第3話「チートvsチートI」
館長の部屋の前。
「じゃあ、私帰るから」
「えっ?」
お前もついてくるんじゃないのか。
と質問する前に、シャーロットは説明する。
「館長には、滅多なことでは会えないの。私もここに連れてこられた日以来、館長の顔を見てないわ。
だから、あなたは一人で契約をする」
「そうか……」
「じゃ、また」
シャーロットがつかつかと帰っていった。
後ろ姿は、長い長い白髪ロングに隠されている。
部屋をノックする。
「名乗れ」
「『伊出秀人』って者です。さっきシャーロットに異次元から召喚されました」
「入れ」
室内へ入る。
館長が机についていた。
その姿を見て、少したじろいだ。
全身に包帯が巻かれているのである。
顔も、目元以外が包帯に隠されており、年齢が把握出来ない。
「ンン? 珍しい格好だな」
「ああ、ジャージっすか?」
「契約後はスーツを着てもらうぞ。スーツ代はこちらで負担する」
「あ、はい」
「改めて、鮮血の術式、ブラッド・コードへようこそ。
さあ、早速契約といくか。大体のことは、あの娘から聞いてるだろう……」
館長が、魔方陣らしきものが描かれた箱を差し出す。
「ここに手をかざしてくれ。それで契約は終了だ」
「あの~、この組織に入りたくない人はどうすればいいでしょーか」
「それは出来ない。強制的に入ってもらうからな」
「そんなん契約とは言わねえ!」
差し出された箱を、左手で振り払った。
ベコン! とレンガの壁にあたる。
「おい! 『今すぐ』撤回しろ! 『今すぐ』なら許してやるぞ!!!」
「……俺は今から、お前を暗殺する」
「そうか……。シャーロットのやつは『すごい皮膚魔術師を召喚する』と張り切っていたらしいが……。
優秀な人材を処刑せねばならぬとは、私は気が重い」
「おぉ、流石は館長。自分の勝利を微塵も疑っていない……」
館長が、机から二本の短剣を取り出し、机の前に出、上半身の包帯を脱ぐ。
筋肉質の肉体が露になる。
だが、こだわりでもあるのか、顔の包帯は外さない。
そして短剣のうち一本を秀人の方へ投げ、それはレンガの床に落下。
「私の皮膚魔術は、刃物がないと発動しない……。
また処刑とは言えど、一方的に剣で倒すのは私の性に合わぬ。
よって貴様にこれを渡す」
「いいのか? お前はまだ、俺の皮膚魔術を知らない。俺もお前の皮膚魔術を知らんけど」
「私は組織のボスに選ばれし、名誉ある館長だ!!
現にこの15年間、何百人に及ぶ愚か者を処刑してきた!!
ましてや能力実用未経験の貴様に、勝ち目など存在せぬのだ!!!」
館長が怒鳴る。
威圧感は半端ではないが、秀人は依然、冷静さを保っている。
「んじゃあ、俺の方から行かせてもらうぜぇ!! 『時間停止』!!」
時が止まる。
館長に詰め寄る。
「なるほど、『時間停止時に触れていたモノ』は動かせるってか。
だから『衣服』も動く」
その動かせる短刀を振り回し、館長の肉体を斬りまくる。
「うおおおおおおおおお!!! 『時間制限』!!!!」
一応、館長の体から離れておく。
今やった攻撃を見る限りでは、館長の致命傷は間違いなさそうだが。
そして時間は再始動。
「なっ……!!? これは……」
館長の体のあちこちから、血が噴射。
「ぬおっっっ!!??」
「ふぅ…………」
「……なんてね」
「!!?」
瞬間、バンッッッ!! という音と共に、『何か』が起こった。
『何』が起こったのか、秀人が理解するには、少し時間がかかった。
「ほぉ~う……、時間系統の能力ねぇ……」
まず、館長が悠々と何か言っている。
ピンピンしている。
次に、今の『何か』の影響なのか、何故かレンガの一部が崩れている。
「館長……、お前の『傷』は……」
そして、館長はさっきまで、急所をガンガン斬られていたはずなのに、その『傷』が塞がっているのだ。
いいや、塞がっているのではない。
「…………っだあああああああああああ!!!」
叫んだのは秀人だ。
自分の腹の辺りが、横一直線にパックリ割れていることに、やっと気づいた。
痛みが脳に到達した。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
鮮血がジャージに広がってゆく。
一応急所は外れているが、薔薇の棘の件など、比にならない程の痛みだ。
そんな中、秀人の頭の中で全てが繋がった。
「はぁ……はぁ……館長……、お前は、『傷』を操作する皮膚魔術師……!!
自分が受けた『傷』を弾丸のようにフッ飛ばす。
殴られても、『衝撃』となって跳ね返ってくる。
アザが1つ残らず消え去っている……。
今俺が負った『傷』は、お前がフッ飛ばした『傷』……。
俺がお前に負わせた『傷』だ……!!」
「ほう、素晴らしい理解力だ。
いや、君は実に優秀な人材だよ。
まあ、殺すがね。
そしてどうよ、私の能力は!!
これこそ、ボスに認められた皮膚魔術!!
貴様が時を操ろうと、私には関係ない!!」
血まみれのくせして無傷な腹を、館長が自分で斬った……!!
まずい。
また傷が飛んでくる。
「ぐっ……!!」
今度は肩に当たった。
新たな血の水源が追加される。
またまた館長が、自分の腹を斬ろうとしている。
だが、やられる前に、何とかやらねば……!!
「『時間停止』ィィィィ!!!」
「いーや無駄だねっっ!!
何度時を止めようとも!!!」
「やってみなけりゃぁ!! 分からんだろが!!!」
「分からんだろが!!!」の叫びは、館長には聞こえなかった。
叫ぶ前に時が止まった。