開場~プロローグ~
ポタッポタッポタッ、
空に浮かんでいる形容しがたい怪物になりかけている物と、その母体となっている少女を見る。形容しがたい怪物を中心に空は赤黒い色と共に黒い雲が広がっていく。
「あっ、あっ、あっ」
横で座り込んでいる少女を横目に肩をたたく。
「安心しろ」
「えっ」
少女を背中に、目の前に映る怪物とその怪物の足元にいる胡散臭い宗教衣を着ている男を見る。
「まったく、くだらんものを作るな」
「くだらない……ですか。どこがですか? これほど素晴らしいものがどこにあるのですかぁ!?」
大きく叫ぶ宗教衣の男に自分自身、乾いた笑いしか出てこない。
「これのどこが素晴らしい。醜悪極まりないものではないか」
ヘラヘラ、と笑いながら怪物を眺める。
あぁ、まったく汚らしい。あの時見た怪物の方がまだ美しい。
「お前にとっては、あの時の再現をしているようだがこれじゃあ、あの時には程遠いな」
「何、分かっているように言っているんですかぁ? 雑魚の人間のつもりにぃぃ」
「はは、そうですよ。雑魚です。今からお前はその雑魚に、………絶望見せられるんだよ」
「!!」
まったく、汚い。汚い。汚い! あの時の再現なんて、汚らわしいっちゃありゃしない。
沸々と心の中に起こりゆく怒りを思いとどめながら、敵を睨む。宗教衣の男はその雰囲気が変わったことが理解できたのか二、三歩程後ろにへと下がる。
「………おい、絹娘」
「何?」
俺は、後ろに座り込んでいる少女に向けて話す。
「あいつ、救えるかわからない。けど、別に殺してしまってもいいだろう?」
「!? だ、駄目よ! そんなことしちゃ!?」
「でも、救えない。……だけど、できる限りやって見せる」
「………」
少女は自分の姿、いやいつものようなダルそうな雰囲気ではないことを察し、聞こえないように唾をのむ。
少女の唾をのむ音にさえ、俺は反応せず目の前にいる怪物を見る。過去に見た宿命の相手もどきを……。
「だから、誓え」
「えっ」
「誓約だ。俺はあいつを殺す。俺はあいつを救う。だから決めろ。そして、誓え」
「…………分かった。誓う。あいつを殺して。そして、彼女を救って!」
少女は大きな声で宣言する。
「ふっ」
乾いた笑いと共に、胸の奥底にある何かが開く。思考がモノクロになり、視界が一気に広くなる。それだけではなく、肺の中に入っていく酸素の量が多くなって体の隅から隅まで血流が流れる感覚が感じられる。
「了解した」
右腰に挿してあったナイフを取り出し、持ち替えて怪物に向かってナイフを向ける。
「ふぅ」
「何をやっているんですかぁ? そんなナイフで、私たちが生み出した旧世界の神に勝てるんですかぁ! もっとも弱者の人間がぁ!」
「一つ質問」
先程までと違う声音で宗教衣の男を見る。
「それが、旧世界の支配者とでも?」
「あぁ! これは人間が絶対に勝てない存在。旧世界の支配者の一人『クトゥグア』だぁ!」
宗教衣の男がそう大きな声で宣言してくれる。
あれが?
「ふっ」
「何が、おかしいぃ? 人間」
「何もかも」
まるで宗教衣の男がやってきたことを全て嘲笑うかのように、憐れな目でただただと言葉を言う。
まったく、先ほどまでの緊張感を返してほしい。
「あれが、『クトゥグア』」
「そうだぁ! 人間ン、あれが! 旧支配者の!」
「笑わせてくれる」
「………はっ?」
宗教衣の男から呆気ない声が聞こえる。
「あれが『クトゥグア』なのなら、あの戦いがまるで茶番だ」
徐々に炎を纏いつつある巨人のような形をしていく形容しがたい怪物を眺めながら言う。
「お前が『クトゥグア』といった不良品は『炎の精』になれるかなれないかの欠陥だらけの不良品だ」
「なっ! あ、あり得ぬ」
宗教衣の男がなぜか慌てながらこちらを見てくるがもう遅い。
「お前が目にするのは本当の『クトゥグア』を目にし、『クトゥグア』より上の邪神を討った者のやり方だ」