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サリーナ・マハリン  作者: なのるほどのものではありません
第2章:約束
11/32

11, 急襲

 蹴り倒した。


 馬が叫ぶ。


 これで終わりだ。


「はぁ……っはぁ……!」

 汗をぬぐった。同時に手についた血が頬についた。

「……っあー!」

 喉を伸ばし、上を向く。

 そうしていると、ガタンという音がして馬車の戸が開く。

「……終わったのか?」

「ん。」

 後ろは振り向かない。フェレスの声を背中で聞いた。

「……多かったな。」

「んー。あー!疲れた!」

 道の上にどすっと腰をおろす。

「……スザンナ。」

「何?」

 呼ばれて振り向いた。だけどすぐに、しまったと思った。

 戦いのすぐ後だから、軽率にも顔が笑ってしまっている。

 フェレスはそんな私を無表情で見下ろしていた。


 ゴクン、と唾を飲み込む。


 急襲だった。突然だった。奇襲だ。待ち伏せだ。

 随分たくさんの人間を相手に戦った。馬車を守りながら一人で戦った。戦いのさなか、ひやっとした事も何度かあった。

 気づけば誰かが自分の死角にある馬車の扉を破ろうとする。この状況で最後まで馬車が倒されなかったのはこの馬車が随分頑丈だったからだと思う。


「弟、無事か?」

「あぁ。無事だ。」


 なんとか。

 なんとかこの緩んだ笑顔をすこし元に戻さなくては。


 笑う場面じゃない。体中血まみれだ。たくさん人が倒れてる。死んでいる。つくづく自分の武民の血がいかに濃いか突きつけられる。


「よかった。」

 雑念を振り切るように立ち上がった。

「おじさんは?」

 影でうずくまるおじさんに声をかける。

「だ……大丈夫です。」

「よかった。」

 微笑む。馬車を引いていたおじさんは、うまい事影に逃げる事ができたらしく、無事だった。


「さ、行こう。フェレス。」

「あぁ。だが、その格好。」

「気にしないでくれ。大きな町に入る前には退散するから。目を引くような事しないよ。ちょっと血なまぐさいけどなっ。」

 フェレスはじっとこっちを見た。

「着て。」

 そして自分の服を差し出した。

 私は首を振った。受け取れない。そんな、絹の。

「着れないよ。」

「汗をかいている。身体が冷える。肩や腰を冷やすのはよくないぞ。女なんだろ。」

「……それなに?なんの迷信?」

「医学だ。」

 ぽいっと上等な上着が投げられ、結局受け取ってしまった。

 ゆっくりと袖を通す。

 確かに、汗で身体が随分冷えていたらしい。すごく温く感じた。


 フェレスの匂いがした。

 血の匂いじゃない、いい匂いだった。


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