第2話「66館23班」
「『着替え中』の文字があああっっ! 読めんのかアアアアア!!!!」
「痛アアアアア!!!!」
最初の方の奇声の主が、ドアを凄い勢いで閉めた。
秀人の手の甲に、青い薔薇の棘が突き刺さっている。
血も出ている。
「いや読めねえし……」
「ゴメン翻訳術式通すの忘れてた」
秀人が手の甲のモノをみて言う。
「青い薔薇……? これがあの人の能力か?」
「バレちゃったか。
そう、彼女は『植物』の種類を替えることが出来る。
種類が変わった瞬間の形の変化を利用して、高速で吹き飛ばすことも可能。
青い薔薇みたいな、世界に存在しない種類も作れるわ。
首を絞めたり、毒を撒いたり、応用範囲が広い」
手から、その薔薇を引っこ抜く。
出血の勢いが増す。
「へぇ。あとこの23班とやらは、全員女性なのか?」
「そうよ。昔男の子が二人いたんだけどね」
「その人達はどうなったんだ? まさか逃げ出したとか」
「いや、ここから逃げ出すことは不可能。
暗殺以外で外出すると、召喚術式で連れ戻されて、即死刑だわ。
男の子二人は綿密な脱出作戦を練ってたらしいけど、見事に失敗して死んだの」
「そ、そうなのか……」
悪いことを聞いた気分だ。
もっとも彼女本人は、あまり気にしていない素振りだが。
「さっき言ったけど、班員に挨拶したら館長の部屋行くから」
「おう」
「あと自己紹介忘れてた。私の名前はシャーロット・コロネ。17歳。23班のリーダー」
「お、俺は伊出秀人。同じく17歳。イデが苗字で、シュートが名前。よろしく」
同い年であったことへの驚きを隠す秀人。
ドアが開いた。
さっきの薔薇の人が開けていた。
「入って良いぞ……」
「はい、じゃあ……って痛い!」
さっき棘が刺さったとこをつねられた。
止まっていた出血が再起動する。
「あんなことがあって、その態度か……」
「ああああアアアアごめんなさいごめんなさい痛い痛い!!」
手を放される。部屋にあがる。
円テーブルが部屋の真ん中にあり、チェス等のボードゲームが置いてある。
部屋の隅にはタンス。
先程の4人の女の子が、テーブルの椅子に座っている。
「私はブルーベリィ・ムーン。男は嫌いだがよろしく。年齢は覚えていない」
薔薇の人だ。
ショートの青髪はボサボサで、凶暴性が強調されている。
笑顔を作れば、優しそうな姉さんに見えるかも。
身長は165くらい。胸もでかい。
「チョコラテ・イングリス。16歳。お願いしまー」
今度は能天気っぽい人。
裸を見られたことも、全く気にしていない感じ。
頭部の右半分が茶髪で、左半分が白髪という、よく分からない構造をツインテでまとめている。
背は155程。胸は普通。
「レリィフ・ゼルです。14です。よろしくお願いします……」
見るからに無表情キャラだ。
銀髪ショートに赤リボン付きカチューシャ。
身長150いっていないくらい。胸小さい。
「ヴィブラータ・クレッシェン! 12歳! おっぱいおっきいよ! よろしくっっ!!」
最後の一人だ。
これではおそらく怒っていないだろう。
金髪ロング。
背丈はレリィフ同様150以下だが、意外にも、胸はかなり膨らんでいる。
「こいつはイデシュート。彼にはさっき自己紹介しといたわ」
シャーロットに自分の出番を横取りされるシュート。
「お、お願いします……」
だが、ブルーベリィ以外に危険人物は居ない模様。
少し安堵する。
「じゃあ早速行くわよ、シュート」
「あ、ちょっと待ってくれ」
班員達の間をすり抜け、テーブルのチェスに手を差しのべる。
「ちょっと触っていいかな?」
「いいよ」
答えたのは、金髪ロング12歳の、ヴィブラータだ。
チェスの駒を手にとり、落っことした。
「時間停止」
止まった。
落っこちる途中のチェス駒が、宙に浮いている。
「『時を止める』の意味を、具体的に調べる必要があるからな」
駒をこつん、と上から叩いてみる。
動かない。
ガンガンガンガン。
今度は思いきり踏みつける。
動かない。
「期待してたけど、思ったほど強い能力じゃなさそうだ……。時間再始動」
動き出した。
チェス駒も、普通に床へ落ち……ではなく、パアアアアアン!!!
……破裂音と共に、レンガへ突き刺さった。
「「……」」
秀人以外の一同が、唖然としている。
「……つ、つまり、これはこうだ。
時が止まっている間、一切のモノは動かない。
ただし、時間停止中、俺がモノに与えたエネルギーは保存され、時が再始動した瞬間、一気に放出される。
相手への攻撃を、一度に出来る。……って感じか」
秀人は一人で納得し、
「行こっか」
「う、うん」
シャーロットを連れ館長の部屋へ行った。