生きててごめんなさい
今日も母親は家に帰ってこなかった。
毎日独り、冷蔵庫の中の食べれるものを漁って食べていた。母親が帰ってきたら怒るかと思ったけれど、誰も少女を叱る者は居なかった。外出もせず、独りぼーっとして毎日を生きていた。
(叱ってくれてもいいのに)
少女は毎日こう思っていた。
ある日少女はあることを思いついた。母親にイライラさせたら自分に構ってくれるのではないか、と。枕を投げてみたり、母親の飲んでいたジュースを自分ががぶ飲みしてみたり、色々なことを試した。しかし、母親は見向きもしない。もはや私は空気なのですか、母様。
母は毎日スマホをいじっている。誰かと連絡を取っているのか、それともゲームをしているのか。自分にはよく分からないけどスマホを奪ったら自分に叱ったり構ってくれると思った少女は、母親のスマホを横取りした。
するとその瞬間、母親は自分の頬をビンタした。
初めてだった。少女は信じられなかった。恐怖と困惑と、色々な感情が混ざりあって、少女はそのスマホを投げて靴を履かずに家を飛び出した。
母親には呼び止めて欲しかった。だけど自分の足はどんどん家から離れた方に向かっていった。母は変わってしまったのだ。その変化に耐えきれなかった。なぜ母親が変わったのかは自分にもわからない。自分が悪かったのかもしれない。自分が自殺すれば母親は幸せになったのだ。自分のせいなんだと少女は自分を責めたてた。
「嬢ちゃん」
ふと、上から声がしたのに気がついた。
知らないおじさんだった。けれど、この人が私を拾ってくれて、私の事を愛してくれるかもしれない。
少女はそう思った。
『だめよ、知らない人についていっちゃ。だめだからね?』
母親の声が頭の中で広がる。けれど少女はおじさんに着いて行った。
「中に入れ」
言われたところに入った。中には血のような跡があったが、気にしなかった。何をされてもいい、ただ私を満たしてくれるのなら、何をされても良かったのだ。
するとおじさんは、無言で私の足の傷を治療してくれた。そういえば私、裸足で家を飛び出したんだ。
おじさんと声をかけようとした。しかし、「名前はなんだ」と言われた。名前...?ああ、名前か...
「名前は、結月。」
「そうか、結月か。俺は今警察に追われているんだ」
さっきの血の跡のことかな、私も殺してくれたりするだろうか。
「おじさん、私の事も殺してよ。」
「だめだ」
やっぱりダメか...自分の罪が重くなるのが嫌なのね。やっぱりみんな自分のためにしか生きないもの。そりゃそうよね...。
「結月、お前はここで暮らせ」
その瞬間何かを察した。おじさんはここから居なくなる。また独りぼっちになる、嫌だ。1人は嫌だ。
「おじさん、何か企んでるでしょ」
おじさんはじっと私をみつめた。しばらく沈黙が続いてから、おじさんは呟いた。
「俺ぁお前みたいな汚れた奴を生きさせるのが好きなんだよ...」
好き?私が?好き?
「おじさん私の事好きなの?」
おじさんは口元を歪ませて、
「ああ、そうだよ」と言った
この人なら満たしてもらえる。少女はそう思った。