『疲顔』と『幼顔』
外見を気にしない人はどれほど居るだろう。
大抵の人は清潔感があるとか、爽やかで明るいとか、雰囲気を伝える言葉にも美形を思い浮かべるだろう。
僕の友人達もそういった感覚なのだろうか…
バイト仲間大人数での飲み会ともなると、仕事の愚痴から趣味、恋愛話と移り変わるもので、今まで浮いた話のなかった僕は格好の餌食だ。
以前、ミユキ先輩にどんな子か聞かれ、さすがに女性の先輩に女子高生とは言い難いので…
「顔立ちはやや幼い感じで、小柄な明るい子ですよー。」と伝えた。
また別の日、ヨシ先輩にも聞かれ、男同士だし、ちょっとした自慢もあって…
「うちの妹と同い年なんですけど、なんか色気?があって、めっちゃ振り回されてるんすよー。」
と答えた。
そして流れた噂が
「彼女はJKロリ顔巨乳の小悪魔系」
しかし、間違いとも言えないのがまた問題で…その結果が今である。
「抜け駆けしやがってー!」
同期のアツシが騒ぐ。
現在彼女なしで実は素人童貞仲間だ。
「幸せを分けやがれ!」
最近彼女と別れたヨシ先輩がヤジを飛ばしてくる。
「JKとか…なんか、すげーな…」
副店長…そんな呟き、なんか年の差を感じます…。
「ナオキくんってそんな趣味だったんだねー…」
「高校生…まじかー…」
あー、女性陣からはポツポツと刺さるお言葉がぁー。
ちょっと憧れのミユキ先輩まで…
様々な声が聞こえる。
居酒屋の賑やかな喧騒の中で、なぜこうもはっきりと聴こえてくるのだろう…
「てか写真!写真ないの!?」
当たり前にそんな話になる訳で…
酔った勢いに身を任せて、アツシが叫ぶ。
「あんま写真好きやないらしくて、無いねん。」
嘘では無い。
基本的に一緒に撮ったりしないから、別フォルダに隠し撮りか不意打ちならあるけど。そんなん見られたら、またみんなに何言われるか…考えただけで、冷や汗が出る。
「なんでやねん!貸せって!」
やや強引に携帯を掻っ攫うアツシ。
先輩達も一緒になって覗き込む。
隠しフォルダでロックもしてるから、抜かりはない!
なんせ、一度ミサに消された事があるからな!
返してくれない携帯を気にしつつ、ビールを飲む。
今頃、ミサは何してるかな…
飲み会って言ったら、ちょっと素っ気ない感じだったなー…
「ほんまに無いな…」
「いやいや…ないなんて事…」
「じゃぁ…」
隅々まで写真のチェックをしているようで、少し不安になる。
いつの間にか女性陣も混ざっているし、変な写真はなかっただろうか…
ー ブー…ブー… ー
誰かの携帯が鳴る。
周りを見渡しても誰も反応が無い。
…え?もしかして…僕の?
「写真きたー!!!」
先輩が叫ぶ。
「え?…え!?」
「えー、勝手ながら、ミユキちゃんのアドバイスに従い、メールをしてみました‼︎」
ミユキ先輩!?何してんの!
ヨシ先輩の手に握られた携帯は取り返そうにも、何故か嬉しそうな副店長に阻止される。
「『今何してる?なんか可愛い彼女の顔が見たい気分やねんけどなー…』と甘えてみたよー。」
あー…ミユキ先輩、なんか楽しそうですね…
イタズラ好きなところがあるのかな…。
半ば現実逃避しかかっている僕を見ながら、アツシが携帯を掲げて、メールを読み出した。
「『酔ってるのー?明日もバイトあるんやし、飲み過ぎは気をつけてねー(*´ω`*)お風呂上がりだから、見たらすぐ消してよー(〃ω〃)』だって!
可愛いー!優しい!ナオキ、せこいわ‼︎」
アツシが何故かショックを受けて倒れた。
ぶつぶつとずるいせこいと呟いている。
僕の携帯は再び先輩の手に渡った。
「さて、いざ!拝見致します‼︎」
「わっ!ちょ!やめ!せめて、俺が見てからにー…」
懇願虚しく、みんなで携帯を食い入るように見つめている…
死んでたアツシまで蘇って…
………
汗が止まらない、自撮り写真なんか、ミサが悪ノリしたら大変な事に…
「ねぇ…」
空白の時間を切り裂くようにミユキ先輩が口を開く。
「ほんとに高校生?」
え?どう意味だろうか、まさか…やらしい自撮りだったとか⁉︎
「中学生じゃないよね?」
「え⁉︎ちっ、違いますよ‼︎だって、彼女Eカップありますから‼︎」
…あ…
「え…」
「うわ…」
ミユキ先輩が固まり、他の女性陣が侮蔑の表情を浮かべている。
「うおぉぉぉぉぉぉお!!!ガチのロリ顔巨乳系やんけ!」
「くそ!何で!何で俺じゃないんだぁぁあ‼︎」
ヨシ先輩とアツシが狂った様に叫びながら僕を叩いたり、小突いたりしている。
副店長は菩薩の様な表情でこちらを見つめていた。
半ば捨てられたように机に置かれた携帯の画面を見ると、ミサの写真。
パーカーを着ていて萌え袖、前髪を切り過ぎたのを気にしてか髪を抑えている。
すんごい可愛い。可愛いけど…パッと見、小学生でもいけるよ…
『何で送ってくれたの?』
写真を保存してメールを送る。
冷たい視線と嫉妬の打撃、生暖かい笑みを一身に受けながら、返信を待つ。
『浮気しないように、だよ(〃ω〃)
もう寝るから、早く帰るんだよ?
おやすみなさい♡(´ε` )』
お酒のせいじゃない、胸がじんと温まった。
おやすみと返事をして、携帯をしまう。
女性陣と一部男性陣は話題を切り替えたようで、それぞれの会話に花を咲かしている。
アツシとヨシ先輩、そして副店長だけが僕を弄り続け、夜は更けて行くのだった。
付き合って、三月と少し。
僕はバイト先で『ロリ本』と呼ばれるようになった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。