。

「ヘルメス、君には学が無い。だからわからないかもしれないが、技術と言うのは戦争と共に進化していくんだよ……命がけの研究によってね」

 ゲオルグの言葉と共に、その瞳が広がり、白い部分を黒く染めていく。顔からは血管が浮かび上がり、流れる血は赤から黒に変わる。吐く息は赤く、滴る汗は緑色だ。

「ゲオルグ……? お前、どうしたんだよ、その体! 一体何が……!」

「ヘルメス、横に跳べ!」

焦るヘルメスにミチヒサが指示を出す。ヘルメスは戸惑いながらも素早く横に跳躍すると、今まで彼が立っていた場所に光線が走った。

 ゲオルグの目から放たれたその光線は、正面の床を焼き払い進んでいく。

「我がこの者を屠る。ヘルメスは力を温存しておけ」

 ミチヒサは身の丈ほどの大太刀を構え、眼前の敵を睨みつける。

「待てよ! 殺すのか!?」

ヘルメスはミチヒサの前に立ちはだかり、抗議した。

 その瞬間、ヘルメスの背中に衝撃が走り、彼はそのまま前のめりに倒れた。

「ぐあっ……! あぁぁああああ!」

ゲオルグは血を滴らせたナイフをくるくると回し、床を耐え難い痛みでのた打ち回るヘルメスを見て、満足そうに笑みを浮かべた。

「相変わらず君は、愚かだね」

「何ということだ……! 我がついていながら、このようなことになろうとは!」

 一国の本拠地でありながら静かだった校内には、一人の少年のによる叫び声が響き渡っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ