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おじさん、オートマタを拾う

 

 森を歩くこと早一週間。

 慣れてきた俺は、1人で森を散歩していた。

 ユウさんは見つけた綺麗な川で水浴び中。

 流石にその近くにいるのは(はばか)られる。

 近くに男がいたら落ち着けないだろう。

 だから俺は、焚火の枝集めを買って出た。


 のだが。


「おいおい、嘘だろ……!?」


 俺は折角集めた枝を落とし、絶句した。

 目の前にあった……いや"いた"のは、自然豊かな森の中では明らかに浮いた存在。

 黒い丈長のワンピースに白いエプロン。

 純白のフリルがついたカチューシャ。

 翡翠石が中心を飾るリボン付きブローチ。

 端正な顔立ちは眠ったように動かない。

 岩に背を預け、ピクリとも動かない。


 ……メイドさんが、森の中で倒れていた。



 いやいやどういう状況だ!?

 何でこんな森の中にメイドさんが!?

 明らかに事件性を感じるのだが!

 大丈夫なわけがない、これはダメな奴だ。

 明らかに関わると大変な奴だ!


 迷子の幼女や強盗とは訳が違う。

 彼女の表情には生気が無い。

 なのに外見は傷や汚れ一つ存在しない。

 まるで今しがた事切れたかのようだ。


 その異質さは誰が見ても驚くだろう。

 だが、俺も勇者のお供になった身だ。

 こんなところで物怖じしてはいられない。


 彼女の手を取り、脈を図る。

 本当に死んでいるか確かめるために。


「……あれ?」


 その手に触れて、俺は違和感に気づく。


 予想通り彼女には脈拍が無い。

 細く長い指先にも血色は感じられない。

 というか、それ以前の問題みたいだ。

 彼女の手を持ち上げてわかった。

 見た目の細さに反し、やけに重いのだ。

 まるで同じ大きさの鉄塊かのように。


 この違和感に俺はある仮説を立てた。

 それを確かめる為、彼女の体をまさぐる。

 後ろめたく罪悪感のある行為だ。

 でも、確かめなければ始まらない。


 彼女の体に"それ"はきっとあるはずだ。

 全身をくまなく調べ、探し出す。

 そして、(うなじ)から右肩を調べた時だった。


「あった……やっぱりそうだ!!」


 その場所に、探していたものはあった。

 灰色の染料で刻まれたシンプルな文字列。

 "Sn-50"という字が丁寧に転写されている。

 これが刻まれているなら、理由は一つ。


 彼女は人間ではない。

 魔術式自立人形……オートマタだ。

 首の裏に刻まれていた文字は識別番号(シリアルナンバー)

 彼女が製造された証である。


 オートマタに人のような生体活動は無い。

 彼らを動力は燃料と魔力の篭った石。

 専ら燃料は水などがほとんどだ。

 となると、燃料切れか故障か。

 それを確かめる必要がある。


 故障したオートマタは、どのような形でも一度修理に出すのが所有者の義務である。

 その後、修理が可能ならば修理を。

 不可能なら然るべき廃棄法を取る。

 それが意思を持つ人形はの敬意なのだ。

 前に工房長がそう言っていた。


 故障したオートマタの不法投棄は犯罪だ。

 しかし捨てた持ち主はどこにもいない。

 だからと言って彼女を見捨てられない。

 なら、やるべき事は一つだろう。


「重っ! でも……!!」


 俺は彼女を背負い、持ち上げる。

 体格は大人のさほど女性と変わらない。

 だが中身は大掛かりな装置。

 重い金属もふんだんに使われている。

 同じ体格の女性の数倍は重い。

 今にも腰が悲鳴をあげそうだ。


 だが、俺はなんとか踏みとどまった。

 修理をすれば再起動できるかもしれない。

 そう信じ、俺は走り出した。


 足場の悪い森を駆け、川へと向かう。

 周囲には当然誰の気配もない。

 人がいるとしたらユウさんだけだ。

 もうだいぶ時間はたった。

 水浴びもそろそろ終わっただろう。

 そう信じ、俺は森を抜けた。


「ユウさん! 大変な事が——」


 川に出て俺は叫ぶ。

 しかし、その言葉も尻すぼみに消えた。

 目の前に尻はあるのだが。

 ……いや、そういう冗談は良くない。


 太腿の付け根まで川に浸かったユウさん。

 そこから上は"生まれたまま"の姿だ。

 整ったシルエットが俺の目に飛び込む。

 シルク布のようなきめ細かい肌。

 柔らかさを感じる女性らしい体の丸み。

 引き締まった四肢とくびれ。

 彼女の後ろ姿は、息を飲む美しさだった。

 そしてこの状況の危うさにも唾を飲む。


 俺の声に、彼女は顔だけゆっくり向ける。

 真一文字に閉じられた口に、冷たい目。

 本当に皿のような目をしている。

 その顔は少しずつ赤くなっていく。

 だが、何故か彼女は冷静そうだった。


 俺の背負ったオートマタを見るユウさん。

 まさぐった為に服が崩れたオートマタ。

 長丈にも関わらず、軽く脱がせてしまった為に肌色が多く露出していた。


 もはや言い逃れができないこの状況。

 ユウさんは一体、どう反応するだろうか。


「……おじさん」

「な、なに?」


 抑揚のない淡白な声で、彼女は呟く。


「これはさすがに(ギルティ)だよ……」


 * * * * * * * * * *


「ユウさん、頼めるかな?」

「さっき聞いた通りでいいの?」


 水浴びを終えた彼女へ必死に土下座して謝り、誤解を解いたのはそれから約1時間後。

 彼女はあまり怒ってていなかった。

 何なら土下座を止めていた。

 しかしその目は最後まで少し遠かった。


 皿のような目で冷ややかに俺を見る彼女。

 これまでで一番心に来る辛さだった。


 誤解を解き、今はオートマタの修理中だ。

 工房で働いていた知識が早速役立つとは。

 俺の前職を知るユウさんも驚いていた。

 そして「流石魔法使い!」と褒められた。

 勘違いがまた強化されてしまった。


 今はそのユウさんに力を借りている。

 "魔力の流れ"を見てもらっているのだ。


 オートマタは魔力の流動で体を動かす。

 人でいう血管や神経のようなものだ。

 故障とは、そこに異常がある状態。

 今も恐らくそれで動けないのだろう。

 ユウさんの目は、ある意味最適な存在だ。

 見えない魔力の流動を視認できるらしい。

 魔術使用時に漂う魔力も見えるという。

 かなり便利な力だ。

 そして実際、かなり珍しい能力らしい。


 しかしそれが、俺を『魔力の動きがない不思議な魔術の使い手』と勘違いする原因でもありそうだ。


「このへんが何かおかしいよーな……」


 うつ伏せに寝かせたオートマタ。

 その人でいう頚椎(けいつい)あたりを指差した。

 早速俺はオートマタの服をはだけさせる。

 背中にチャックがあり脱がせやすい。

 と言っても必要最低限の露出だ。

 あの視線をもう一度浴びたくはない。


 露わになる血色のない肌の色。

 オートマタ特有のやけに白い肌だ。

 首にはやはり番号が振ってある。

 そして、その下に薄く入った切れ込み。

 これが内部構造を隠す"蓋"だ。

 そこに指を這わせ、ガパっと開く。


「これは……?」


 人工筋肉や基盤が詰められた中身。

 工房でよく見慣れた光景だ。

 その中の損傷箇所を一つずつ確かめる。

 軽微な損傷はあちらこちらにあった。

 だがこれはありがちな傷。

 普通のオートマタにもよく見られる。


 つまり故障には他の要因があった。

 そしてその要因は一目で察しがつく。

 更にもう一つ、目の前で横たわる彼女に隠されたある『秘密』も、同時に俺は知ってしまった。


「どう? 直せそ?」

「できそうだけど、パーツが……」


 修理を眺めるユウさんに俺は答えた。

 軽い損傷は応急処置ができる。

 だが、故障の原因はそこではない。


 彼女の故障は妙だった。

 パーツが1つ、意図的に抜かれている。

 そのパーツとは"記録"を司る鉱石。

 何故かそれだけが取り除かれているのだ。

 この場所は魔力流動にも重要な箇所。

 人間に置き換えれば心臓にも近い。

 動けなくなって当然だ。


 しかし幸い、オートマタは替えが効く。

 材料があればの話だが。

 必要な鉱石はちょっと珍しい程度のもの。

 専門的な場所には普通にあるのだが。

 この森の中では、手に入れるのは難しい。

 何か手段はないだろうか……。


「あ、それなら!」


 頭を捻っていると、ユウさんが閃いた。

 そして彼女は地図を取り出す。

 自分達の道のりと現在地が刻まれた地図。

 その現在地の近くに、街があった。


 俺にとっては旅を始めて最初の街。

 しかもこの肩書き通りなら、確実に必要な材料が手に入るだろう。


 その名も"鉱山の街・マーユ"。

 俺達は早速、街の方向へと急いだ。

 眠ったままのオートマタを背負って。


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