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司書の仕事《役割》



「あ、待ってください!」


「………うっせぇ」



 誰が好きで止まってやるか。俺には時間も労力ももったいない。シンジン君のために一分一秒も無駄にはできない。



「えっと、今から何を?」


「仕事」


「仕事ですか?」


「まぁな、新人研修を込めて。喜べよ。その目で拝めるなんて今の『Level』じゃ無理だぞ」


「そ、そうなんですか!」



 シンジン君は驚いたような顔で、見てくるが彼女は聖さんの話を聞いていなかったのだろうか? まぁ、聞いていたところで俺にとっちゃどうでもいいことだけど。



「ここ」



 俺とシンジン君が着いた先には何も無い壁だった。



「ここ、ですか……ですけど、ここには何もありませんけど?」


「あ? あぁ、そう見えるのか……こうだよ」



 胸元から手帳を取り出すと、ピッと何か音が鳴ると、壁が大きく変形する。それはまるで、隠し扉のように男心をくすぐるものだった。



「うわっ、何ですか! これ!?」


「書庫」



 シンジン君がその隠し扉に驚いているが、俺にとってはとてもどうでもいいことなのでシンジン君を放っておいて先に隠し扉の先、書庫にへと向かう。



 コンコンコン、



 書庫の中は狭い道とほんの少しだけの光だけで包まれていた。



「狭いですね」


「あぁ」



 シンジン君はびくびくしながらも俺に話しかけてくるが俺は素っ気ない返答をし続ける。



「こ、怖いのですけど。この先って一体、なにが?」


「本」


「えっ?」



 何も答えは間違えていない気がするのだが、シンジン君は何も分かっていないようだった。



「えっ、本、ですか?」


「あぁ」



 顎をポリポリと掻きながら、俺はそのまま狭い通路を歩き続ける。



「ど、どういうことですか?」


「その通りだが?」


「えっ」



 シンジン君は早歩きで俺に話しかけてくるが、俺は俺の中で出した結果を言う。



「え、えっと………」


「まぁ、良い。説明、歩きながらとか面倒臭いから着いたらするぞ」


「は、はい……」



 さすがに何度も質問されるのは面倒臭いので、シンジン君には少しだけ黙って貰う。



「………」


「………」



 コツンコツンコツン、



 カツカツカツ、



 静かな沈黙に、小さな足音しかこの通路には響かない。逆にこの状況が安心する。余計なものがなく、ただ沈黙と言うものが配置されているだけで、状況を酷くしない。



「着いたぞ」


「……わぁ」



 着いた先には、牢に入れられている本があった。



 綺麗に光る牢はシンジン君にはどう思ったかしれないが、一目見て彼女はこう思っただろう。



「綺麗」


「………」



 正方形の囲いが本を中心に三つ囲うように包んでいた。これ綺麗な図形を表していた、が俺たち『管理者』、いや『司書』はこう言うようにしていた。


『監獄』または『牢』と呼んでいた。



「! これって一体!」


「………お前、本当にあの女に教育されたのか?」


「えっ? 女? もしかして、観音寺さんのことでしょうか? それならなんで、ここで観音寺さんが出るのですか?」


「はぁ」



 本当に知ら無すぎだ。これがあの『狐女』の育成司書なのかと思う。



「……これは、『魔書』だ」


「えっ!? これが!?」



 『魔書』とは、魔力を持った本。それは人や自然、世界に危害を加えるし、逆に守るものへと変わる敵でも味方でもないただの愉快犯のようなもの。



「これが、話に聞いた……『魔書』、ですか」


「ふぅ、さすがにそれは聞いていたか」


「えっ?」


「説明するのは面倒臭い。そこからな」


「あっ、はい」



 俺はそんな無駄な話に時間を費やしたくは無かった。



「……これは、どういうことなんですか?」


「どういう、こととは?」


「なぜ、本がこのように場所に?」


「……このような、か。ここは牢屋だ」


「牢、屋……」



 シンジン君は俺から言った言葉がどのような物なのか、理解したようで少しだけ戸惑っているように見えた。



「司書の基本的な役割を知っているか?」


「本の管理でしょうか?」


「残念だが、それだけじゃない。この司書の世界に階級制を求めたのはきちんとした役割と危険性があるからだ」


「危険、性?」


「本来、司書の役割は三つある。一つは『管理者』。これは、俺らのような下っ端が行う簡単で安全な仕事だ。さっき、シンジン君が言ったのはこれだな。二つ目は『監視者』。『魔書』を保有している『所持者』を監視する役目。これは主に体力があるやつがやる仕事だな。そして最後に『回収者』。これは『魔書』を回収する役目だ。体力があって戦闘能力がある人物がやる仕事だ。ちなみに」


「ちょ、ちょっと、待ってください!」


「何だよ」


「『監視者』とか『回収者』とか、聞きたいことは一杯ありますけど、今、聞きたいことは『所持者』って何ですか?」


「………」



 少し、俺は彼女を見くびっていたのかもしれない。



 あの、長い説明、それも非現実じみた説明をすぐに理解し、気になる部分だけ抜き出して、気になる部分の中でも最も聞かなきゃいけない最重要な物を質問してくる。この資質は、既に女性としての脳の作り方としての優位性を持っていたとしても、この資質は素晴らしく恐ろしい物だと思った。



「……分かった。『所持者』ってのはな、さっきも言った通り、『魔書』を保有している人物をそういう」


「『魔書』を?」


「あぁ、そいつらは俺の勝手な観点で言わせてもらうと、『病人』または『感染者』だ。そして『魔書』が『病』だ」


「病……なんで、そういうのですか?」


「『魔書』ってやつはな? 勝手で気まぐれ、だからこそ、自分の雰囲気と強調する奴を見つけると勝手に憑りつく。こんなの、病でしかないだろう。憑りつかれた本人、いや罹った本人は簡単に言うと『突然変異』だそ? 自分自身が恐ろしくなるし、他人からも変な目や怖がられる視線で見られるんだ。最悪じゃないか?」


「………」


「だから、『病』なんだよ」



 静かになる書庫で、俺は手すりに腕をつける。



「だから俺たちは、『所持者』って呼ぶんだ。……だが『所持者』には二つの奴がいる。それによって、俺たちは対処を変えなきゃいけない」


「それは?」


「一つ、温厚派と呼ばれる奴だ。他人に危害を出さない奴やまだおとなしいやつのことを指す。こいつらは『監視者』と呼ばれる奴らに監視させられる」


「ちょっと待ってください、まだ?」


「……例え、おとなしい奴でもいつかは暴れるかもしれない。暴発、爆発、それが『魔書』って奴だ。それに『魔書』はただの手段。使い方によっては人は化け物以上の化け物になるんだよ」


「!!」


「これでいいか? お前が思っている以上に現実は優しくないんだ。組織でなっている俺らはな……特に」


「……わかりました。他には一体、何が?」


「もう一つは、暴走する奴だ。こいつらは『監視者』に対処される」


「………それだけですか?」



 すると、シンジン君から意外な答えが返ってくる。



「? それだけとは?」


「え、えっと、対処の方法、とか?」


「聞きたいのか?」


「は、はい……」


「殺されるか拘束されるか。その二択だ」


「……えっ?」


「どうした?」


「こ、殺されるのですか?」


「ほとんどないがな」


「そ、それって法律的には大丈夫なんですか!? ひ、人を殺しているんですよ!? そ、それにもっと助けられる方法があるんじゃないですか?」


「………はぁ、お前、馬鹿じゃないか?」


「えっ」



 少しは期待した俺が馬鹿だった。世界がそんなに優しい方法があれば世界はもっと幸せになっている。



「世界はそんなに優しいか? 簡単か? まったく知らない人が万人というやつに一気に手を伸ばせるか? 無理だ。できない。世界は何かを犠牲に作られているんだ。俺たち、組織も、人間も、何もかも」


「ですけど!」


「それに勘違いするな」


「!!」


「先に刃を向けたのは、あちら側だ。俺らは組織は弱者を助けるために強者を殺さなきゃいけないんだ。万人という弱者のために戦うんだ。俺らは正義の味方なんかじゃない。それを理解しろよ」


「………わかりました」


「………」



 そうだ、世界って奴はどうも薄情で無常なんだよ。だからこそ、俺らは前に行かなきゃいけないだよ。



 お前のような優しすぎる奴は特にな……。



「この話はここまでにするか」


「……はい」


「あっ、その牢に触れるなよ。死んでも責任はとらん」


「えっ!」


「あと、この話、口外禁止な。首が飛ぶぞ。物理的に」


「えっ、えっ!」


「行くぞ~」


「えっ、ちょ、待ってください!」



 俺がそのまま書庫を去ろうとするとシンジン君は慌てたように俺のことを追いかけてきた。そうして、書庫は誰もいなくなった。


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