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ㅤㅤ  作者: toki
【Ⅰ】
3/16

0010

it is natural for a person to want to lead an easy.

(安楽に暮らしたいと思うのがヒトの心情です)

【1(side by Yatsu)】





空は赤く染まっている時間。

男子生徒は、最近妙な視線を感じていた。

それに最近、友人たちのにべもない態度が気になる。

何か関係があるのだろうか?


「ねぇ、どうしたの?」


隣から顔を覗き込むようにして女子生徒が訪ねてくる。

どうやら。そのにべもない顔をボク自身がしていたらしい。


「い、いや……なんでもないよ」


本当になんでもない風を装う。

肝胆相照らす彼女に嘘を吐くというのは、

この男子生徒にとっても心が痛んだ。

だが、だがらこそ黙る。

無用な心配は掛けまいと。


チャイムが鳴る。


「あ、時間だね。行こうか」


話を切る為に、彼女に向かって言う。

今、彼らがいるのは、学校の駐輪場。

最終下校までもうすぐだということもある。


「うん、寄り道はするの?」


彼女が訪ねる。

いや、確認を取ってきた。

恐らくは「寄り道がしたい」の意だ。

家に帰っても所在なく、ただ面倒な課題や予習復習に埋もれることになるのは目に見えている。

勿論彼は了承した……したいが、今日はやめておこう。

臍を噛むような真似はしたくないが……

何だか気分が落ち着かない。

心に浮かぶ誘惑との葛藤を殺し、

彼女に向かって


「別にいいです」


「なんで敬語⁉ でもそっか、いいのかー。へへへ、何処に行こうか?」


あれ、おかしい。

今の5秒で予定が変わった……?

想定外である。


「あ、お金は……よし、最近バイトで貯めたし問題ないわ!」


ボクは激しく動揺する。

巻き込んでしまうか……?

最近の不穏な気配に、町の騒がしさが加わり、

男子生徒に心配だという気持ちを膨れ上がらさせた。


……彼のチキンさ、心配性の気がここで響く。


いや、大丈夫のハズだ。

流石に一人の時ぐらいしか、何かは起こらないだろう。

二人なら何かあっても……

いや、ボクが守るんだ!

でも、彼女合気道やってるそうだし……

いや、今はそこじゃない。

いや、

いやいやいや……


男子生徒の迷いとは裏腹に、彼女の声は続く。


「やっぱアイスは外せないよね。もうすぐ夏だし。あ、シュークリームもありだよ! 

それと、ドーナツなんかもいい感じ。んー迷うな~」


日はだんだんと沈む。

ボクの心もぐんぐん沈む。

ただ彼女のテンションはがんがん上がる。

因みに校門を先生が締めたことに、彼らは気づかない。


「そうそう、前みたいにラーメン屋さんへ行こうとか行ったら殴るから。って聞いてるの?」


彼女は彼の肩をたたく。

意識が現実に戻ってくる。


「あ、えっと……お願いします?」


「……え、あ、殴られたいの?」


あれ、ボク、引かれてる……?


どうやら間違った返答をしてしまったらしい。

そう気付いた時には、どうしようもない。

よくあることだ。

いや、よくあってどうする。

でもそう慰めておくとしよう!

ボクは思考に耽るあまり、事態を放置してしまっていたのだ。

たまに出る、ボクの悪癖か……

こういうときに自分の性格が悔やまれる。

チキンだし……

心配性だし……

自意識過剰とか言われるし……

さらには潔癖症とも言われる有様だ。


だが、男子生徒はここ思考を切り替えて、

咄嗟に浮かんだ打開策に出る。


「お願いします!」


取りあえず、状況は良く分からないが……

潔さは大事だろう!


という結論だ。

宥め賺すのだ。


さぁ、殴れ!

さしずめボクが、ボクのチキンソウルがいけないのだ。

覚悟は出来ている。


さぁ、

さぁ!


彼の心が伝わったのか、彼女は笑顔で


「ねぇ、なんか危ない顔してるんだけど……大丈夫?」


「大丈夫、冗談だよ。アハハ八八……」


残念、伝わっていなかったようだ。

幼馴染でも限界があるという事か。


少し冷静になろう。

実はこの状況大丈夫ではない。

頭と、現在の場面が。

当直の先生は既に帰宅されている。

ボクは頭をフル回転させたおかげか、以上の事にようやく気が付いた。


「あ、そいえば」


「ん、何? 暗いからって襲ってきたら飛ばすよ?」


いや、そうではない。

前置きしている場合では無かったか。

国語の成績は悪いんだから仕方ない。


「時間……」


「あっ……」


彼女も気が付いた。

それで、ボクたちどうやって帰ろう……?


こうして、二人は仲良く電車で帰ることになる。

仕掛けの施された彼の自転車をと、

何の仕掛けもない彼女の自転車を置いて。


もっけの幸いとはこのことだろう。

爆発すればよかったのに、とは言ってはいけない。




【2(side by teacher)】





おはようございます!

良い挨拶を飛ばし、生徒たちが校門を抜けていく。


「おはよう!」


無論、私も大きな声で挨拶だ。

長い体育教員歴で、一度もしょぼくれた挨拶を返したことは無い。

それが、この教師の自慢だ。


「おはよう!」


繰り返し、腹から声を出す。

教師には、夢がある。

「テホン」の権化となることだ。

そのために日々努力を怠らない。

毎日校門での挨拶もその一環だ。


「おはよう!」


ある、一人のふくよかな男子生徒に向かい、いつもの挨拶をする。


「……」


無視。

これで彼は20連続達成だ。

以前から、要注意挨拶勢Aとマークしていた。

だから私は覚えている。


そろそろ締めねばと思い、教師は行動を起こす。

勿論、体罰が禁じられる世の中なので、それはしない。


「君! 挨拶は一日の大事な始まりだ。声を出しなさい!」


とりあえず、注意だ。


「……」


「おい、待て。君はどこのクラスだ! 後で呼び出すぞ?」


そして、脅迫だ。

と意気込んでいると……


「おはようございまーす、先生」


挨拶の声が掛けられた。

うん、努力が実るとはこのことだ。

実に喜ばしい。


……とまぁ、要注意挨拶勢Aが挨拶を返してくれればよかったのだが、

先の挨拶は別の生徒のものだ。


「う、うむ。おはよう!」


すぐに私は振り返り、挨拶をする。

この際注意は後回しだ。

模範たる教師が挨拶をしないとは具合が悪い。

そう思い、ゆったりとした動作で振り向く。

そこには、なんとも普通という言葉が似合いそうな生徒がいた。


「先生、実は昨日自転車を学校に置いて行ったんですけど、大丈夫なんでしょうか?」


なんだそんなことかと、教師は思う。

見かけによらず、チキン……もとい、奥手のようだ。


「大丈夫だぞ? ただ、何があったかは知らないが、あまり褒められたことではないな」


自転車にいたずらされるぞ? と注意をしておく。

勿論、次同じことをするようなら、脅迫だが。


「はい、気を付けます」


そう言って生徒は校舎に入っていった。

途中、あのAと何か話していたようだが、友好関係を勘ぐるのは憚ろう。


さて、挨拶の続きだ。

昨日は当直で早く帰って寝たので、私の元気はまだ衰えない。

いくぞ。


「おはよう!」




【00】





彼は思う。

奴さえいなければ、と。


何度も何度も祈り、

だが変わらない現実に絶望していた。

昔に戻りたいとも思っていた。

あの輝かしい過去へ……


だが、

祈っても仕方がない。

神なんていない。

結局現実は無常で、無情。


やり場のない怒りが起こる。

端的な結果論に縛られているのにも気づかず、

思えば無気力のままに彼は生きていた。


「いっそ死のうか」


何度思ったことか。

しかし彼は決断できない。

自分を殺す勇気さえないのだ。


「はぁ……」


その日、ゲーセンで幾らか溜息を吐いていると、

スマホに一件のメールが届いた。




『青年救済講座のお知らせ


χ/χ(χ)にIUTAS社本社ビル一階の特設会場にて開催。


《参加資格》

①学生である

②世界に希望を感じないモノ

③死にたいと思ったことがあるモノ


尚、このメールは自動配信であり返信は受け付けておりません。

加えて、本講座は極秘のものであり、他言禁止です。』




詐欺かよ……

こんな胡散臭い迷惑メールが来たのは初めてかもしれない。

彼は鼻で笑い、迷わずブロックと削除を___


「……」


IUTAS社と言えば、この町の大手企業。

元は貿易会社であったため、様々なコネを持つ大企業。

その手は各分野の隅まで伸びており、今やこの国の先頭に立っている。

その名前をこのメールは語っている。


そしてこの企業の凄いところは、パチモノを許さない事。

かつて某隣国がその名前を語った商品を市場に流した時、

IUTAS社は直ぐにその企業に赴き、黙らせた。

正確には、某国の裁判で罪を認めさせたのだ。

詳しいことは覚えていないが、当時のマスメディアが大きく報道していたのを覚えている。

曰く、

あのIUTAS社は喧嘩も買ってくれる⁉

多国籍企業、IUTASは不動だ!

政治家、国家に口出し出来る有数のトップ!

誇張しまくっているだろうが、

事実は事実。

そして今回こいつらはそのIUTASの名前を語る。


「本物?」


思えば、彼のスマホのメルアド登録者は0に等しい。

詳細は割愛するが、寂しいものなのだ。

メルアドを登録しているオンラインゲームの定期配信すらブロックする徹底さを誇る。

なのにこんなメールが届くなんて……ありえない。


まぁ、契約したところが漏らしたと言うならば話は別だが……

さて、長々と考える彼。


そこに1つの影が近寄っていた。












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