第7話「館長は蛇親子Ⅰ」
吸血蛇は、人間の血を吸って生きる。
魔術が生み出した、いわゆる『魔物』。
見た目は通常の蛇と同じく、緑色。
動作はウサギのように素早く、飼い主への忠誠心も高いので、非皮膚魔術師が暗殺に用いることもしばしば。
そいつが今、ベリィの目の前にいる……!
それも透明で。
「『群青の薔薇』!!」
ポケットに持っていた草を出し、木粉に変え、バラ撒く。
辺り一面が霧のように曇る。
吸血蛇……、透明は透明でも、質量、形はある。
れっきとした『物体』だ。
木粉を押しのけて動いているはず。
ベリィが、粉が晴れている場所を見つける……。
「そこだああああああああああ!!!」
青い薔薇を打ちまくる。
だが、十数本にも及ぶ攻撃は外れ、床のレンガに突き刺さる。
「は、速い……」
位置がわかるとはいえ、結構見えにくい。
しかし、吸血蛇が近づいているのが、はっきりと見える。
まずい。
噛みつかれたら、ほぼ勝ち目はない……!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
打つ。打つ。打つ。打つ。
「ちょっとベリィ!! 大丈夫なの!!?」
「黙っていてくれ!!」
突然、何を考えてか、ベリィは薔薇を天井へ打った。
……吸血蛇は、飼い主を噛んだりはしないが、あまり知能は高くない。
天井へ打った薔薇は跳ね返り……、
吸血蛇の右目に、ガッツリ刺さった。
「よおおおおおおおし!!」
吸血蛇は片目をやられた。
……しかし、それでもベリィの方向へ向かってくる!!
「っ!!? なん…………!!」
吸血蛇は片目に薔薇が刺さったまま、ベリィのふくらはぎを嚙んだ。
血の吸われた血管が、皮膚の上からくっきり見える。
血を通じて体力を奪われ、能力が使いづらい。
「しまった……この根性は想定外!!」
吸血蛇に吸われれば、約3分で血液欠乏により、死に至る。
蛇を無理やり引っぺがそうとすれば、肉ごとちぎれる。
そしてその吸血蛇は今、ベリィの体に。
……だが、ベリィは余裕そうに、
「でもねぇ、今打ってた薔薇は……、」
蛇の吸血力が、次第に弱まっている。
「その薔薇は、毒入りだ」
蛇は、吸血をやめた。
そして、毒死した。
「はぁ……、危なかったぜ」
「大丈夫?」
「ああ、体力は回復してるし、出血量もほんの少々だ」
ドア越しに会話をする。
ベリィは透明の蛇の死体を横に、ドアへへたり込んでいる。
「でも、『透明』にする皮膚魔術師本人が、ここに向かってるかもしれないわ」
「そうだな。ところで術式破壊は終わったか?」
「全然まだよ。まだ30秒しか経ってないじゃん」
「マジで!? あれ30秒だったのか!!?」
「だから気を付けて。
敵が来ても、あなた一人で倒さなくてはならない」
「そうか……、って、噂をすれば、今度は人間の気配がするぞ!!」
「がんば」
木粉はまだ舞っているので、透明の何かが来ても、すぐ気づくはず。
と突然、吸血蛇が透明から戻った。
「これは……、」
そして、カツ、カツ、とごく小さな足音が聞こえてくる。
現れたのは、中学生くらいの女の子だった。
黒髪ポニーテール。
胸にさらしを巻き、そこにそのままスーツを着、前を開けている。
スカートも短く、露出が多い。
「お前……」
「やぁ、ウチのタマを、随分と可愛がってくれたそうじゃないか」
タマとは、この吸血蛇の名前のことのようだ。
「……お前、誰だ」
「私はキャッツァ。館長の娘だ」
「……!!?」
「父さんが全然術話に出てくれないので、来てみた。
しかし彼は、驚くべきことに死んでたんだ。
誰が父さんを殺したかは分からないが、ベリィ、そして部屋の中のシャロ。
貴様らの会話の一部始終は聞かせていただいたぞ。
というワケで殺す」
「……」
「あと、私に毒は効かない。
私が小さい頃から、父さんは蛇が好きでな。毒蛇も飼っていた。
だから免疫がついてる。
よって、お前の一番の武器である、毒は使えない」
「……なるほどね、結構手こずりそうかなぁ?」
ベリィはまず、コイツについて整理する。
コイツの皮膚魔術は、『透明』になることだ。
『透明』になった時点で触れていたモノは、彼女と共に消える。
さっきはその特徴を使い、蛇を消した。
よって、衣服だけが見えたりとかは、しない。
また、彼女は毒で死なないらしい。
これはかなり不利になる。
「行くぞ。『透過』」
透明になった。
だが、木粉がまだ舞っており、彼女の動きがはっきりと見える。
「吸血蛇よりも動きが緩慢だぞ!! キャッツァ!!」
「さあ、どうかね」
「おお!!?」
何故か、キャッツァが松明に向かって走る。
彼女の手のひらには、消化術式の紋章がかいてある。
つまり、
「み、見えねぇ!」
そう、大きな光源である松明を消されると、かなり暗くなる。
遠くの松明の光はあるが、この暗さでは、木粉戦法が非常にやりにくい……!
「!!」
いつの間にか後ろに回り込まれている。
「ぐふァァァあ!!」
そしてベリィの左脇腹を、思い切り蹴られる!!
まずい。
どこの方向に薔薇を打てば良いのかわからない。
松明のあるところに逃げたとて、脇腹の痛みですぐ追い付かれる。
まさに手も足も出ない。
だが今、確かに脇腹を蹴られた。
ということは……。
「そこだァァァァ!!!」
「ぐっ! 貴様こんな身体能力が……!!」
掴んだ。
今、キャッツァの髪を掴んでいる!!
勝利の希望が見えてきた。