第1話「召喚」
伊出秀人は、眠りから覚めた。
見たこともない部屋で。
(そうそう、本屋で立ち読みしてたら突然ブッ倒れて……)
目が覚めた瞬間、レンガ作りの屋内に放置されていた、というわけだ。
まず、状況を確認せねば……。
壁、床、天井全体が、全てレンガで敷き詰められている。
自分は仰向けに寝ており、足下に火があるだけで、薄暗い。
ドアはあるが、窓はない。
「……」
その時、ドアが空いた。
少しビビった。
入ってきたのは、身長150cm前後の小柄な少女だった。
黒スーツに短いスカート、白髪ロング。
そしてこう言う。
「えーっと……生きてる?」
「はい……?」
「よしよし、生きてるわね。この術式はちょっと危険だったから……」
「これは異世界召喚か何かか?」
「勘が良いわね」
召喚前まで異世界モノ読んでいたので、状況の飲み込みが速い。
「行くわよ。説明は歩きながら」
「お、おう」
部屋を出、レンガ張りの廊下を進む。
規則的に松明が壁にかかっている。
「まず、ここは暗殺組織『ブラッド・コード』のアジト。
もうアンタは、暗殺以外の目的で外には出られない」
「……は?」
状況の飲み込みが速くても、これは流石に受け入れられなかった。
「『異次元』から皮膚魔術師を召喚する術式を作ったら、上が使え使えうるさくって……」
「ちょっと待ってくれ……。まずそのナントカ魔術師ってのは何だ」
「……知らないの? アンタの世界では魔術ないの?」
「ああ」
「不便すぎない? それ」
「まあ、頭良い人達がいろいろ工夫したからな……」
「『魔法』ってのは、『術式』の流れてるところに発生するの。
『術式』は、『魔方陣』を張ったり、『呪文』を詠唱したりすれば流れる。
皮膚魔術師は、体内に『術式』が流れてる人。
彼らは極めて強力な『魔法』を発生させるけど、『術式』の解析は不可能なの。
だから、一般人が皮膚魔術師を倒すことは、原則ありえない」
「分かったような分からないような……。
んでその皮膚魔術師を召喚しようとしたら、俺が出てきた訳か」
「そうよ」
「じゃあ何かの間違いだ。
そもそもそんな奴元の世界にいないし、ましてや俺に魔術なんて使えない。
さあ早くあの世界に帰らせ……ぐふぉっ!?」
突然変な液体を飲まされた。
「ゲホッゲホ……何これ」
「皮膚魔術活性剤」
数10ccの空の瓶を、無い胸にあるポケットにしまう。
「えっとつまり……俺は今、魔術が使えるってことか?」
「そう」
「えぇ……」
さっきまでの寝ボケは消え、次第に状況について行けなくなる。
さらに少女は説明を続ける。
「じゃあ心の中で『魔法よ、発動しろ』って念じてみて」
「魔法よ、発動し……」
……発動した。
少女の歩みが止まった。
松明の炎の揺れが止まった。
そう、『時間』が止まったのだ。
「えっと、これは……」
数秒後、少女と松明の動きが再始動。
当然、秀人は困惑した。
……俺は今、ヤバい経験をしている。
俺は今、慌てふためくべきなんだ。
しかしここで慌てれば、後の俺の異世界ライフに支障をきたすことになるかも。
とりあえず冷静を装おう……。
「何やってんの、速く使いなさいよ」
「いいや、もう使った。俺の能力も分かったよ……」
「?」
「俺の皮膚魔術は、『時間』を止めることだ。今、『時間』が止まってた」
「ホント!? それすごい強いじゃん!」
「そ、そうだな。そう言えばお前の能力って何だ?」
「それはまだ言えない。
ここの館長と契約をしてから、私たちの班の新入りになって、初めて能力を明かすことが出来る」
小さなドアの前についた。
ドアには、木の板が掛かっている。
木の板には、地球には存在しない文字列が並んでいる。
「ここが私たちの班のミーティングルームよ。66館第23班」
「おお」
秀人がドアノブをひねった。
「あ、ちょっと……」
少女が何かを言いかけた。
だが、遅かった。
「お邪魔しまー……!!?」
「あ……」
部屋の中は、4人の女の子が着替え中だった。