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Bloody Christmas’Eve 薔薇の色は人の血の色

作者: Aia

―さぁ、踊りましょう?


手を取り合って。






手が取るまで


足が引きちぎれるまで


目がえぐり取られて


内臓が飛び出すまで






あなたが真っ赤な血で塗りつぶされるまで






永遠に踊りましょう


歌いましょう?






愛しいあなたと今宵を過ごせるのなら。


真っ赤で私を包みましょう。


あなたの愛した人間の血で薔薇を染めましょう。


そして、あなたの美しい髪に飾りましょうね。






今宵、醒めぬクリスマスを過ごしましょう。


――血塗られたクリスマスを。






Bloody Christmas’Eve






“How art thow fallen from heaven,






O Lucfer,Son of the morning:






how are thou cut down to the ground ,






which didst weaken the notions!”








(Isaiah 14:12)





 まだ、この世界が暗闇に満ちていた時。

 寂しくて、悲しくて…


 悔しくて、憎くしみにこの世界は支配されていて。

 私は空からの一筋の光を見上げていた。




―もう、



…二度と戻れない天を…





 ――しんしんと真っ白な、穢れのない美しい光が。

 雪とともに正しき物にも、悪しき物の上にも優しく降り注いでいる。



 今日はChristmas’Eve。


 聖なる美しくも憎き、私の愛しい神。

 そしてその子、イエスの誕生日である。



 こんな日には暗闇で支配される地獄にも光が満ちる。

 その光は見る者、全てを魅了し、安らぎを与えているのは言うまでもないことだ。


 たった一筋ではあるのだけれど、忘れたりはしない。…忘れるはずがない。



 優しく、

 尊く、

 気高い光。




 ――私が最も、忌み嫌う光…

「…また、見上げていらしたのですか…?」



 凛とした声が静かに響く。

 今日の地獄は何と静かで穏やかな空気が流れていることであろうか…

 これもクリスマスのせいか。私の気持ちがさざ波のように揺れるせいなのか。



 …それは誰にもわからない。




「……グレダか」



 グレダは寂しげに私を見ていた。私の青白い肌に流れるような金の髪の毛はこの地獄にはとても似つかわしい。

 私は冷たい地面に腰を下ろした。ひんやりと冷たさと悲しさが伝わった。



「もう、あの天には戻ることは出来ないのですよ…ルシファー様…いえ、



サタン様」




 そう…私はこの地獄を統べる魔王―サタン―だ。

 まだこの世が暗闇に覆われていた

 気が遠くなる程の遠い遙か昔。

 私は神に反する軍団を率いて戦った。



 ――愛する神を私に、もう一度振り向かせるために…。



 そして、戦った末に天から稲妻のように落とされ地に墜ちた。

 天から地へと私が堕ちた時、地はひび割れて地獄となる。

 この世界は天と比べることなど出来ないくらいに暗闇に満ちていた…。 私は、地に墜ちた天使として地獄の悪魔達をまとめたのだ。



 ―我は堕天使【神に背いた者】なり―…


 今日はChristmas Eve。

 こんな日には思い出す…



 天使として神から愛された私を。

 もう戻れない天界を。

 幸せだったあの日々を…。

 



 ――まだそれは私が天使であった頃の話。

 神は森羅万象すべての物を創造した…もちろん天使も大勢生まれた。



 その頃は私は神から一番愛され、一番美しく光り輝く者―ルシフェル―と呼ばれていた。

 ルシファーと呼ばれるようになったのは、地に墜ちてからで


“神の仲間”


と言う意味の「エル」と付くのを嫌がる天界の者達が呼び出してから私はルシファー、堕天使となる。


 この頃の名はまだ、ルシフェル。皆から愛され、敬われ、暁のように美しいと言われていた。

 私は幸せだった…。



 大好きな神。

 優しい仲間たち。

 美しい天界…



 そんな日々がずっと続くと信じていた。




 ――その中で、神の最も最高傑作。我が憎き、人間が誕生した…。



 人間は天使の姿を模倣して作られていた。

 私たちとは違い、強い力や白い翼はつけられていなかった。




 私たち天使は炎から生み出され、人間は土塊から創造された。



 人間は天使ほどの権威もなければ力もない。




 弱く、

 狡賢く、

 卑しい存在。




「…あぁ、なんと可愛らしい人間…」




 何故だ…

 何故私を見てくれぬのですか…神よ?



 神は…人間に天使以上の愛情を注いだのだ。




「ルシフェルよ、



人間とはなんと可愛らしく、

弱き生き物なのだろうな…」



 人間が誕生してからは、

 いつも、あなたが言うのは人間の事ばかり。



 人間なんぞ、自分達より下賤な存在であるのに…!



 私はルシフェル。

 神と同等の力を持つ者。

 美しい金星を背に持つ。




 光り輝く、

 最も美しい天使。





 人間が生まれる前までは…



 その優しい微笑みも、 暖かな眼差しも

 私を抱きしめてくれる大きな手も…



 全て…っ…





 全てが私のものだったのにっ…!!



 私は神から寵愛を受ける人間に怒りを覚えた。

 そして、神に誰よりも強い愛情を抱いていた私は…




 その怒りを嫉妬心に変えた。

 また私の嫉妬心は神への怒りにも変えたのだ―…


.


「なぜ…ルシフェルが…!!」



 あの時の神の顔は一生忘れられないだろう…。

 私は同志である他の天使と共に神に挑んだ。神に向けて反旗を翻した。



 …神よ、

 どうか私をもう一度見て下さい。



 私の愛しい神よ。

 私の全てをかけて…愛していたのです…。



 ――我を見失い、大勢の仲間達の血を浴びてさえも


 …狂おしいほど、あなたを愛していた…




 あなたが美しいと誉めてくれた私の真っ白だった、翼は…赤い血がベッタリとついてどす黒い赤に染まってしまっていた。



 もう、二度とあなたが私を誉めてくれることもない。

 私を愛してくれることもない。

 私を見つめて微笑んでくれることもない。



 私に与えられたのはあなたの蔑んだ、冷ややかで悲しげな眼差しだった…。



「…神よ…」




 あなたは私に背を向けた。そして、一瞬にして光が遠ざかって行く。




「…神よ…ッ!

待って下さい…!




待ってっ……!」




 次に目覚めた時。

 辺りは孤独・暗闇…そして絶望が世界を包んでいた。まさに地獄。



 遥か彼方を見上げれば、美しく輝く暁の星。たった一つ、私を照らしてくれる天の光。



 私は空を見つめ、

 神を思い、

 折れて鮮やかな血に染まった私の翼を背に、暗闇に消えた…


 それはルシフェルだった頃の私との決別。

 堕天使―ルシファーの誕生だった。


その後、地へ墜ちた私は神の愛する人間を陥れるようになった。




「…神よ」



 私達が愛し合ったのも、こんなクリスマスのような真っ白い雪が降り続けていたな…。



 もし、私が神に反旗を翻さずに今でも天にいたのならば―…



 …まだ、神は私を愛してくれていただろうか?



「…ふっ…」



 私は思わず嘲笑う。


 そんなことはあるはずがない。神は人間を天使以上に愛していた…

 私など初めからいなかったかのように。




「……我はサタン、地獄を統べる者なり」




 愛されて美しかった天使だった頃のルシフェルも

 神との戦いに敗れ孤独を生きた堕天使だった頃のルシファーも



 もう、ここにはいない。



 ここに居るのは人間を憎むサタン。

 人間の堕ちぶる姿を好む魔王だ。




 いつの日にか、必ず神を私の元に跪かせてやる。



 欲しいものは全て、奪えばいい。



 神も、

 神の座も

 この世の何もかも…。


 もう一度、私に振り向かせてやる。

 この世は狂気と絶望の世界へと変わるだろう。

 再びあなたの手を取り、憎き人間は全て滅ぶ。



 自分の愚かさに身を悶えて体を爪で引っかき血を流せばよい。


 お互いを殺しあえ。

 悲しみに血の涙を流し泣き狂え。

 怒りに心を奪われ人の物を奪え。

 憎しみに心を震わせろ。

 己の強欲さを死を以て償え。



 そして、永遠を望みながら孤独の中で絶望に死ぬのだ…。



 人間は死んでから自分のしてきた行いの重さを思い知る。



なんと愚かな生き物。



 せいぜい、この雪のように溶けてしまう幸せなクリスマスを…楽しむがよい。



 これからは…



さぁ行け。

 我が(しもべ)達よ。



 恐怖のクリスマスを

 …血塗られたクリスマスを始めようぞ。



 口から血を…

 私の口のように、真っ赤な血をお前たちに与えよう。


 そして、あなたを思い、あなたの愛した人間の血で染まった薔薇をあげましょう?



 赤薔薇の花言葉は



“あなたを愛してます”



 ―Bloody


 Merry' Christmas!―




“あしたの子、明星よ、



いかにして天より落ちしや。



もろもろの国を倒しし者よ、



いかにして切られて



地に倒れしや。”





(イザヤ 14:12)


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