◆蒼汰、富士の麓でイチャラブする(その6)
◆蒼汰、富士の麓でイチャラブする(その6)
サキさんは自分が言い出したのにかなり酔ってしまい、闇鍋を前にしてコックリコックリと舟を漕ぎ始めた。
俺の目の前の鍋はというと、グツグツ煮えて今にも吹きこぼれそうになっている。
火ばさみで薪を寄せたり崩したりして火加減を調整していると、サキさんがドサッと音を立てて転がった。
↑(イスは小さくて低い)
あ、あれっ? あたし今寝てました? グシグシと目をこすりながら座ったままで辺りをくるりと見渡す。
いや、それより怪我してない? 俺はサキさんの手を取って立ち上がらせ、服に付いた草を払ってあげる。
大丈夫? もう寝た方がいいんじゃない。 酔ったサキさんは子どものように手がかかる。
だ、大丈夫れすよ! それより、あたしが入れたスペシャルな具材を早く食べてくだひゃい。
(うわっ 目が完全に据わってきてる。 こうなるとサキさんの暴走が怖い)
わ、わかったから。 ほらっ!
俺は鍋の中から適当に具材をつまんで、口の中に放り込んだ。
はむっ もぐもぐ。 なっ、なんだこれ? もしかしてトマト?
おおあたり~ どうれすか? 美味しいれしょう♪
う、うん。 まあ、これはこれで有りかな・・・
さっ それじゃあ、次行ってみてくだひゃいよ。 ほら早く、早く♪
サキさんが両掌をパタパタさせて煽ってくる。
お互いに選んだ具を鍋の相手に近い方へ集中して放り込んだので、自分の手前側から具材をすくえば必然的にサキさんが選んだ具がつまめるのだ。
サキさんが目をキラキラさせて見つめているので、仕方なく感触を確かめながら鍋の中からトマトと違うと思う具をつまんだ。
辺りが真っ暗で、下からチョロチョロと燃える炎の明かりでは良く見えないのだけれど、俺がつまんだそれは何やら怪しげな形をして見える。
な・・なんだろこれ? ゴツゴツした石のような・・・ まてよ、もしかしてキノコか?
あむっ もぐもぐ・・ んっ? ここれは・・・ ブロッコリーか?
キャハッ♪ せいかいデーース♪
ふむふむ これも有りだね~。 おいしいよ。
やったーー♪ 蒼汰さん、あたしやりましたよね♪
うん。 これはマジイケルよ。
じゃあ、最後のひとつ、行っちゃってくだひゃい。
サキさんは、また両掌をパタパタさせてくる。
うん? これかな? 俺は鍋の手前右側に箸を入れて、最後のそれをつかみ上げた。
はむっ おう、これは厚揚げだ! これも美味しいよサキさん・・・ って寝てるし!
結局、俺が用意した具材は、この夜サキさんが食べることはなかった。
自分が用意した分を俺が食べたのを見て満足して爆睡状態のサキさんをお姫様抱っこしてテントに運ぶ。
本当は二人でルーフテントで寝る予定だったんだけど、さすがにサキさんを屋根まで運びあげる力は無い。 (危ないしね)
設営したテントは一人用だし本格的なものではないので、クルマから取ってきた冬用の寝袋に寝かせる。
急に静かになったサイトで、チョロチョロと燃える焚き火を見ながら、残された俺は一人の時間を過ごすために、とっておきの一本をクーラーボックスから取り出した。
そう、富〇錦酒造さんの「富士〇純米ひやおろし」だ。
俺は日本酒は極力訪れた地域の地酒を飲むことにしている。
やっぱり、その土地で作られたお酒が一番おいしく感じるのだ。 それにほら地産地消っていいじゃないか。
ときどきパチパチと音をたてる焚き火を見ながら、鍋をつつき日本酒をくいっと呷る。
夜も更けて辺りの温度が急に下がり、キンキンと冷えて身が引き締まる。
そして俺は、このキャンプ旅の目的である、転職と結婚式についての覚悟をようやく決めたのだった。
第48話「蒼汰、富士の麓でイチャラブする(その7)」に続く。




