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サリーナ・マハリン  作者: なのるほどのものではありません
第1章:闘う民と笑わない貴族
6/32

6, 地図

「え?」

 帰ろうとして、聞き返す。


「ここに泊まっていけばいい。部屋なら用意させる。」

「……あ、いや、いいよ。」

 断った。

「宿を取ったのか?」

「ううん。でも大丈夫。」

「今から探すのか?遅いだろう。」

「野宿するから。いいよ。そんなにお金がないんだ。」

「だったらここに泊まればいいじゃないか。」

 首を振る。

「それじゃ修行にならないから。」

「……そうか。」

「ありがとうフェレス。お前、優しいな。」

「明日どこかへ発つのか?」

「うーん。考え中だよ。寝ながら考える。」

「もし。」

「うん?」

「もし時間があるなら明日もう一度学舎へきたらいい。」

「……塀から?」

「正面から。話は付けておくから。」

「なんで?」

「見せたいものがある。」

「そいつは楽しみだなっ。」

 そして私はその大きなお屋敷を後にした。



 翌日、学舎へ行くとフェレスが門の所で待っていた。


「着て。」

 上着を手渡される。

「なんだこれ?」

「もう少しましな格好をしないと、目を引くから。それじゃ。」

「……これじゃ、ダメなのか?」

 自分の服を指差す。

「ダメなわけじゃないけど、目立つ。」

「じゃあこれでいいよ。」

「……じゃあせめて、剣。剣だけは預けて。」

「あぁ、ここ武装してたら入れないんだ?」

「そんなところだ。」


 フェレスの後について歩く。フェレスの綺麗な色の髪を見つめて歩く。さらさらだ。ふふっと笑った。


「で?見せたい物ってなに?」

「これ。」

 とある部屋に着いてフェレスは言った。


 その部屋には中央に見たこともない大きな球体が置かれてあって、壁中ぎっしりと大きな紙がいくつも硝子のケースの中に展示されていた。そして部屋の一番奥に一番大きな紙が貼ってあった。


「なにこれ。」

「今の所、最も精密な地図だよ。」

「へぇー……!」

 地図。確かに。その紙には何かの図形が書いてあった。

「……これ、私たちの国か?」

「そう。」

 指をさす。

「これが、アルブ。」

「……アルブ。結構大きいんだな。」

「そうだな。それからここが、サリーナ・マハリン。」

「うんうん。」

「お前の家は?」

 フェレスはくるりとこっちを見て問う。

「えぇ……?」

 じっと地図を見る。全く想像がつかない。

「ピティは?どこ?」

「ここ。ここがアルブの町。」

「えーっと。アルブから、西に行って……。」

 ぶつぶつ頭の中で必死に道を思い描く。

「ここらへん?」

 指で刺してみる。

「……ずいぶん山の方なんだな。北だ。」

「あ、うん。私の村はすごくちっさいからさ。殆んど山のふもとだよ。」

「……へぇ。名前は?」

「バルガン。」


 思い出す。

 故郷の風を思い出す。口元が緩む。じいさんは元気でいるだろうか。母親は?


「好きなんだな。」

「え?」

「その、バルガンという村を。」

「あ、うん。すごくいい所だと自分では思ってる。」

「……いつか。」

「ん?」

「いつか行ってみたい。」

 私の顔はほころんだ。

「もちろん。いつでも来てくれ。目玉焼き、作ってやるぞ。」


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