『成長する勇者』と『無双する狂人』
僕の彼女は少々ヲタク気質である。
だからこそ、漫画やアニメ、ゲームの話をしても聞いてくれるので、それが嬉しかったりする。
男同士でするのとは、また違った会話に楽しさがあるのだ。
いつものドーナツショップで制服姿の彼女と、軽く腹ごしらえをしながら話す。
「ミサは最近、なんのゲームしてんの?」
僕のバイト先ではモンストが流行っており、毎日誰かと共闘している。
かなりやり込んでいるので、彼女もしていたらカッコよく助けてあげれたりするかなー…
なんて、ちょっとした下心で聞いてみる。
「家ではねー、スーファミしてる。」
斜め上の回答に僕は慣れてきているようだ。
今回はフリーズしなかった。
…でも、スマホのゲームではない辺りがなんだかジワる。
詳しくは聞かなくても誰でもわかる、大ヒット作品を繰り返し遊んでいるらしい。
「スーファミのあのドットからの進化途中!って感じがたまんなくってめっちゃ楽しいんやけどさ!
悲しい事が、あるんだよね…」
なんだか悔しそうな彼女の表情にソワソワする。
楽しみ方に少々個性を感じつつも、彼女が悲しむ理由を聞いてみる。
「どぅるどぅるどぅるどぅん、どぅる!って!」
…あー、成る程ね。
電源を入れて、気合いの入ったやる気を完全にへし折ってくる、魔法のメロディだ。
電源を入れ直しても、もういないセーブデータに絶望感を隠せなくなる。
「あたしの…冒険の書…」
遠くを見つめる彼女を見て、僕も昔を思い出す。
当時を思い出して、なんだか切ない。
「ちなみにレベルとかどこまでいってたん?」
それだけ悲しむのだ。
序盤ではないのだろうと聞いてみる。
「68」
痛いなぁ…
ストーリーは後半でいよいよ盛り上がってくるあたりかな?
「せっかく、職かえたのに…」
「え?」
ストーリーを確認する。
序盤である。
そのくせ、装備はラスボスに挑む事が出来るという
不思議。
彼女は膨大な時間をかけてレべリングをしてでも、無双をしたいらしい。
出来るなら、中ボスはワンパンでいきたいと言う。
無理だけど。
「レべリングしたらお金も貯まるし楽しくない?」
彼女の意外な趣味を発見した。
「俺は割と死んだりしてから考えるかなー…」
僕は最短でボスに突っ込んでいき、ギリギリ倒せるか倒せないかを楽しむタイプである。
第二形態なんかが来た時には、すぐ全滅してしまい、「なんと情けない。」と言われてしまうやつだ。
「死んだらお金がかかるやん?」
いや、そうなんだけどね。
彼女はゲームでは守銭奴のようだ…。現実では違う事を祈る。
「まぁ、ためにためてから、パーっと使う!
ってのが好きなんやけどねー。
最高にきもちいって思わん?」
とっても良い笑顔で言う彼女の口元に目を奪われる。
悔しそうな顔といい、今のセリフといい、今日は何だかソワソワしてしまう。
彼女がグラスのストローをクルクルしながら、少し怠そうにテーブルへともたれかかる。
「てかさ、あのゲーム、若干色気を漂わせてくるよね。」
彼女が、また突拍子も無い発言をしてくる。
なんかあったっけ…?
僕の視線に気付いての発言かと、少し動揺してしまう。
「ほら、踊り子の服とか、バニースーツやら、パフパフとかさー…
何気ない生活にはあり得ない単語やと思わん?」
なるほど、確かに。
幼心にドキドキした事がある。
あのドット絵を見て、現実に当てはめ思いを馳せていた、少年時代の僕。
「今でこそ、なんとも無いけど、ガキんときははしゃいだなぁ。」
バカ丸出しのエロガキだった自分を思い出して、苦笑いをしてしまう。
まぁ、今もエロに対しては大差ないのかもしれないけど。
「ナオキかわいー!
そんな頃に会って、イタズラしたくなるなっ。」
あー…くそっ!過去の僕!イタズラされたいぞ!
「そんなんやったら、俺がイタズラすると思うで。
スカートめくったりとか。」
彼女が近所のお姉さんだったら、毎日スカートをめくっていたに違いない。
朝の登校時間なんかも無理やり合わせたりして、なんとか接触をはかりそうだ。
「じゃあ、スカートめくりをされないように、ハグしちゃうかなー。」
おー…リアルパフパフか…
スカートめくりよりも刺激が…
彼女はわかって言っているのだろうか?
「ね、今はスカートめくり、しないの?」
良からぬ妄想が飛び交う僕。
挑発するかのような表情の彼女を目の前に、僕はしばらく席から立ち上がる事が出来なかった。
付き合って、ふた月半。
ぼくはまだ一歩を踏み出す事が出来ない。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。