『めちゃくちゃ好き』と『めっちゃ好き』
学校帰りの彼女との待ち合わせは、いつも学生時代を思い出す。
僕は女っ気のない生活をしていたけど、友人とわいわい過ごしていただけで楽しかった。
あの時期を、彼女は今体験している。
但し、僕とは違い、恋愛もしている訳で…
「学校の友達と遊んだりしないん?」
いつものドーナツショップに入る。
彼女の交友関係が、少々心配になってきた僕は少し考えながら聞いた。
僕のせいで、友情にヒビが入ってしまう事もあるんじゃないだろうか。
「そりゃたまにはするよ?
学校で毎日一緒やねんから、たまにで十分やって。」
なんともあっさりとした友人関係らしい。
女の子ってトイレも一緒に行くイメージなんだけど…
「なんでそんなん聞くん?」
きょとんとした顔で小首を傾げる姿は、小動物のようで可愛い。
顔が緩むのを抑えて、彼女に話す。
「俺とばっかり一緒にいるから、心配したんやん。
なんか、女の子って怖いイメージあるから…」
ましてや女子校に通っているのだ。
ドロドロした女の争いとかがありそうで、心配にもなる。
「ふふっ、ドラマや漫画の見過ぎやろ。
しかも、言うほど一緒の時間多くないって。」
確かに、あんまり呼び出したりしてはいけないと思うから、会うのは週2くらいだからけど…
メールや電話は毎日している。
多くはないと言うなら増やしても良いのかな…
「じゃあ、女子校ってどんな感じなん?
なんかさ、珍しい話とか無いん?」
隔週で週3にしてみようかなと考えながら、女子校について聞いてみる。
「んー…仲良し二人組がトイレで同じ個室に入って行ったり?」
「…‼︎…ゴホッ…」
軽い気持ちで聞いた話でまさかの展開。
飲みかけのコーヒーを詰まらせてしまった。
彼女があまりに爆弾を投下してくるので、以前までは入り口に陣取っていたこの店も今では一番奥。
人目につきにくい席を選ぶようになっていた。
「合コンきっかけで付き合ったらクラスメイトの元カレやったり?」
あ、さっきより優しい。
でも、女子校ならではと言えるのか?
共学でもあり得る話に思えた。
「…それ女子校関係なくない?」
彼女はわかって無いなーと言わんばかりに、机に両肘をついて、説明し始めた。
「いやいや、女子校の合コンは基本的に紹介されるルートが被りやすい!
主要メンバーがいて、そっからその友人、知人…って広がってくからね。
よって、同じメンバーをフォークダンスのようにこう…ぐるぐると…」
…順番に巡ってくると言う事か…
あり得るとか言うレベルでは無く、あるあるだった。
「…輪に入れない人も、もちろんいるんやけどね…」
この輪、僕は入りたく無いけど。
取っ替え引っ替えなんて、出来る訳ないし…
と、彼女が写真をカバンから出してきた。
「陰キャラはまぁ、わかるやん?
合コンとか興味あっても、非リア充ですからーってやつ。
あと、興味すらないやつもいるよね。」
彼女の友人達はこちららしい。
何人かを指差していたけど、プリクラで見た顔があった。
内情に詳しい事に、やや不安を感じるが彼女は…どちらかな…
「あとは卑屈なブーちゃん。」
…?具体的すぎるやつがきた。
「愛嬌、気配り、癒し、ムードメーカー。
以上、4タイプに属さないブーは無理ねー。」
ここでのブーはデブのブーらしい。
切ないがクラス写真でも一際目立っている。
「なるほどね。
なんとなくわかる。」
多少のブーちゃんは他にもいるけど、この子は何だか性格に難がありそうだ。
クラスメイトとの距離感がそれを物語っている。
「うちのクラスに、虚言癖ブーが居てね?
彼氏の話をめちゃくちゃ自慢してくんのよ。」
お?ブーちゃんも、なかなかやるじゃん。
特殊な性癖の人もいるしね。
「めちゃくちゃかっこいいアピールするくせに、誰も会ったことないし、写真も見た事ない、医大生。
まぁ、妄想彼氏だと思うんだけどさ。」
あらら…拗らせてる子なんだな…
あながち嘘では無いのかも知れないけど…なんだかね。
「そいつがさ、やたらあたしにマウンティングしてくる訳よ。」
…言っちゃ悪いが、うちの彼女に勝てる要素、無さげなんだけどな。
「『最近肩がこるんだよねー…
今、Fカップにまでなっちゃってさー、もう彼氏のせいかなー…。ミサちゃんは大丈夫?』
とか、はぁ?ってならん⁉︎」
彼氏との肉体関係をほのめかしてくるのか…
何気に巨乳アピールもして…ん?ミサ巨乳だから、マウンティングにならんくない?
「ブーの乳は脂肪やん!腹と一緒やん!
肩凝りは血流悪いからやろ!
しかもなんで、あたしに振るねん!ムカつく!」
何故ヒートアップしたー…
ブーに厳しいな、おい…
「あいつ…あたしが処女って、知っててみんなの前で言うんやもん…
愛された事ないみたいな言い方してくんねん…」
そこで怒ってたのか。
ちゃんと僕の気持ちを伝えてあげないと…
「ちょっと聞き捨てなんな…
俺はミサの事、めちゃくちゃ好きやし。
…大事に、思ってるから…」
照れながら、でも言い切った!
伏せ気味になっていた顔を上げると、彼女と目が合う。
「‼︎」
やられたー…
彼女はニヤニヤと笑いながら、嬉しそうに、そして満足そうに、こちらを見ている。
耳まで真っ赤になっているであろう僕に向かって、彼女は一言だけ、返してきた。
「あたしも、めっちゃ好き。」
恥ずかしさが、限界を超えた。
彼女を見る事も出来ず、咄嗟に机に頭をつける。
「たまにはさ、聞きたかったんよね。」
優しい声で呟く彼女の手が僕の髪に触れる。
ー…ゾクゾクッ!
見えないように机に伏してしまった所為で、敏感に反応してしまう。
静まれー、静まれー…
そして、僕が顔を上げるまで、彼女はずっとニヤニヤしているのだった。
付き合って四ヶ月くらい。
僕はもう、我慢出来る気がしない。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。