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愚者とエゴイストの輪舞曲  作者: ハロー
第三章 欠けてゆく月
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王の耳目


 大広間では各国の王侯貴族が着飾ってダンスや歓談をしている。ウィンフィールド国王はそれを垂れた瞼の隙間から覗くように静かに眺めていた。飽き飽きした光景と呼ぶにはいささか規模が大き過ぎたが、それにしても少なくとも月に一度は開かれる舞踏会の内の一つとしか思えない。

 ワイングラスに口を付け、飲みたくもない酒を喉に流し込む。


「……どうした」


 黒目黒髪の国王付きの従者が、そっと影のように国王に近づいて来た。声を掛けると、従者のシンは無言で小さなメモを差し出した。シンは年若いが有能で何でも器用にこなす男で、国王は我が耳目と信頼を置いている。国王はメモを受け取り、痩せ衰えて鳥のようになった指で開く。


「…………」


 メモを読みながら、国王は額の皺を伸ばすように撫でさすった。


「何を考えておるのか……。万一のことが無いよう、引き続きよく見ておけ」


 メモを放り、周囲に聞かれないような小声で呟く。シンは目を伏せたまま頭を下げ、それから国王が投げたメモを拾い上げて丁寧に胸元に仕舞った。


「畏まりました」


 黒髪の従者の姿が袖へと消える。玉座の肘掛けを握る手に力が籠もる。

 息子達は王子という立場を何も分かっていない。自分があの年の頃には全てを理解し受け入れていたというのに、と国王は奥歯を噛み締める。


 楽団が一際テンポの速い楽しげな曲を演奏し始めた。数十年ぶりの大舞踏会とあって誰もが楽しげに見えたが、そこにいる誰もが本当に楽しい訳ではないことを国王は知っている。


 頭に重たい馬鹿げた飾りを乗せて、こうして馬鹿げた催しを見ながら自分は一生を終えていくのだ。そう考えると暗澹たる思いがしない訳でもなかったが、だからと言ってそれ以外の人生など想像も出来ないし今更別の道を歩む気もさらさらない。一国の王というのは玉座に据え付けられた飾りの一つに過ぎないのだから、黙っていてもそのうち国王という立場は自分から過ぎ去って行く。


 飾りに徹して生きている国王にとって、我が子は分身のような存在だった。息子達も自分と同じ茨の道を足取り重く歩む身だと思えばこそ、情けも掛けられる。


 そして王城の中は国王にとって、ほとんど体内にも等しかった。それほどに国王は人々の動静について過敏になっている。血の四日間に至る民主化の流れで自分の命が脅かされた経験から、僅かな兆候も見逃したくないという思いからだった。


 王城で起きることは全て自分が知っていなくてはならないし、自分の意に反したことが起きようとしていれば芽を摘むべきだと信じている。

 霞む目で何度か瞬きをして、国王は息子が踊る姿をじっと見つめた。



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