2, 12歳
「アングランドファウスト?」
聞き返す。
「あぁ、フェレス、あんたアングランドファウスト伯爵の息子なんだ?」
「あぁ。」
「ははっ、私貴族と話すの初めてだ。」
「……だろうね。」
フェレスは少し呆れて言った。
フェレスは出会った頃からずっとこんな調子だった。感情の起伏がなくて、気高くて近寄りがたいオーラを出しているというか。だけど、知的な目をしていて、なんでも受け入れてくれそうな、不思議な感じだった。
「じゃあさ。将来の伯爵だったりするの?」
「……あぁ。」
「へぇ。大変だねぇ。」
「大変?」
「だってそうだろ?いろいろ面倒くさいことやんないといけないし、民衆にはいつも見られてるし。」
「……お前。」
ふっとフェレスがいきなり笑った。正しくはため息交じりに息をついた。
「面白いこと言うんだな。」
「面白い?」
「民なら貴族のことを羨ましがるんだと思ってた。」
「あぁ。お金のこと?」
はは、と笑う。
「お金なんかあってもさ。多分、無駄に使うだけじゃないか。」
「……無駄?」
「だって私は生きる事ができるくらいのお金で満足だ。煌びやかなドレスなんて要らないし。食事も自分で作れる。」
「……そうか。」
「なんなら今度作ってやるぞ。私の目玉焼きはおいしいって評判なんだ。」
「……へぇ。それは何だ?」
サリーナ・マハリンには、すぐに着いた。
「此処か?」
「あぁ。」
「……へぇー。」
感心した。大きな御屋敷だ。こんな大きくて城みたいなのが、都以外にもあったんだ。
「フェレス様!」
屋敷に着くなり門番や使用人たちがフェレスを囲って無事を喜んだ。それもそのはずだ。馬車ならばとっくの昔についている時間だった。
なんだか微笑ましかった。本当に皆が安心した顔をしていたから。きっと、フェレスは慕われているんだな、と思った。
「……じゃ。」
去ろうとした時。
「スザンナ!」
彼は初めて私の名前を呼んだ。
「……なんだ?」
「お礼をしてない。」
「あぁ、見返りのことか、いいよ。あれくらい。私もこっちの方に来たかったんだ。話相手ができて楽しかった。」
私は微笑んだが、相変わらずフェレスは微笑まなかった。
「ならば……、次。」
「ん?」
「次に会った時に、なにかを贈ろう。」
「あ、本当に?そいつは嬉しい。」
今度こそ手を振って去ろうとしたら、またフェレスは私を止めた。
「スザンナ。」
「なんだよ。」
「助けてくれてありがとう。」
彼は優しい声でそう言った。だからなんだか胸がくすぐったくて、思いっきり笑って返した。
フェレスとは、これが初めての出会いだった。
確かお互いに、12の時だったと思う。