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第9話:列伝!和屋杏子!!(後編)



あれから、数ヶ月後。不良で、空手の部活ばかりしていて、成績不振で、男な女の昔の私はついに念願の大学に入学をした。



そう、私は推薦の大学を蹴り、母親と父親に怒られながらも、念願の大学に入れたのだ。



当時、高校の担任をしていた先生からは、奇跡だ、奇跡が起きたとか、仲の良い親友からはアンタ良く途中で投げ出さずに勉強したわね?とか言われた。



だが、当時の私にとって、そんな事はどうでも良いことだった。だって、当時の私の夢は何も大学に入ることでは無いのだ。私の次の目標、そう、将来の夢はその先にあるものなのだから。



全国的にも水準の高い、七草大学。海外からの先生や留学生も多く。社会的によく採用される大学の生徒No.1とまでされる優秀な大学である。スポーツも盛んで、割かし大会での優勝率は高いようだった。



「ん〜、でも、やっぱ、アンタよく途中で勉強投げ出さずに頑張ったわね?あたしゃ〜、嬉しいよ!小・中・高・大学とアンタと一緒に通えるなんて、うんうん、杏子、アンタ、本当によく頑張った!」



「いや、仁美に嬉しがられても…」



「なにおう!?この口か?そんなイケずな事を言うのは、この口かぁ〜?」



「あはははは、ちょっと、やめてよ。分かった、分かった、あたしも嬉しい、あたしもアンタと同じ大学で嬉しいから〜……っと、あっ!すいません、ぶつかっちゃって、大丈夫ですか?」



「ありゃりゃ、すいません、杏子がぶつかってしまって、お怪我はありませか?」



「ちょっと、仁美が言うことじゃ……あ……わ、和屋先生?」



「えっ?あ、杏子ちゃん!?」



この再会は神様のイタズラか、はたまた悪魔の成せる偶然か…。いや、実際、どちらでもない。確かに、大学に入って直ぐにこんな形で高校生の私から姿を消した旦那に再会出来たのは神様のイタズラか悪魔の偶然かのどちらかかもしれない。でも、その確率を上げたのは、そのきっかけを作ったのは、他でもない私自身であった。



旦那が私の前から消えた日。私は心の中で何度も何度も何度も誓った。絶対にあの人がいる大学に受かってやる、どんなに頭の良い学校だろうと、あの人がいるのなら受からなければならない。


恋する事を初めて知った当時の私はとても純粋だった。ただ、もう一度あの人に会いたくて、ただ、もう一度あの人に話しかけてもらいたくて。




意地っ張りな私は、旦那の家に行くなんて事は出来なかった。家も知らなかったしね。だから、旦那が通う大学に自分も通うようになれば…。




確率は天文学的数字になるかもしれない、いや、もしかしたら、確率の世界ではかなりの高配当で出逢えるかもしれない。



私はそんな思いを重ね重ね、七草大学に受かるよう勉強をした。時間が短く、投げ出そうと考えたこともあった。だが、その都度、聞こえてくるのだ。



『結婚しよう』



旦那が言ってくれたあの言葉。もう、あの人は忘れているかもしれない。実はただ最後の最後で冗談を言っただけかもしれない。そんな思いが頭を過るが、結局、当時の私は投げ出した参考書を机に戻し、黙々と勉強の続きをするのだった。



そして、遂に、遂に当時の私は愛しの旦那と再会した。時間にして数ヶ月。だけど、当時の私は、もう何年も何年も会っていないような錯覚に陥った。



「えっ?なんで、なんで、杏子ちゃんがうちの大学に?す、推薦の大学は…?」



「えへへ、ごめんなさい、先生。推薦の大学…蹴っちゃった!」



「けっ、蹴っちゃったって…。せっかく、苦労して手に入れた推薦だったのに…」


「でも、いまはその蹴っちゃった推薦の大学より、もっと頭の良い七草大学に合格したよ?」



「えっ、合格した?えっ、じゃ、杏子ちゃんは、この大学の新入…」



「先生が悪いんだからな!先生があたしにあんな事言うから…。本気にしたんだから、あたし、本気なんだから!!」



「ふぇ!?本気?な、何が…?」



「むっ、先生、殴るよ。いい、聞いてよ。もう、あたしは高校生じゃないし、先生の生徒でもない。つまり、あたしと恋愛したって……」



「っあ!?いや、いやいやいや、いや、待って!待って、待って、待って!あれは、えぇと、その……あっ!一時、そう、一時の迷いで、だから、そんな本気されても…」



「えっ?」



「杏子ちゃんも、もう大人なんだから、そこん所、ちゃんとわきまえ……ブギャッ!?」



まぁ、これが私が旦那に初めて、奮った鉄拳制裁だったかな。旦那のこのあまりにも腑抜け言葉に心底頭にきて、気付いた時には旦那の顔面に正拳突き。鼻血を放ち、旦那は真後ろにぶっ倒れる。その後の騒ぎは尋常じゃなかった、人が殺されただの、改造人間だの、過激派のテロ行為だの。



まぁ、結局、旦那が大学側に根回しか何かをして、私は事なきを得るのだが、当時の私はそんな事では気が収まらない。



大体、乙女にプロポーズしておいて、冗談だなんて、本当に冗談じゃない。私は旦那の家を調べて、突撃することに…。いやぁ、昔の私はなんて無謀……いや、希望に溢れていたんだろうねぇ。




「むっ、ここが和屋先生の家か……デカイな…」




いや、本当にビックリした。初めて旦那の家に行った私が見たものは、庭という庭が永遠と続くかのように広がった塀と、そのかなり奥にたたずむ有り得ないほど大きな家。なんと、旦那様のお家は江戸末期から続く大富豪の家系でらしたのだ。いや、マジ、驚いたね。




「むぅ、こんなん、あたしだって直ぐ建てられもんね。頑張れば、先生をお城に住まわせることだって出来るもん」




おおよそ、大学生とは思えない言葉。勉強はそこそこ出来るようにはなった当時の私だけど、社会的に経験の少ない当時の私はまだまだ心が子どもであったのだ。




「うんと、よいっしょ、つか、なんて高い塀だよ、侵入するのにも一苦労って…」




「いや、別に堂々とお客様として入って頂いて結構ですが?」




「うわぁっ!?あっ、あああ、アンタ誰?」


「私はこの和屋家に代々仕えます執事の中村と申します。それで、お嬢さん、和屋家にはどういったご用件で?」



「わ、和屋宗一郎先生に会いにきたんだ!」



「ご学友でいらっしゃいますか?」



「うえっ?あっ、えっと、その、ご学友って言うか、あの……うんと……」


「……、分かりました。では、七草大学ちかくのメゾン・カタナシの201号室に行くと良いですよ。この屋敷にはここ数ヶ月、宗一郎坊っちゃんは帰ってらっしゃいませんから……」




「えっ?なんで?だって、ここ和屋先生の家なんじゃ…」




「私の口から、それを言うのは憚れます。直接、ご本人から聞いて頂くと良いかと。それでは、失礼致します。……あっ、お嬢さんも早く行かないと警備の者がやって来ますよ。防犯センサーが動きだしました、いまの和屋家は少々、荒れていますからね……猫が屋敷に入っただけでセンサーが動く。さっ、後は私が適当に言い訳しておきますから、行ってください」



この時の旦那の家は色々と問題を抱えていたようで、父親と折り合いの悪かった旦那は、遂に家を飛びだしていた。その後も、色々と旦那と旦那の父親とはいざこざがあったのだが、とりあえずはそれは省いておこう。


さて、和屋家の執事・中村さんに言われて大学ちかくのメゾン・カタナシにやって来た私。あのドデカイ屋敷から、かなりグレードが下がってボッロボロのアパート。住んでいるのは、どうやら旦那以外、誰もいないらしかった。



「……ぼろっ。ん〜、201、201、201と……あった!和屋宗一郎……」




ボロい階段を上がって、やはりボロい二階廊下をちょっと進んだ所にある当時の旦那の部屋。私は深く、深く深呼吸をしてドアを叩く。



「………で、出てこない?てっ、ふざけんな!せっかく、あたしがあんな遠い屋敷にまで行って、それでこの大学ちかくのボロいアパートまで引き返して来たっていうのに、居ないってのはどういうことだぁーっ!?このっ、出てこい出てこい出てこい、出てこーいっ!!」



「なーっ!?うるさい、そんなにバンバン、ドアを叩かなくても聞こえてるよ!どなた!?」


「にゃあっ!?」


「………誰もいないじゃない?あん、イタズラか?」



「う…しろ。ドアの後ろを確認しろや、ゴラッ!?」



「ん、後ろ?……あっ!な、何をしてるの、杏子ちゃん?」



「とりあえず、アンタがいきなりドアを開けるから、モロ顔面にドアがぶつかった所かな……」



「そ、そう……」



「…………」



「…………」



最悪の再再会である。せっかく、当時の私がおもいきって旦那の家まで押し掛けに行ったというのに、顔面にドアは無い。しばらく、私たちの間を沈黙が支配する。そんな沈黙の中、先に口を開いたのは旦那だった。




「どうしたの、こんな夜中に…?」



「……どう…した?本気で言ってるの?」



「えっ?」



「先生、あたしに言ったよな!?好きだって、気持ちが抑えられないって、結婚…しようって……だから、だから、あたし頑張って、頑張って先生のいる大学に入ったのに!入ったのに!!……一時の迷い?なんだよそれ、馬鹿みたいじゃん、あたし……」



「………」



「………」



「……一時の迷いじゃないよ」



「っ!?そう言ったじゃん!?大学で久しぶりに再会した時、先生、あたしにそう言ったじゃん!?」



「いや、あんまり、突然だったから…」



「じゃあ、結婚……して、くれるの?」



「……ゴメン」



「なんで!?一時の迷いじゃないんでしょ?じゃあ、あたしのこと好きなんでしょ?あたしと一緒に居たいんでしょ?だったたら、あたしと!!」



「俺の家さ……」



「えっ?」



「俺の家はさ代々、金持ちの家系なんだ。でも、俺はそれが嫌いだった。父親は何が楽しくて、働いているのか。家庭をかえりみず、金、金、金、金!!それでも、実の父親だからさ、我慢してた。いつか、分かってくれる。いつか、振り向いてくれるって…。キャッチボールもしたことの無い、親子なのにだぜ?それでも俺は親父に父親を期待していたんだ」



「それと、結婚出来ないのと、どう関係あるの?」



「あるよ。ここ数ヶ月前、うちの会社が大きく傾いたんだ。他のデカイ企業が昔からふんぞり返っている和屋家が邪魔に感じたらしくてさ、いわゆる、潰しってやつさ。ははっ、会社じゃない、屋敷にまでバンバン電話が鳴りっぱなし、かなりヤバい状況だったかな。そして、悪いことは続くもんで、今度は母親が倒れたんだ。まぁ、精神的にかなり参ってたらしくてさ。それでも、入院をしないとならない位、重病で……」



「………」




「ここからが本題さ。入院した母親は、ご飯も食べずに、どんどんやつれていってさ。だから、俺は倒れた母親の見舞いに来て欲しいって、ちょっとでも顔を見せるだけでもいいって親父に頼みにいったんだ。そりゃ、会社が傾いて忙しい時期だって分かってたけど、父親なら、夫ならさ、普通は少しでも会いにいくはずだろ?でもさ、ははっ、そん時、親父はなんて言ったと思う?」




「なんて言ったの?」



「『役立たずに用は無い』ってさ…。そこで、俺はキレちまった。気付いたら、親父の襟元を掴んでボコボコにしてた訳さ。親父は血まみれ、警備員は騒ぐは、執事たちは俺のことを怖がるは…」



「……やっぱり、分かんない。なんで、それで、先生があたしと結婚出来ないって事になるの?」



「俺にもあんな親父の血が流れてるから。しかも、俺は親父を血まみれにしたんだぜ?きっと、俺もあんな風に君を傷つける。家庭もかえりみないで、夫らしいことも、父親らしいこともしないで……都合が悪くなったら力に飽かせて、君や子どもたちを傷つけるに決まってる。俺は怖いんだ。せっかく、作った幸せを自分の手で壊すことが……だから、君とは結婚できない。いや、俺は誰とも結婚をしない……」



当時の旦那は、父親を求めた所を裏切られ、そんな父親を自分の手で傷付けた事に後悔をし、重度の人間不信に陥っていた。可哀想なことに、明るく振る舞う中で心で哭いていたのだ。とても、切なかった。ニコニコと私に『自分はまともじゃないからさ』と笑いかけている当時の旦那。それを見て当時の私は、本当に心が締め付けられる思いになった。


「いいよ…」



「えっ?」



「和屋先生……うんうん、宗一郎さんが夫らしいことが出来なくて、父親らしいことが出来なくて、それを力に飽かせて正当化しようとしても、あたしはかまわない……」



「そんな、かまわないわけ…」



「だって、宗一郎さんがそんな腑抜けた事をしたら、あたしが逆に『顔面に一発』入れてやるもん!」



「………はっ?」



「コブラツイストだって、卍固めだって、フランケンシュタイナーだって、投げっぱなしジャーマンだって、バンバン大技をかけてやるもん。大丈夫、あたし強いもん!宗一郎さんなんて、力づくであたしの言いなりにしてあげる!それに…」



「それに?」



「あたしには分かる!あたしと宗一郎さんとなら、いい夫婦になれるって分かるもん。だって、だって、貴方は、あたしが好きになった人だから!!」



確して私の旦那捕獲作戦が実行されたのだった。大学でのストーカー行為……もとい、ラブアタック!は当たり前でボロアパートに押し掛け女房や夜這い行為まで!!



結局、私の既成事実作りに旦那が観念して私たちは付き合うこととなるのだが……まぁ、そこら辺は、さらに次回に続く(笑)



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