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サリーナ・マハリン  作者: なのるほどのものではありません
第2章:約束
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9, アルブの女

 一ヶ月たった。フェレスとの約束の日まであとすこし。

 結構早くに約束の場所についてしまったな。


「ブロイニュか……。」


 呟く。魔女の町だ。

 本当かどうか知らないが、魔女と武民はあんまり仲がいい方じゃない。


 のんびりと風を感じて空を見る事が好きだった。ブロイニュは豊かな丘陵地だ。町からすこし外れれば青が拡がっている。森もたくさんある。その森の奥に魔女たちの小さな集落がいくつかあるらしい。


 若葉の香りを嗅ぎながら口笛をふいた。有名な戯曲の一曲だ。悲劇の一曲だ。

 悲しい物なんて嫌いだった。たくさんの美しい、楽しいもので世界が溢れればいい。なぜ皆がそれを望まないのかわからない。なぜ絶望が生まれるのか分からない。こんなに世界は美しいのに。広いのに。


「……アングランドファウストの護衛だな。」

「え?」


 振り向くと、ずいぶんと厳つい男がたっていた。

 そして、その姿を認識した瞬間に刃が振り下ろされた。大きな鉞だ。瞬発的によける。剣をすらりと抜く。この剣を抜く音が好きだった。抜いた瞬間に身体に走る緊張も。


「誰だ!」

「大人しく地獄へ落ちろ。」

「やなこった。」


 男はもう一度巨大な鉞を振り上げて、私を狙って一撃を振り落とす。

 飛んで交わす。

 すごい椀力だな。感心する。こんな大きなエモノで、これだけ自由に戦える。それはすごいことだ。


 剣を握る。汗が滲む。だけど体をこそばゆくさせるす何かの快感が確かにあった。

 戦う事が好きだ。アルブの好戦的な血が騒ぐのだ。心底、私はアルブの女だなと思う。

 腕を振る。鋼がぶつかり合う音がする。重い。相手のエモノの重量感が伝わる。


「何を笑う。」

「あ、悪い悪い。」


 おっと。また勝手に顔が笑ってたらしい。

 戦っているといつもこうだ。なにも自分に余裕があるわけじゃない。自分はまだまだ未熟だ。分かってる。12歳の発達段階の筋肉の弱さも、小さな体躯も、大人の武民には敵いやしない。だけど、心音が高鳴るのだ。剣を持つと。戦うと。


 死と向かいあって楽しむのは変態くらいだ。そういう理屈があるのなら、私はその変態の一人だろう。


 ドゴっ!と、左足のかかとが相手の顔面に入る。相手はうめく。その隙は逃がさない。剣を振り回す。


「!」


 ずばっと肉を切った。相手は叫んでいた。血が軽く吹きかかる。

「うぅ!」

 足を止める。体を止める。相手を見る。私の息は上がっていた。

「で?」

 問う。

「何の用?」

 男はこちらを睨む。激痛でゆがんだ顔だ。


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