第9話「ブラッド・コード脱走」
「何これうっま」
時刻は12時半をまわり、昼食タイムだ。
「暗殺は非常に儲かるので、貴重な食材が手に入りやすいんですよ。
私たちが暗殺して金目の物を盗み、組織に預ける。
その金は組織で使い、結局私たちが得する、という感じです」
隣に座っているチョコが、口を押さえて説明する。
「へぇ」
「ただいまー」
ドアが開く。
帰ってきたのは、シャロだ。
しかし、暗殺指令は出てないのに、何故か彼女は青い帽子(キャスケット帽)を被っている。
部屋の4人は、これが気になった。
一同が『おかえり』と言う前に、シャロが説明。
「私たちは、組織を裏切り、脱走する。
ベリィは今、外で待っている」
……………………?
シャロが何を言っているのか、4人は理解出来なかった。
「……私たちに着いてくるものは、手を挙げなさい」
「えぇ!! 待って!!! どゆこと!!?」
ヴィブが叫ぶ。
空気の読めない子供だが、そんな者こそ、こう言った場で役に立つ。
「そのまんまよ」
「藪から棒に何だよ!!
そもそも、召喚術式で連れ戻され……」
「召喚術式は破壊した。
館長が死亡してたから、鍵を奪って召喚室に入れたわ」
「あ、館長殺したの俺っス。
いやぁ、こんなに早くバレるとは……」
後ろのチョコ、レリィフを置いて、異常な会話を続ける。
「俺、コイツらと脱走するから。
コイツらと脱走するから。
大事なことだから2回言った」
「待って、犯人あんただったの!!?」
「マジかよ」
「えぇ……」
「……」
シャロ、チョコ、ヴィブが反応に困っている。
しかしヴィブは、
「私も行くよ……!!
この兄ちゃんが居れば、何とかなりそうな気がするぜ」
まず、秀人とヴィブが手を挙げた。
「参加します」
「ちょ、レリィ……?」
「私もここを出たいです……」
レリィが便乗。
残るはチョコだけだ。
「私ぃ……、あなた達について行った方ががいいと思いますか?」
「自由よ」
チョコが迷っている。
無理はない。
『一人残るのは嫌だ』『裏切って結局殺されるのは嫌だ』
重大な選択を迫られている。
……一人で残ったら、どんな生活になるかな。
他4人、いや今は5人か……。
この5人への指令を、私一人でやるのか……。
ごまかし続けて。
忙しい。それよりも寂しいよなぁ。
でも脱走したら、殺されるかもしれない。
いや、かなりの確率で死ぬ。
また、この人たちの脱走の覚悟は、止められそうにない。
いやしかし……、殺して遊んで食べて寝るだけの生活に、私は満足していたか?
脱走すれば、私は『自由』になれる。
確かに『自由』になってから、すぐ殺されるかもしれない。
でも、このまま一生『自由』を味わえないまま生涯を送るのは……。
「……参加します」
手を挙げた。
挙げられた。
「全員参加ね……。
まさか全員とは思わなかったわ」
こうして5人の暗殺者と1人の高校生は、ブラッド・コード第66館を旅立った。
薄暗い店だ。
木造のこの居酒屋は、たった数人の女性が切り盛りしている。
値段は高く、客は少ない。
だが、その値段に恥じぬ程の絶品を揃える、知る人ぞ知る老舗でもある。
今、その入口が開いた。
そして、2人の女性が無愛想に、尚且つ温かさを込め、
「「いらっしゃいま…………っっっ!?」」
…………いきなり殴られた。
「残念だったわね…………。私たちは客ではない」
「あんっ……たた……っち……何…………を………………」
5人の若い女の子が、倒れた自分らを蹴ってくる。
入口の方で、男の子が1人ドン引きしているが、あれは関係者か?
などと考える間もなく、腹、首、顔を容赦なく蹴られる。
そのうちに、2人は気絶した。
「ありえねえ…………。暗殺者こわい…………」
秀人は終始引いていた。
「このセキュリティのガバガバさには、流石に呆れたわ。
皮膚魔術使わずに窃盗なんて初めて。
んまそれに比例して、金も少ないけど」
シャロがレジを漁る。
「リーダー、どんくらいでしたかー?」
「うーん、50銀貨くらいかな?」
50銀貨は、日本円で約25万円だ。
「よし、これで鉄道代は十分間に合うわ」
「シャロ、その鉄道とやらは、こっから何分くらいだ?」
秀人が聞く。
「徒歩で3時間」
「遠いな。乗ってどこに行くんだ?」
「『ハードラ駅』まで乗って、それで解散。
それぞれの家へ帰る。
……って、あなたこの世界の人間じゃないじゃん! どうしよう」
「え、いつでも元の世界に帰れるんじゃないのか?」
「えぇ……、そんな術式作れっかなぁ……。
どうしても戻りたいなら、私と同じ街に住みなさい」
「戻りたいに決まってんだろ!!」
とは言いつつも、秀人は旅行をしている気分になっていた。
ヨーロッパ風の街並み。
石畳の地面。
当然車は走っておらず、空気が新鮮。
人はあまり多くない。
さっきシャロから聞いたが、戦争はここ300年程やってないらしい。
だが、これから小さな小さな戦争が始まる。
秀人たちは流石にまだ、そのことを予想できていない。