◆告白
◆告白
サキ、早く言いなよ。 友美さんがサキさんの背中をトンと押す。
えー でもー。
言いにくいのなら、あたしから言ってあげようか?
それはだめ。 自分で言うわ。
そう言いながら、サキさんは俺に真っすぐに向き合った。
サキさんの目は何かを決意した時の、力のこもった輝きを放っている。
その目でじっと俺を見つめてくる。
ドキ ドキ ドキ 心臓の鼓動が早くなる。
蒼汰さん!
は、はい。
あたしと一緒にキャンプしていただけませんか!
はっ? いまも一緒にキャンプしてますよね。 俺は一瞬わけがわからなくなる。
そういうことではなくてですね! サキさんは両腕をブンブン振り回す。
あっ サキさん、ちょっと怒ってます?
いえ、怒ってなんかいません。 明日からあたしとずっと一緒にキャンプして欲しいんです。
なんですと?
サキさんは、その場で大きく一回深呼吸をすると後を続けた。
友美は、ああ見えても医大生で、これから講義や実習で忙しくなるため、あたしとキャンプできるのは今日までなんです。
それで、俺に一緒にキャンプ生活をして欲しいと?
だめですか? サキさんは、じーーっと無言で見つめて来るが・・
だめというか・・ 俺はサラリーマンですから、月曜日から金曜日までは普通に会社に行きますよ。
しかも、保安や保全の仕事は、休みの日の作業が多いんです。
だから、サキさんと一緒にキャンプ生活をするっていうのは無理なんです。
すると、サキさんの目にみるみる涙が溜まって行く。 そうだった。 サキさんは普通の人よりたくさん涙がでるのだ。
俺はそれを見て激しく動揺する。
ちょっと、サキったら。 あたしのこと「ああ見えても医大生」って酷くない。
友美さんがハンカチをサキさんに渡しながら、俺を睨んで来る。
あ゛ーーー もう、どうしてこうなった?
あのね、蒼汰さん! もうサキと同棲しちゃいなさいよ! 友美さんが、いきなり爆弾発言をする。
ぐぇっ? 突然のことに俺はカエルがつぶれたような声しか出ない。
あたしが許可するから、この娘を引き取ってください。 そう言って友美さんは、サキさんを俺の方へポンっと突き飛ばした。
その勢いで、サキさんは俺にしがみついて泣き始める。
わ~ん わん。
えっ? 犬?
ぶっ チーン ぶぶっ
今の一言がツボに嵌まったのか、サキさんは泣きながら笑う。
しかも、俺のシャツで鼻をかんでねっ?
確かに俺はサキさんのことが大好きだ。 ほんとうの事を言えば、プロポーズだってしたい。
でも、そうするならサキさんのご家族にも、きちんと認めてもらって祝福されて結婚したいじゃないか。
それに、いばらの道かもしれないけど、そうしないとあの熊親父に絶対殺されるだろう。
蒼汰さん。 蒼汰さんがあたしのこと嫌いなら仕方がありません。 サキさんはシャツに顔をうずめたままで、モゴモゴ続ける。
でも、あたしが家に戻ったら、きっと父が決めた男性と結婚させられてしまいます。
そんなくらいなら、あたしいっそこの世界で猫になって一生ここで暮らします!
だからもう、今からあの水は一滴たりとも飲みません!
あの親父の頑固遺伝子を引き継いでいるサキさんは、こうなったら本当にそうするだろう。
わかりました。 サキさん。 でも俺は同棲って考え方はあまり好きじゃありません。
だから今、俺の気持ちを正直に言います。
サキさん、愛しています。 俺と結婚してください。
は・・ はい♪
俺に抱き着いていたサキさんの両腕に、さらに力が加わる。
サキ、良かったね。 あたしもこれで安心できるよ。
見れば友美さんも泣いている。
この後もサキさんはしばらくの間、俺にしがみついて泣いていた。
だから俺のシャツが、ぐしょぐしょで一部ぬるぬるになったのは言うまでもない。
まさか九十九里浜まで来て、サキさんにプロポーズするなんて思ってもみなかったけれど、こうして俺は晴れて最愛の女性を嫁さんにすることが出来たのだった。
第26話「新婚生活」に続く