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俺様勇者  作者: 裕の四人
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第一話 「勇者の旅立ち」

魔王が復活するらしい。

そんな話が世に出回り始めてからもう数年が経っていた。魔王復活どころか、世の中は平和そのものだ。国を守る兵士は形だけの鎧を着て呆けているし、王は阿呆のように口を半開きにして偉そうな椅子で居眠りである。

「……で?なんなのそのボケボケ王が俺を謁見の間にまで呼び出して」

「こらお前!口の利き方に───」

「うるせぇ。御付きの分際で」

「はぁ!?」

「あーいいのいいの。こいつこういう奴だから。君下がっていいよ、お昼まだでしょ」

「は、はあ」

王は手をひらひらと振り、一応形だけ護衛についている兵士を無理やり追い払った。

「で、なんなんだよ俺は早く家で新しくダウンロードしたクエストを回さなきゃなんねーんだよ」

「まあそう言うなって。お前一応昔魔王封印した勇者の子孫じゃろ?」

「魔王って何年前の話をしてんだよ。復活とやらも嘘っぱちだしよ」

「それが嘘っぱちじゃなくなるかもしれんのよ。最近町の周りに魔物が増えてきてのー」

「は?スライム的なゴミばっかだろ。そんなモン前からいたよ」

「数が増えてるっつっとるの。悪い兆候らしいよー」

「らしいって」

なんとも軽いノリの王である。仰々しい王冠に立派な髭をたくわえた、王そのもののような見た目のくせに性格は適当だ。

「まあ魔王云々はともかくとしてね」

「ともかくでいいのか」

「いや、ベイルがいなくなって結構経つじゃん?」

「ああ、そうだな」

ベイルとは王の甥だ。数年前から行方が知れず、捜索班もなかなか見つけられずにいる。思えば、魔王復活の噂がまことしやかに囁かれる少し前の時期だった。

「そんでさー、ワシ的にもだいぶヤバいと思うわけ。だから幼馴染のお前に捜索を頼みたいんじゃよ、アレン」

「んー……ま、あいつのためなら吝かじゃねーけど」

「連れ帰ってきてくれたら好きな額やるよ。んじゃ、行っといでー」

「おいおいそんだけか。軍資金とか装備とか寄越せよ」

「えー、いいよ。おい」

「はっ」

王が呼びかけると、昼休憩に入ったはずの兵士がサッと現れた。

「適当な装備とお金あげて」

「はっ」

兵士はまた下がり、五分ほどで戻ってきて武器と盾と金の入った袋をポイと床に投げた。

「ほら」

「乱暴すぎね?せめて手渡ししろよ俺は王から直接指令受けてんだぞ」

「…………」

「ったく、口の利き方がなってねーのはどっちだよクソゴミ」

アレンは兵士が拾う前に与えられた物を拾い上げた。


アレンは「竹刀」を装備した!

アレンは「革の盾」を装備した!

アレンは500バルを手に入れた!


「なんで刃もついてねー武器なんだか。まあいいや、行ってくる」

「ああ、城下町に勇者のパーティの魔法使いの子孫いたじゃろ。あいつ連れてけ。一人は危ないかも」

「はいよ。モッサ爺さんのことだな」

まるで友達の家に遊びに行くような軽いノリで、アレンはベイルを探す旅に出ることになった。




「んー……てか竹刀って一応両手剣の類だよな……片手盾で両手剣ってどうやって使えばいいんだ?」

持ち方や振り方を考えながらアレンはモッサの家を目指していた。結局、盾を構えながら竹刀を振るのは難しいという結論に至った。


アレンは「革の盾」を捨てた!


そうこうしているうちにモッサの家に到着したアレン。ノックもせずにドアを開け中に入る。

「モッサ爺さーん、いるだろ」

「おーアレン。王んとこから話は通っとるよ。ベイルを探しに行くんだろ?」

「そうそう。自称大魔導士のあんた連れてけって王が言ってた」

「は?ンなわけないだろ、こんな老いぼれ魔力なんかもうほとんどないぞ。炎魔法も料理に使うのが関の山だ」

「はあ?まあいいよ、料理に使えるなら上出来じゃん。来いよ」

「ヤダよ。腰にくるよそんな長旅。代わりにルイを連れてけ」

「ルイか。ルイか……」

「おーい、ルイ」

「はーい」

モッサが呼ぶと、家の奥からブカブカの魔導士のローブを纏った小柄な少女が現れた。

「はっ!勇者様!?もう来たの!」

「なにその呼び方」

「えっだって王様が魔王を倒しにどうこうって……だから勇者様」

「ルイ……話聞いてたか?アレンはベイルを探しに行くんだよ」

「え?でもメールには」

「は?でも兵士は」

「どっちでもいいよもう!てか爺さん、衰えた魔力でもルイよりマシだろ?」

「ひどい!」

ルイはモッサの孫だそうだ。モッサの子供、つまりルイの親は見たことはないが、モッサが言うには遠く離れた村で遺跡の調査をしているらしい。要するに、ルイも魔王を封印した勇者一行の子孫なのである。

しかし、ルイの魔法に対する不器用さは有名だった。まともな魔法など一度たりとも見たことがない。

「せめて回復魔法の一つくらい使えるようになってから来いよ!回復魔法で花枯らすとかカスすぎんだろ!」

「うう……その話はもうやめて」

「いや、いいから。アレンよ、ルイは必ず役に立つぞ。そろそろ実践経験も積ませたいと思ってたとこだし、ベイルはルイの幼馴染でもあるし」

「はあ?ベイル探しはトレーニングかよ。まあいいや、難易度は高い方が面白いだろうしな」

「お前こそ、ゲーム感覚か」

「え、ていうかお爺ちゃん、私行くなんて話聞いてないんだけど」

「今言ったからな。そもそも俺が行くわけないだろ」

「ええー……」

「いいから来い、片っ端から敵に回復かけまくれ」

「ひどいなあ」

「早くしろウスノロ!」

「はっ、はいぃっ」

ルイはアレンに怒鳴られ、奥に戻ってから魔導士の杖を持って戻ってきた。

「よし、ベイル連れ帰って豪遊するか!」

「豪遊……?」


ルイが仲間に加わった!


「じゃあなモッサ爺さん。くたばれ」

「口悪すぎだろ。行ってこい」

アレンはルイを連れ町を出た。ベイルがいなくなった時目撃証言はなかったため、とりあえず情報を得るために東にあるさらに大きな町を目指すことにした。それでも数年前の行方不明者の情報が手に入るかは微妙だが。

「ん?」

「あ」

二人が黙々と東へ向かっていると、草むらからスライムが三匹飛び出してきた。


スライム達が現れた!


「あれ、こんなに町近いのに」

「うわわわわ、魔物だ!勇者様、魔物!」

「幼馴染にその呼ばれ方する俺の身にもなれよ……ほらルイ、やれ」

「ええー!?」

「いいからやれ!こんなゴミお前でも掃除できるだろ!」

「だだだって、ていうか勇者様がやればいいじゃん!」

「いいかルイ、世の中には三種類の人間がいる。苦労する奴、楽をする奴、そして俺だ」

「なにそれ!?」

「お前は苦労してゴミを掃除しろ。早く。迅速に。速やかに」

「うう……えーい!」

ルイは魔導士の杖をぶん回し、スライム三匹をなぎ払った。一言も発さずただ待ち、なぎ払われるだけのスライム達も哀れである。


スライム達をやっつけた!


「魔法使えよ魔法!なんの杖だよそれなんで鈍器にしてんだよ!」

「だって咄嗟に魔法なんてー!」

「てか一撃で三匹とか地味に使えるな」

「え、そ、そうかな」

「なに喜んでんだ馬鹿。お前さ、攻撃魔法何が使えんの?一発撃ってみろよ」

「え……じゃ、じゃあ……」

ルイは目を閉じ杖に神経を集中する。

「『大地を巡る炎の力よ、その血脈の一部を我に貸し与えよ』」

(詠唱呪文?そんな高度なモンいつの間に使えるように───)

「ファイア!」

ルイの杖の先からこぶし大の大きさの火の玉が現れ、五メートルほど飛んで消えた。

「…………」

「ど、どうかな?」

「ゴミすぎ」

「ひどい!」

「そんな大層な詠唱に媒体の杖まで使ってそんなゴミ魔法かよ!その程度俺でも無詠唱で撃てるわボケ!ファイア!」

アレンの手のひらから人の頭程度の大きさの火の玉が現れ飛び、二十メートルほど離れた木をなぎ倒した。

「はえーすっごい……」

「お前がカスすぎんだろ!何が役に立つんだこんなのの……」

アレンはうんざりしつつ、ルイは役立たず呼ばわりに眉を下げながら、共に東の町を再び目指し始めた。

ベイルを探す旅はまだまだ大きな苦労が待ち受けていそうである。




続く


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